決意
酒場へ行き、出来るだけ人気の少ない隅の空いたテーブルに腰掛ける。
「もう料理はお終いなので、おつまみと飲み物だけですけどどうしますか?」
あれ?と顔を上げると40代ぐらいの女性が注文を取りに来た。
レイチェルの母親かなと思ったが、髪の色が茶色だったから別の従業員だろう。
「それじゃあ紅茶をください」
ちょっと待っててねとキッチンの方へ戻ろうとした時
「あれ?母さまが注文取ってくれたの?」
という声がした。
見れば今注文取った女性にレイチェルが近寄って、母さまと言っていたので間違いないんだろう。
あれ?確か店主も髪の色茶色だったよな?
ま、いろいろ理由があるんだろう。俺が気にする必要ない。
それよりも今後か。
「お待たせ〜って、あれ1人?
サハラだっけ、喧嘩はよくないわ?」
と紅茶を置きながら言ってきた。
なぜ俺の名を!
まぁ宿帳とかでわかるか。
「喧嘩はしてませんよ。
ちょっと考え事で1人でいるだけです」
「考え事なら私が相談にのるわ。
教えて?何考え事してるの?ん?」
うぇ俺は1人で考えたかったんだよ。
でもほっといてくれ!とか言う勇気ない。
「えっとですね。んー探さないといけない故郷に、帰るか帰らないかで迷ってたんです」
ボロが出ないように気をつけて話さないとな。
「故郷を探すの?
それって分からないって言うことなのかしら?」
「ちょっと説明しにくいんですけど、そんなところでしょうか」
「帰らなきゃダメ?」
「そうではないですね」
そう言うとレイチェルは人差し指を自分の顎に当ててンーと一言言うと
「アナタは故郷に帰れれば最高に幸せになれるの?
そこに素敵な未来は待ってる?」
それを聞いた瞬間俺は一瞬息が詰まった。
確かに元の世界に戻れたからと言って、別にやりたい事も無ければ将来も何も考えてない。
もちろん恋人なんかもいない。
レイチェルの言うように幸せも将来もなく、ただ戻って今までの社畜生活に戻るだけだ。
だが…
「だからと言って帰らないとしたら、俺は何をしたらいいかわからないんです」
こんな一回りも年下の女の子に諭されるとは思いもしなかった。
「何をしたらいいか分からないのなら、何かを探せばいいのよ。
アナタの人生の主人公はアナタなんだもの」
本当になんなんだこの子は。
でも簡単に言ってるが、その何かを探すのが難しいんじゃないか。
「なら夢は?やりたい事は?
ないの?」
「夢は叶わないものを夢と言うもんですよ」
レイチェルは顔をブンブン振って
「夢は強く思えばきっと叶うよ!
叶わない夢なんて寂しいだけでしょ」
そう言う年頃なのかなぁ。
やりたい事、か。
「ありがとうございます。
まだわからないけどやりたい事探してみますね」
「うん!
じゃあ最初の悩みはもう解決ね」
ニッと笑顔で言う。
あ、気がついたら元の世界に戻るの諦めて、これからを考えてたよ。
「やりたい事見つかったら教えてね」
そう言うと手をブンブン振りながら席を離れていった。
なんだか誘導されたみたいな気分だが…
でも俺はこの世界で頑張ってみるかな。
なんか呆気なく決まっちゃったなぁ。
そうと決まれば、あとは仲間をどうするかと俺自身の問題だな。
いつまでも腕輪に頼っていられない。
シーフギルドがある以上、盗賊に腕輪を盗まれる可能性もある。
そうなった時の俺は、杖術はおろかこの世界の言葉すらわからなくなる事になる。
対策としては言葉を覚える事だが、正直無理と言うか面倒くさい。
となれば、腕輪の力に頼らず自力で魔法を学んで最低でもルースミアが使っていた言語翻訳を使えるようになろう。
それにやっぱ異世界来たら魔法って使ってみたいよな!
明日早速冒険者ギルドで魔術師について聞く事にしよう。
この世界で生きていくと決めてスッキリとした俺は部屋に戻ると、ルースミアがベッドの上で半眠から目覚めて笑顔で迎えてくれた。
「思った以上に早かったが、決めたようだな」
俺の顔を見て何かしら感じ取ったようだ。
俺も笑顔で答える。
「うん、ルースミア、俺きめたよ。
まだ今後の目的も将来も夢も決まってないけど」
一呼吸おいてハッキリと宣言するように告げる。
「俺はこの世界で生きてみるよ」
第2章これで終わります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
第3章は少し時間を頂く予定ですが、1週間後までには更新できるように頑張ります。
また感想や要望など聞かせていただけたら幸いです。




