決断の時
日も落ちて暗くなってきている。
街は夕飯時を超えたころに門が閉じられるらしい。
フェガスはヴェンの遺体運びを手伝ってくれたお礼で乗せてやるだと。
乗せてやるかよ。
「フェガスさんはヴェンさんとは随分親しかったんですね?」
一応無言のままと言うのも居心地悪いため、社交辞令的に無難な話題を振ってみた。
「ヴェンは俺の幼馴染で、ヴァリュームで一緒に育ったんだ。
あいつは小さい頃から頭が良くてな、10歳になる頃にはウィザードを名乗れるぐらいだったんだ」
「ん?ウィザードを名乗るって?」
「オメーそんなことも知らないのか?
まぁ俺も詳しくはないけどよ、魔法を使えたらウィザードらしい」
魔法使えたらウィザードって当たり前だろ。
つまり魔法を使えるようになるのは結構難しいってことだろうな。
「でよ…」
失敗した!
なんか延々とヴェンの過去話し始めやがったよ。
ちなみにそろそろ戻ってくるかもしれないとフェガスは迎えに来ていたらしい。
俺は適当に返事をして馬車移動を苦しんだ。
いい加減だるかった俺はタイミングを見計らって話題をカイの今後について聞いてみた。
「そう言えばカイさんに今後は自分で考えろって言ってましたよね?
あれってどういう事なんですか?」
「どういうって、あいつ奴隷じゃん。
奴隷は主人が亡くなったら、奴隷解放の遺言でもない限り無所属奴隷になるに決まってるだろ?
そうなったら、働き口は奴隷には与えられないから奴隷商人のところに戻って新しい主人に買ってもらうか。
死ぬしかない」
「冒険者になればいいんじゃないですか?」
「バッカだなぁオメー、奴隷に人権になるような冒険者証出すわけねーだろ」
いちいち間に触る言い方しやがって。
でも拾える情報はあったな。
奴隷商人のところか自殺か、こういう時無駄に優しい気持ちで俺が主人にとか思うんだけど、俺の目的はあくまで元の世界に戻ることだからな。
安易に手を差し伸べて、いざ帰れるからポイは流石にできない。
うん、後でルースミアに相談してみよう。
そうこうしているうちに街に着いた。
馬車から降りて礼を言う。
「ありがとうございます。
おかげで楽できました」
「律儀だなぁあんた。
なーんかちょっとだけそういうとこヴェンに似てるよ。
そうそう、俺んとこ小さいけど料理屋やってんだよ。
売上貢献に来てくれや」
ふーん、ヴェンって律儀なんだ。
だが俺の場合、残念ながらただの社交辞令だよ。
しかしちゃっかり店の紹介かよ、まぁ気が向いたら行ってやるか。
「その時は是非伺わせていただきますね」
おう、と答えるとフェガスは馬車を走らせた。
走り去る馬車を見送った後レッドエンペラードラゴンインに向かう。
「腹が減ったわ」
そうルースミアが呟く。
宿に着いた俺たちは食事を取りにそのまま食堂兼酒場へ行き、そこですざましい光景を目にする。
「はい、どうぞ召し上がってね。母さまの料理は美味しいんだから。
こ〜ら〜そこの人達、陽気な酔っ払いは好きだけど酔っ払って喧嘩する人は私嫌いよ!
え?今度食事に?うん。いいえ。どうしよう?父さま〜」
見事な客捌きをしていた。
なんと言うか、この宿の酒場が人気なのは彼女の看板娘の能力ってやつだな。
元気で明るくて可愛いと思うよ。
確かレイチェルだったっけか?
肩までの金髪で特別綺麗とか美人じゃないのに何か惹き付ける力があるんだよな、これがカリスマ性なのかね。
っとぉ!
「みーつけた!
昨日の恋人のお2人さんね。
今すぐ料理持ってくるけど、お酒はどうする?いる?いらない?ん?」
うっはあぁぁテンション高ええ
「えっと、紅茶にしておきます」
「はーい」
ニマッと笑顔で敬礼みたいなポーズをすると急ぎ次々と注文や後片付けをしている。
ルースミアはルースミアで恋人扱いにすこぶる笑顔だよ。
しばらくしてハイテンションで料理と紅茶が持ってこられ食事を済ませた。
味は言い忘れたが、まぁ実のところ正直普通だな。
ルースミアは凄い勢いでバクバク食べていたけどね。
気がつけば酒場でレイチェルと一緒になって歌う者達で賑やかさが更に増していた。
そのテンションについていけなかった俺は、ルースミアを引っ張るように宿の自分達の部屋に戻った。
一息ついた後、俺は早速ルースミアに相談してみることにした。
「ルースミア、相談があるんだ」
俺の真剣な表情を見て取ったのか、ベッドに腰掛けて聞く姿勢を取る。
「言ってみろ。
主のことだからどうせあの下婢の事であろう?」
「あ、うん。それも相談の1つだね。
実は今後の事でね、このままルースミアと2人で行動した方がいいのか、それとも仲間を作ってパーティ組んだ方がいいのかってね」
「なるほど、それぞれの利点と欠点を言ってみろ」
正直言うとこの相談のルースミアの答えは分かっている。
分かっているが聞いてもらいたい、そんな状況だった。
「ルースミアと2人なら身バレし難くルースミアも全力で戦ったり出来るけれど、バルロッサみたいなのが敵だったりした場合、正直俺は足手まといになると思うんだ。
そんな時仲間がいればそういう時も助け合っていけるけど、ルースミアの正体と俺自身のことも簡単には言うわけにはいかないよね。
後は何より俺が元の世界に戻る方法が分かったからといって自分勝手にサヨナラは俺には出来ない」
後はルースミアの新たな住処探しだってあるしな。
「では1つ聞きたい。
サハラ、主は何故そうまでして元の世界に戻りたいのだ?」
「それは…」
決まってんだろ。俺の貞操をお前に奪われ…って、あれ?
そういや俺は社会人になって間もないうちに立て続けに両親無くして、兄弟もいないから身寄りももう無いんだった。
って事はそうまでして戻る理由って…ルースミアの事だけか?
いや、充分な理由だけどさ、人の姿になってるルースミアは超のつく美人で好意を持たれてて、あれ?俺なんか毒されてきてるのか?
「戻りたい理由が無いのなら、この世界で生きたらどうだ?
それに戻る方法を探すのでは無いなら、危険な場所へ行ったり神々と接触する理由もない。
それに我も主と人の暮らしというのを少し味わい楽しいと、これもアリかと思い始めているのだ」
確かにそうだ。
バルロッサの言ったように元の世界に戻る方法を探す場合、おそらく神との接触は必須になるんじゃないかと思う。
でも、戻る事を諦めてこの世界で生きる事を選択すれば、そう危険な場所へわざわざ行く必要もなくなる。
「今すぐに答えを出す必要はない。
じっくりと考えて決めるといいだろう。
ただし、あの下婢の事は諦めた方がいい」
え?っとルースミアを見る。
「おそらくあの下婢は明日にも死を選ぶだろう。
主がそれまでに元の世界に戻るのかそれともここで生きるのかの答えを出し、尚且つ仲間を作るのかを決めるには時間が足らないないだろうからな」
頭痛くなってきたよ。
「少し1人で考えさせて」
俺はルースミアにそう言うと1人酒場に向かった。
後1話夜までに更新します。
それで第2章終わりです。
よろしくお願いします。




