最悪
俺は激痛が走る腕を抑えるとそこにはあるはずの俺の腕がなくなっていた。
傷口は凍傷か何かの様に霜が出来て血こそ噴き出ていないが、痛みが徐々に肩口の方へ広がっていた。
「サハラ様!」
カイが駆け寄り俺を抱き起こすが、痛みでそれどころじゃなかった。
「じゃあな!サハラ、カイ。
これで俺は夢を叶えて見せるぜ!ハッハッハッハッハー」
スレイドの声が聞こえたがそれどころじゃなかった。
俺はカイに支えられ、残った腕の方をカイの肩に回してヴァリュームに引きずられる様に連れて行かれる。
異変に気がついたルースミアが城壁から飛び降りるように俺の元に来る。
「サハラどうした!何があった!」
「ルースミア様、今は治療が先です!フローズンデスで斬られてます!」
「何だと!こ…これは!
我の魔法では回復は出来ても腕は繋げられぬ」
「レイチェル様の所へ連れて行きましょう」
「ウム」
俺はガクンガクン揺らされながらルースミアに運ばれていった。
「サハラ!どうし…酷い。腕が…
[愛と美の神アーティドロファ]さま、サハラを助けて!お願い!」
切れた腕をカイが元あった場所にあてがう様に添える。
「う、くっ、いた…みが、おさまってきた。う、腕が…くっついた⁉︎」
「取り敢えずは大事なくなったか。
カイ、これは一体どういう事だ!」
カイは起こった事を伝える。
俺自身何が起こったのか分からなかったため、初めて聞く事だった。
つまりスレイドの奴は強さを求めていたところで、俺の強さの理由を知り腕輪が欲しくなった。
しかし同時にルースミアという危険な存在がいるため、すぐに奪う事が出来ず機会をうかがっていたが、今回のこの戦いで俺とルースミアが離れるという絶好の機会を与えてしまったわけだった。
俺はくっついた手を何度か確認する様に握りしめた。
何とか腕は治って会話は可能で助かったけど、もう杖術はダメか…
始原の魔術が頼みの綱か。
スレイドが腕輪を使わせてコマンドワードを探ろうとしていたのに気がつかないで、安易に目の前で騎士魔法なんか習得した俺がバカだった。
情けなくて涙が出てくる…
夜が明ける頃に騎士団と冒険者達が戻ってきた。
死んだ者も多少いたが10万はいたオークの軍団はほぼ壊滅し、ダークエルフも数十名始末できた様で大勝利を収めた様だった。
町中で勝利に酔いしれ勝どきの声を上げ喜び、また僅かながら戻らぬ人達に涙していた。
ギャレット率いる騎士団はまだ動ける冒険者を募り、反撃に移る準備に入っていた。
「サハラ君も無事だったか。
これから奴らの本拠地でもあるヴィローム奪還に向かうんだが…
スレイド君はどうしたのかね?」
俺はスレイドの裏切りをギャレットに伝えた。もちろん腕輪の事は黙っておき、代わりにカイの魔剣を奪い去った事にしておいた。
「なんと卑劣な!断じて許すわけにはいかない。
この戦いが終わり次第直ぐに手配し、捕らえて必ず罪を償わせると約束しよう」
嬉しい言葉だけどな、おそらくスレイドは腕輪の力を使ってギャレットの手には負えなくなっているだろう。
それに俺は仲間と思っていたスレイドに裏切られ、人を信じられなくなっていた。
「もう、どうでもいいさ」
「うん?何か言ったかね?」
何でもないですとだけ言ってそこで話を終わらせた。
ギャレットもヴィローム奪還の準備のため足早に去っていき、その準備に取り掛かる様だ。
「サハラ…大丈夫?」
心配そうにレイチェルが声をかけてきた。
「大丈夫。会話は出来るんだから腕輪がなくなったって問題ない。
ただ、もうなんかどうでもよくなってきたよ」
「奴を追わないのか?」
「追ってどうする?場所もわからないのにあてもなく探してまで腕輪を取り返す理由はある?」
「カイ姉さまのお父さんの形見のシミターを返してもらうの!」
「私は…サハラ様がご無事ならそれでいいです」
そうだった。俺は自分のことしか考えてなかった。カイは父親の形見でもあるシミターを奪われているんだった。
それなのに俺は…
「カイは取り返したいよね。形見だもんね」
「いえ、その私は…お父さんの剣を使って悪い事に使われたく…ないだけです」
理由はつけているが我慢している様だった。
「取り返そう」
そうだ。どうせ俺にはやらなきゃいけない事はない。だったらせめて奪われたカイの父親の形見の剣を取り返す手伝いはしないとな。
問題は居場所か…
しばらくして騎士団達から声が掛かりヴィローム奪還のため進軍開始となった。
ヴァリューム防衛には参加したが、正直奪還に参加する気分にならなかった。
とは言え行きたくないではいそうですかで済む世界ではないのも分かっている。
しぶしぶ俺はルースミア、カイ、レイチェルと後を追った。
「はぁはぁ、こ、行軍っていうか強行軍じゃない?これ」
「そ、そうですね。サハラ様大丈夫ですか?」
「はぁはぁ、マジでキツイ!」
俺は息を切らせながらついて行く。
ほとんど小走りで進んで行っている状態だ。疲労の中、中国大返しを思い出す。
「足軽達、はぁ、きつかったんだろうな。はぁ」
「足軽?」
「いや、はぁはぁ、俺の元の世界の、はぁはぁ、昔の話だよ。はぁ」
この強行軍は昼過ぎまで続き、そこでやっと休憩になった。
ルースミアは分かる。獣人族のカイも分かる。
何故かレイチェルは冒険者になりたてなのに俺よりも元気だった。
「サハラが体力なさすぎるだけ」
何も言えねぇ。
3時間ほどの休憩をするとまた行軍が開始される。
ついて行くので必死な俺は行軍の一番最後をなんとかついてきてる状態だった。
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