第10話 二度の刺客を乗り越えて、セシリアと穏やかな日常に戻れた。
シオンを倒してから五日が経った。
村はいつも通りの静けさを取り戻していた。
誰も、夜に何が起きたのかを知らない。
俺は準男爵家の庭で、セシリアと並んで座っていた。
午後の柔らかな日差しが、彼女の栗色の髪を優しく照らしている。
「レインくん、今日は一緒にハーブを育てようね。この前、レインくんが元気にしてくれた場所に、新しい苗を植えたいの。」
セシリアは小さな籠を抱え、楽しそうに笑う。
最近、彼女は俺の側を離れなくなっていた。
刺客事件の夜に感じた不安が、まだ少し残っているのかもしれない。
「……ああ、いいよ。セシリアが植えたい場所でいい。」
俺がそう答えると、セシリアは嬉しそうに俺の袖を軽く掴んだ。
その仕草が自然すぎて、胸の奥が温かくなる。
庭仕事をしていると、ルークとミアが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん! またお姉ちゃんと遊んでるのかよ〜」
ルークがからかうように笑う。
「おねえちゃん、レインおにいちゃんに花冠作ってあげて!」
ミアが無邪気にせがむ。
セシリアは顔を赤らめながらも、笑顔で弟妹の相手をした。
俺は少し離れたところで三人を見守りながら、静かに思う。
(この時間が、俺のすべてだ)
母親のエレナも庭に出てきて、温かい声をかけてきた。
「レイン様、セシリアが本当に生き生きしているわ。あなたが来てから、この子は毎日が楽しそうで……ありがとう」
俺は軽く頭を下げた。
「……こちらこそ、家族のように接していただいて感謝しています」
♢
午後遅く、セシリアと二人で村はずれの丘に登った。
風が心地よく、村全体が一望できる場所だ。
セシリアは俺の隣に座り、膝を抱えてぼんやりと景色を眺めていた。
「レインくん……最近、時々遠くを見る目をするよね。何か、悩んでいることがあるの?」
彼女の声は優しく、でも少し不安げだった。
俺は一瞬、言葉に詰まった。
魔王の使命、アシェルの力、封印が緩み始めている気配。
そして、本当の自分。
すべてを話すわけにはいかない。
「……昔のことを、少し思い出してただけだよ。でも今は、セシリアとこうしている方が大事だと思ってる」
セシリアは少し寂しそうに微笑みながら、俺の肩にそっと頭を預けてきた。
「うん……私も、レインくんと一緒にいるのが一番幸せ。ずっと、このままだったらいいのに……」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
(このまま使命をサボり続けていいのか……?でも、この笑顔を失うくらいなら、俺は——)
夕陽が村を赤く染めていく。
セシリアの髪が、風に優しく揺れていた。
♢
その夜、部屋に戻った俺は窓の外を見つめた。
魔王の気配が、以前より明らかに強くなっている。
封印が、確実に緩み始めていた。
次に来る刺客は、もっと強い——おそらく、肉体を伴った本格的な存在になるだろう。
「……まだ、来るんだろうな」
俺は小さく息を吐いた。
考えたらキリがない。
それでも―――
セシリアの笑顔を守るためなら、何度でも影で戦ってやる。
この穏やかな日常を、絶対に守り抜く。
静かな夜の闇の中で、次の嵐の予感が、ゆっくりと近づいていた。




