第10話 獣宴<聖句奏上>
3月20日 夜
オークウッド家 敷地内 正面広場
武装神官イーリスは、その玉貌を激情に染めて屹立していた。
人の背丈ほどもあろうかという、十字架を模した大銀槌を、やおら緩やかに持ち上げる。
十字架の下部から伸びる長い柄を両手でしっかと支えながら、引き絞るように振り被った。
「 This must be God's will(此は主の御導き也). 」
その聖句と同時か、それより速く、聖なる乙女は地を蹴った。
小さく呟いた、神霊術は『大祝福(ブレスⅡ)』の詠唱をその場へ置き去りにしつつ。
夜闇に溶ける黒いカソックを風圧ではためかせ、放たれた矢の速度で一直線に突撃した。
敷地内への入り口から正面玄関前までの10メートル強という距離が、瞬く間に埋められていく。
凍える群青の瞳から伸びる視線は、敵を真っ直ぐに貫いていた。
「……ッ!? シャーロットぉッ!!」
イーリスが第一攻撃目標と見なしたのは、人狼たちの仮初の主であろうと目される魔術師スチュワートであった。
やや遅れてそれに気付いたスチュワートは、最も制御しやすい最年少の人狼少女に向け、自身を守護せよという旨の声無き命令を飛ばす。
「せぇ……あッ!!」
「グルルッ……!?」
どぉん、という鈍い音が辺りに響いた。
高位神霊術で高めた筋力をもって振るわれた大銀槌は、しかし。
こちらも満月の魔力で身体能力を向上させたウェアウルフに受け止められていた。
「イーリスさん! 危ない!!」
神霊術によって強化された筋力とはいえ、満月の人狼と力比べができるほどではない。
このまま若きシスターは組み伏せられて引き裂かれる。
メアリがそんな惨状を想像して叫んだ、その時。
ジャキン、という金属音が鳴った。
「ガオッ!?」
大銀槌を受け止めた人狼が、何かに慌ててそれを離した。
人狼はよほど驚いたのか、やや離れて身構える。
その理由や如何にと、メアリが視線をやれば──
「この聖具は、殴るだけではないのでな」
──打撃面から、鋭い杭を生やした大銀槌が目に入った。
この十字架に長い柄を取り付けたような大銀槌は、ただ鈍器として使われるだけのものではなかった。
十字架状の槌部分には、一方に飛び出し式の銀の杭が仕込まれており、手元の操作で出し入れが可能な機構になっている。
また、十字架上部には白木と銀製の杭が二本格納されており、その下部は弾丸の薬莢のような構造で、打撃時の衝撃によって内部の炸薬に点火し、命中と同時に対象に再度食い込む。
槌の打撃面のもう一方には、この炸薬衝角を嵌め込むための窪みがある。
さらに、石突部分、つまり柄尻には、およそ300ミリリットルの聖水も忍ばせてある。
人間よりもはるかに強靭かつ危険な人外に対するために作られた特殊武器。
唯一神教の武装神官が用いる、一線級の複合兵装であった。
「ご助力に感謝を──踏み込みます!」
これを好機と見たか、グレゴリーが前に出た。
ホリンもそれに追随し、乱戦に身を投じる。
一瞬遅れはしたものの、メアリもまたこれに続いた。
「神妙にせよ、スチュワート・パターソン!!
この館は唯一神教によって、常時監視されている!
じきに捕縛部隊が到着する! 抵抗は止め、大人しく縄につけ!!」
(えっ……? 監視?)
夜の静寂を切り裂くが如きイーリスの怒声が響いた。
その事実を知らなかったメアリは、一瞬だけ足を止める。
が、人狼の爪と牙が暴れ狂う乱戦にあっては悠長に黙考などできるはずもなく、胸に生まれた小さな澱みは抱えたまま、すぐさま奮戦するグレゴリーとホリンのフォローに戻る。
「寝言は寝テ言えッ!! 新たナ魔術の探求は国家の義務! 人類ノ崇高ナる使命だ!」
「戯言をッ! 無辜の亜人を巻き込み、あまつさえ幼き命を奪わせた暴挙!
これを崇高などと呼ぶものか!! 言の葉まで貶めるな外道め!!」
「失われた秘法に近づクための我が研究ヲッ! そのヨうな些事が妨げていいはずガないわッ!!」
「……これを些事と呼ぶなら、貴様の生そのものが些事だ!!」
もはや許さぬとばかりに、イーリスは大銀槌を構えるや、独楽のように回転しながらの一撃でスチュワートを狙う。
しかしそれも間に入った人狼が防ぎ、スチュワートには届かない。
忌々しげに眉根を寄せたイーリスは、武器を奪われまいと神霊術を行使する。
「 God gave us light(主は我らに光を与え給もうた). 」
「グルゥッ!?」
「ぬ、グ……小癪な!」
イーリスが片手で宙に描いた聖印が閃光を放った。
聖霊光の輝きが中庭を白く染めたのは1秒の半分ほどであったが、人狼たちの目を焼き、暫時動きを止めるには充分である。
「ピギャー!! 目ガ、目ガァアアア!!」
が、そこに意外な巻き添えを被った仲間がいた。
妖精とは別に、悪霊としての側面を持つジャック・オー・ランタンであった。
聖なる光という属性をもつ聖霊光の神霊術は、ランタンにも少なからず影響があるのだ。
ふわふわと宙を遊弋していたランタンは、聖霊光を浴びて硬直。
ごちーん、と鈍い音を響かせて墜落、地面の上を転がった。
「いけないっ……!」
メアリはぼやけた視界のまま慌ててランタンの落下地点へ全力疾走した。
ふらつく人狼に危うく踏み潰されるところだったランタンを抱えて横っ飛び。
次いで乱戦から一時離脱して安全を確保した。
「ら、ランタンくん、大丈夫?」
「オウ、済マネエナ小娘……ヤイ! 気ィツケヤガレ、コノ堅物石頭シスター!!」
「……野菜が頭の悪霊に言われる筋合いは無いッ!!」
売り言葉に買い言葉を返しつつ、イーリスはメアリのすぐ隣に陣取った。
奇襲にて大将首を狙わんとしたのが失敗した今、保護対象の護衛を優先したのだ。
この状況判断と切り替えの速さは、地味ながら確かな実戦経験が窺える。
うら若き乙女でありながら、名の知れた武装神官というのも頷ける一面であった。
「イーリスさん! 来てくれるなんて……!」
「呼ンデネーゾ、テメーナンカ!」
「これが私の仕事だ! 気にするな! あとカボチャは黙ってろ!」
「あの、応援が来るんですか!?」
「私をここへ寄越したのはヘルメス神官長だ! あの方なら詰めを誤ったりしない!」
「……はい!」
イーリスの頼もしい言葉を聞きながら、メアリは改めて己を奮い立たせる。
たとえ持久戦が不利とはいえ、やがて援軍が来るのなら話しは別だ。
イーリスが対するは、男の人狼。
メアリが対するも、男の人狼。
グレゴリーが対するは、女の人狼。
そして、オリビアとホリンとランタンが、チームを組んで残った女の人狼に対しつつ、後方のスチュワートに睨みを利かせている。
これで数の上でも互角になった。
この布陣は、イーリスの大銀槌による攻撃範囲が広く、味方も巻き込みかねない上に、即席の共闘においては、部外者の彼女が連携をとり辛いだろうという事情を鑑み、それならば、比較的自由に動ける状況を作った方が有効なはず、といった、指揮官たるグレゴリーの判断によるものであった。
よって、戦線を維持するだけで精一杯の集団攻性防御は停止。
以降はこの、変則式のワン・オン・ワン&マン・ツゥ・マンが有効に機能することになった。
だが──
「グォアアアッ!!」
「んもう、しぶといなぁ……っ!」
──満月の人狼は、それでもなお怯まない。
彼らウェアウルフは、倒れ伏すを良しとしない。
「くそっ……! 狂った亜人とはいえ、巻き込まれただけの一般市民を殺めるわけには……!」
「ダカラッテ手加減デキル相手ジャネエダロウガヨッ!? ドースンダヨ!?」
「どれほど有効打を叩き込んでも、こうも回復が速くては……進退窮まって参りましたな」
自動車を横転させるほどに強烈なイーリスの大銀槌も。
満月の恩恵を受け、彼ら人狼にひけを取らないメアリの爪牙も。
グレゴリーの巧緻にて苛烈なる東国僧院拳法の秘伝をもってしても。
受けた傷はダメージとともに凄まじい速度で回復し、無尽蔵の体力で攻勢を緩めない。
もともと狼の狩りの方法とは、爪と牙に頼ったものではない。
それらが強力な武器であり、決め手となるのは勿論だが、その真価は別にある。
狼の狩りにおける最大の武器。それは持久力である。
種類にもよるが、最高速度の時速70キロ強で追跡すれば、約20と数分。
速度を半減した継続追跡走行ならば、驚くべきことに、一晩中でも走り続けていられる持久力を誇るのだ。
これは大平原など、追跡が比較的容易な、遮蔽物や障害物の少ない地形や川などが無い場合の話ではあるが、彼らの持続運動量の凄まじさは充分に伝わるものと言えよう。
獲物を直接殺傷する一番の武器、牙が役目を果たすのはその後だ。
執拗な追跡に、疲弊し切った獲物が逃亡速度を落としたその時こそ、群れ全体が殺到して仕留める。
狼は足で獲物を狩る。そう評しても過言ではない。
ならば、人間も狼も超越するウェアウルフはどうかと問えば。
「月さえ……月さえ出ていなければ……!」
計測能力の上では、満月のウェアウルフは、全力走行でこの星を一周できるとまで言われる。
メアリが吐いた弱音など意に介さず、満月に滾る狼神の血が、傷と疲れを際限無く癒す。
狂った精神で恐怖心や危機感を麻痺させた彼らは、それこそ死ぬまで──相手か自分が命果てるまで、戦い続ける。
「がっ……!!」
「キャンッ!?」
そしてついに、奮闘していた仲間たちに、負傷者が出始める。
「グレゴリーさん!? ホリンっ!?」
グレゴリーは捌きを誤り、唸る豪腕の先端に光る爪の一撃を右肩に受け。
ホリンはその巨体を抱えられ、鋭い牙を身に浴びた。
「……ちッ!」
メアリの悲鳴を耳にしただけで状況を把握したイーリスは、再び聖霊光を行使。
眩い閃光で一瞬の隙を作り出す。
「ギャー!」
またも巻き添えを受けてごちんと地に落ちたランタンを尻目に、イーリスは独楽のように回転しながら、速力と遠心力を込めた大銀槌の一撃を目の前の人狼に見舞ってたたらを踏ませた。
そのまま一時退避し、グレゴリーに相対していた人狼にも同じ一撃を叩き込み、次いで、ホリンを抱えていた人狼の、足の指の上に槌を落とす。
「ギャヒッ!?」
「……離れろっ!!」
たまらず食い込ませた牙を離した人狼へ、メアリが強烈な蹴りを放って吹き飛ばす。
そうして生まれた隙に、使用人たちは改めて正面玄関の前に集結した。
ちなみに、転がっていたランタンはオリビアが抱えて連れてきた。
「──……!」
「悪イナ、オリビア! 畜生、アノ無茶苦茶シスターガ!」
イーリスを加えたオークウッド家の使用人たちは、ここで再び襲撃者たちと睨み合う。
「往生際が悪イ……! 我が使い魔どモとこれダけ渡り合ったのは賞賛に値すルが、いい加減にクタバらんかぁあああッ!!」
「……黙れ下郎がッ!! 独り善がりの勝手な理屈で多くの非道を犯した屑めッ!!」
唾を飛ばしながら喚くスチュワートに舌鋒で返しつつ、イーリスは自分の行動に胸中で驚いていた。
成り行きとはいえ、彼女が守るべき護衛対象以外を案じた己の行動に。
彼女は自分を人間至上主義──と、思い込んでいる。
今まで身を投じた武装神官としての少なくない任務において、無関係の人外はすべて無視するか切り捨ててきた。
真実は、自身も気付いていない、自身の経験からくるとある理由によるものだが、彼女がそれに気付くのはもう少し後の話であった。
小さな動揺は、しかし表には出さず。自己の分析は事が済んでからでよしと、諸悪の根源からは目を離さない。
「執事、番犬、負傷したのなら下がれ」
「なんの、まだまだ……これしきでイモを引きはしませんぞ」
「……ワゥ」
「だ、だめですよ! あとはわたしが頑張りますから! 応援が来るまでくらい……!」
「ボケェ! 死ヌ気カ小娘!」
メアリがまた無茶なことを言い出した。
本音が悪霊と被ったイーリスは、一瞬だけ複雑そうな表情を作った後、十字の大銀槌を目前でくるりと回し、言霊を乗せて神霊術を行使する。
「 God gives help to us(主は我らに救いの手を差し伸べたり). 」
やおらイーリスの足元から淡い光が生まれ、半径5メートルほどの円形に広がる。
その光は一行を包み、輝く小さな粒子が蛍火の如く揺らめき始めた。
「イーリスさん……? これって……」
「おお……これは……ありがとうございます」
光の粒子は一行の傷ついた部位に集まり、一瞬煌いて消えていく。
グレゴリーの右肩から、ホリンの首下から、メアリの手足に刻まれた小さな裂傷の数々から、痛みと痺れが引いていく。
見れば傷口が薄い光の膜で包まれ、出血を止めたばかりか、僅かずつ癒えてすらいた。
「小範囲治癒促進だ……いくらかはマシだろう」
低位の神官では行使できない治癒促進の神霊術であった。
メアリの問いに答えながら、イーリスは胸中でまたも自問する。
神の癒しの奇跡が人間以外にも効果を及ぼす。此はいかなる事実であろうかと。
唯一神教内における一部の過激派、通称『選別派』はこう説く。
主の説きし愛は人間と自然なる物のみなれば、外れし邪と魔は例外なく滅するべきである、と。
その『外れし邪と魔』とやらには、知性ある無害な人外の民も含まれている。
だが、ヘルメスをはじめとする引退した武装神官の中には、其は暴論なりと反論する者も少なくなかった。
神教内部の古参勢力であり、その定義故に武装神官も関係は浅くない。
むしろイーリスは積極的に『選別派』と関わり、現在の地位と力を得るに至った。
その恩義、というか義理は消し難く彼女の胸にあり、自身の『過去』も手伝って、かの暴論を積極的に否定する気はあまり起きない。
だが。だが、しかしだ。
神の奇跡はこうして人も人外も等しく癒すという事実は──
ぺろり。
「ひうっ!?」
イーリスは自分の手を不意打ちに撫でた、湿った何かの感触に奇声を上げて硬直した。
「ばっばばば、番犬ッ!?」
「ホリンも礼を述べておりますな」
「あはは……」
「──……」
「ケケケ、今ノツラァ傑作ダゼ!」
「……う、うるさいぞカボチャ!!」
言葉の代わりに犬らしい親愛の行為で感謝を示したホリンに、イーリスは先刻までの思考が空の彼方へすっ飛ばされた。
ホリンは驚いた様子のイーリスに小首をかしげて「……ワウ?」などと小さく唸っていたりする。
ポーカーフェイスを崩されたイーリスは、前方で喉を低く鳴らす人狼に向き直った。
いささか緊張感に欠けた一幕ではあったが、良い具合にリラックスできた自分に、釈然としないものを感じながらも。
「貴ィ様らァ……この期に及んデ、なお私を愚弄スるかァ……!!」
改めて戦況を見れば、事態は切迫している。
敵は全員健在。味方は負傷者が出た。しかも戦線を支える前衛から2名も、だ。
味方の表情からは余裕がすでに消えている。
もはや援軍の到着を待ってはいられない。
イーリスはそう判断するに至った。
「……許せよ、亜人たち。その魂に救いがあらんことを」
手元を操作し、大銀槌の打撃面に仕込んだ鋭い杭を伸ばす。
かくなる上は已む無し。それは命を奪うも考慮に入れるという決断だった。
「無駄だァ! 唯一神教の飼い犬がァ!! 我が術式によっテ生まれた使い魔に、まだ勝てる気デいるかァ!!」
スチュワートはそんなイーリスを嘲弄するかのように、殊更に大声で言い放つ。
ぎしりと噛み合せた歯を鳴らしたのは、味方の誰であったか。
「まあイい……煩瑣な諸事は増えルばかりデはあったが、実験の成果と考えれバ悪くは無い……」
真円を描いた月は変わらず空にあり、人も魔も隔てなく照らしている。
澄ました顔で冴え冴えと輝く夜の女神は、ただ人界を見下ろすばかり。
「我が知ハここに至れりィ!! いと高き天の御座に届キ、そシて──」
「──太陽を望んだイカロスのように、地に堕ち果てるのですよ」
突如割り込んだ涼やかな声に、その場の誰もが視線をやった。
「何が至れりですか。満月の下では圧倒的な戦闘能力を誇るウェアウルフを隷下におきながら、その制御方法は力を削ぐばかり。満足に使い魔の力を活かす事もできず、実験と称して没義道を誇るばかりとは、まったく……呆れてものが言えません」
吐いた言葉とは裏腹に、辛辣な物言いを投げつけた人物は、人外の使用人たちが仕える主。
今は警察署にいるはずの、アルバートであった。
「貴様ァアアアッ!! アルバート・オークウッドォオオオッ!!」
「御機嫌よう、スチュワート教授」
いつものように地味なスーツをきっちりと着こなし、首元まで締めたネクタイが生真面目さを醸している。
しかしその麗容に剽げた空気を纏わせて、アルバートは慇懃無礼な一礼をして見せた。
「アルバート様……!?」
「若様……来て下さいましたか」
「メアリ……また無茶をして。眠り酒は飲まなかったんですね?
グレゴリー、よく持ち堪えてくれました。本当に、あなたには頭が下がります」
先ほどとは打って変わった柔らかな物腰で、メアリとグレゴリーに優しげな言葉をかける。
その変わりぶりは、いっそ豹変と言えようか。
「オリビア、ホリン、それにランタン君も、無事でよかった。
……シスター・イーリス、ご助力に感謝致します。間に合ったのは貴女のおかげだ」
普段のイーリスであれば、ここで酷薄な言葉をもって返したであろう。
しかし彼女に言葉はなく、ただ呆然として立ち尽くしている。
(いつだ……?)
胸奥に浮かんでざわめくそれは、疑問と警戒心。
イーリスは全身を走る悪寒にも似た何かで、知らず身を竦ませる。
アルバートが現れたのは唐突すぎた。突然すぎた。
それこそなんの気配も、石畳を踏む足音も無く、だ。
不意を突かれたにしても、不自然なほどに、だ。
ただ『最初からそこに居たように』現れたのだ。
(奴はいつ、いつここに、どうやって現れた……!?)
この状況で一人危機感を募らせながら、答えの出ない自問を繰り返す。
そこへ、敷地内への入り口に車が一台到着した。アーネストが運転するオークウッド家の高級車だ。
「間に合ったみたいですぜ、神官長」
「どうやらそのようだな」
運転席から降りて、後部座席のドアを開けるアーネスト。
乗っていたのは誰あろう、ヘルメス神官長であった。
「ヘルメス神官長……!? 援軍は……!?」
「連れてきたさ」
人狼たちを挟んで向こう側のヘルメスに、イーリスは大声で問いかける。
それに対するヘルメスの返答は、実にあっけらかんとしたものだった。
「……ヘルメス神官長」
「うむ」
狂った人狼4人と危険な魔術師を前にしながら、アルバートは振り向かずに伺いを立てる。
銀縁眼鏡の老神官は、小さく頷きを返すと、その背中に命令を投げかけた。
「唯一神教ゲイルニッジ教会『固有兵力』アルバート・セス・オークウッド。
全目標を無力化せよ。大神官ヘルメス・リベラトーレの名に於いて──」
ヘルメスはゆっくりとその手を伸ばす。
その手に月光を反射して輝くは銀の十字架。
告げられた言葉は、修羅場にあって、なお厳かに。
「──『変身』を、許可する」
「Sir yes sir. ──Amen」
『命令』が、告げられた。
- 続 -




