第4話 基礎魔法学校に一緒に通い始めたけど、セシリアの天然な失敗と笑顔に毎日心臓が持たない件
熱病から目覚めて一週間が経った。
今日から、俺とセシリアは村の基礎魔法学校に通うことになった。
「レインくん、準備できた? 遅刻しちゃうよ!」
朝早く、セシリアが玄関先で元気よく手を振っている。 いつものシンプルなワンピースに、エプロンを外した姿。髪には小さな白い花を一つ挿していて、それが朝の光に映えて可愛らしい。
俺は軽くため息をつきながら外に出た。
「……お前、毎朝こんなに元気だな」
「だって、レインくんと一緒に学校に行けるんだもん! 楽しみで仕方ないよ。」
セシリアは屈託なく笑い、俺の腕に軽く手を絡めてくる。 この距離の詰め方に、まだ完全に慣れない。
村の中央にある小さな学校までは、歩いて十五分ほど。 道中、セシリアは嬉しそうに話しかけてくる。
「レインくんは昔、体が弱かったから学校を休みがちだったよね。 だから今日は私がしっかりサポートするね! わからないことがあったら何でも聞いてよ。」
「…………ああ、頼む」
(実際は、この世界の魔法の知識なんてほとんどないんだがな……)
基礎魔法学校は、貴族の子も平民の子も一緒に学ぶ小さな施設だ。 一つの教室に二十人くらいの生徒がいて、先生は優しそうな中年男性一人。
教室に入ると、周囲の視線が一気に集まった。
「お、レインじゃん。熱病から回復したって本当だったんだな」
「セシリアと一緒に来てる……なんか雰囲気が変わったよな?」
セシリアはそんな視線など気にも留めず、俺の手を引いて窓際の席に座らせた。 自然と隣同士になる。
授業が始まると、先生が簡単な属性魔法の基礎を説明し始めた。
「今日は風属性の初歩、軽い風を起こす練習だ。みんな集中してな」
セシリアは真剣な顔で手を動かし始めたが……。
ふわっ。
彼女が作った風は、なぜか自分の髪をふわっと持ち上げてしまい、花が一つ落ちた。
「あ……!」
セシリアは慌てて花を拾おうとして、手元のノートを倒してしまう。 その拍子に隣の俺の肘に軽くぶつかった。
「ご、ごめんねレインくん! 私、魔法がちょっと苦手で……」
彼女は真っ赤になって縮こまる。 その様子があまりに可愛くて、俺は思わず小さく笑ってしまった。
「……大丈夫だ。俺もそんなに上手くないから」
本当は、無限に近い魔力を持っているので、風など簡単に起こせる。 でも、目立たないように軽く手を振って、セシリアの落ちた花をそっと浮かせて彼女の髪に戻してあげた。
セシリアは目を丸くした。
「わあ……レインくん、すごい! 熱病の後で魔法の才能が開花したって本当なんだね!」
周囲の生徒たちも少しざわついたが、俺は肩をすくめて誤魔化した。
「たまたまだよ」
♢
休み時間になると、セシリアは自分の籠から小さな包みを取り出した。
「はい、これ。朝早く起きて作ったんだよ。レインくんの好きな具を入れてみた!」
中身はシンプルな野菜とチーズのサンドイッチ。 一口食べると、素朴だが優しい味がした。
「……美味しいな」
「本当? よかった!」
セシリアは目を細めて嬉しそうに笑う。 その笑顔を見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
♢
午後の授業は実技中心だった。
セシリアはまた小さな失敗を繰り返し、そのたびに俺の袖を掴んで「ごめんね……」と謝ってくる。 その仕草に俺は心の中で何度も毒づいた。
(くそ……毎日これじゃ心臓が持たない)
♢
授業が終わった後、セシリアは俺の腕を軽く引っ張った。
「レインくん、今日は一緒に帰ろう! 途中で森の小道を通って、きれいな花が咲いてる場所があるんだよ。見に行かない?」
「……ああ、行こうか」
二人は村の外れの森の小道を歩いた。
木漏れ日が差し込む道。セシリアは俺の隣を歩きながら、時々花を摘んでは俺に見せてくる。
「この花、きれいでしょう? レインくんに似合うかな?」
彼女は冗談めかして俺の耳元に花を近づける。 その瞬間、甘い花の香りとセシリアの髪の匂いが混ざって、俺の理性が少し揺らいだ。
(……やばい。この子と一緒にいると、頭がぼんやりする)
小道の途中で、セシリアがふと立ち止まった。
「レインくん……最近、本当に変わったよね。 明るくなって、優しくなって……でも、私のことはちゃんと覚えててくれてる?」
彼女の瞳が少し不安げに揺れる。
俺は迷わず頷いた。
「ああ、覚えてる。 お前が俺の側にいてくれること……ちゃんとわかってるよ」
セシリアの顔がぱっと明るくなった。
「うん……! 私も、レインくんと一緒にいるのが一番楽しいよ。 これからも、ずっとこうしていたいな。」
その言葉に、俺は静かに頷いた。
( セシリアが笑ってるこの日常を守りたい。これしか俺の中にはなかった)
「レインくん、明日も一緒に学校行こうね!」
「……ああ、約束だ」
俺はそう答えながら、心の中で静かに誓った。
この穏やかな日常を、絶対に壊させはしない。




