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くっさぃんですけど、安やす子

 健二はベッドに寝転んだまま女性タレント名鑑を手に取った。女性タレント名鑑には事務所別にタレントが列挙されており、顔写真と共にプロフィールが載っている。

 今度はどの娘を落としちゃおうかな。

 よだれが女性タレント名鑑を濡らした。健二はおもむろに手に持っていた女性タレント名鑑を持ち上げ、掛け布団の上から自分の股間辺りに打ち下ろした。

「いた~い」

 新進女優の安やす子が掛け布団から頭を出した。

「ちゃんとやれ、くそ女。やる気出さないんだったら例のコマーシャルの件もなしにするぞ」

「ごめんなさ~い」

そう言って安やす子は再び布団に潜り込んだ。

「おお、いいぞいいぞ。やれば出来るじゃないか。おうっ、おうおう。い、いくぅ」

「おおれ、ぼうびばばびーぼ?」

 やす子が顔を出し、口を健二でいっぱいにしながら訊いた。

「全部飲め。一滴もこぼすんじゃないぞ」

「はひ。にがーい」

 にがーいと言ったやす子の表情に満足し、煙草に火をつけた。そのとき嗅覚が異常を感知した。

「くせえ、くせえええええ」

 デスメルが鼻をついた。健二はやす子を思い切り蹴り飛ばした。ベッドから転がり落ちるやす子。

「臭いってなに。私がくさかったの。ねえ、嘘でしょ」

 やす子が立ち上がり半狂乱ですがりついてきた。

 面倒なことはごめんだ。どのみち助けることなんて出来ないのだ。

 健二はやす子のどてっぱらに蹴りを入れて,屋外へ出た。

 やす子の処理は元CSIのボビーに任せればいい。健二は深呼吸した。

「く、くせええええ。まだくせえええ」

 やす子がまだ近くにいるのか。それとも他の誰の臭いか。

 周りを見渡すと主婦二人が立ち話をしている。

 あの二人のどちらかだろうか。いや、ひょっとしたらチビデブコンビのように二人同時に死ぬのかもしれない。

 健二は主婦に背を向けて駅に向かって歩いた。しかし臭いは消えない。

 あのホームレスか。それともこの女子高校生、いや、あそこの妊婦がくさいな。

 気付けば健二は商店街に入っていた。臭かった。どこへ行こうと例の臭いが消えない。気づけば駅についていた。

 おかしい。こんなにも臭いが続くことは初めてだ。

 その時、駅前の広場に設置された液晶ビジョンが目に飛び込んできた。

 北朝鮮、四日に人工衛星発射予定

 最悪のシナリオが頭に浮かんだ。

「明日、四日に北朝鮮が人工衛星の発射を予定していることが、朝鮮労働党関係者筋の話から分かりました。北朝鮮は、もし日本が衛星を迎撃した場合、直ちに報復を加えると表明しています」

 厚化粧のアナウンサーが眉間に皺を寄せて言った。

 もし衛星が東京に落ちたら何人の人間が死ぬんだろう。

 自分の想像に身震いした。しかし、現実問題、どこに行っても例の臭いが幅を利かせているのだ。

 早く東京から逃げなければ。いや、この国から出たほうが確実だろう。まずは家に帰って金目のものを持ち出す。それから出来るだけ遠くて自分の存在が周知されている国、アメリカあたりに高飛びだ。

 臭いがさっきよりきつくなった。時間が経ったからか、人が増えたからかわからないけど、もうこの臭気に耐えられそうもない。

 健二は人から逃げるように近くにあったワークショップに入った。防臭加工が施された防塵マスクを購入し着用する。

 なにも臭いがしない。こりゃあいいぜ。

 マネージャーに電話して、高飛びの手配を指示した。目的はまだ伝えない。情報はどこから漏れるか分からないから寸前まで極秘だ。群集が空港に押し寄せて逃げ遅れたりしたら困る。

 右の口角だけくいっと上げた健二の表情は、十代とは思えない毒々しさに満ちていた。

 


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