第二部「許された理由」
「一つ、聞きたいことがある。王はなぜオレを許したんだ? ヴァレンではなく、パットンの下に置くことを」
「それは、私も気になっていた。ヴァレンも、オマエの頭脳を欲しがっていたはずだ。実際、オマエを罠にはめ、自分の懐に引き入れようとしたしな」
「……なにを隠してる?」
グライムは唐突に言ったが、パットンの様子がおかしいことに気付いていた。
なにか言い出そうとしてやめる。そんな仕草が何回も会話の最中にあったのだ。
最初は国のことで話せないのだろうと持っていたグライムだが、あまりにパットンが続けるものだから気になってしょうがなくなっていた。
「王が私に頼んできたのは、ルミナス暗号の解読だけじゃない……」
「まぁ、そうだろう。それはヴァレンにも頼んであることで、表向きは共同捜査。聞いたよ。もう一つはなんだ?」
「街の種族問題の解決だ。つまり、私がこれまでお忍びでやっていたことを、王公認で堂々とやれるようになる。ということだ」
グライムはその言葉を聞いて、片眉を上げた。
「随分と話が大きくなったな。つまり第三王子が街の警邏の最高責任者になったってことか? 辺境に行くよりも、左遷じゃないか?」
グライムが他人事のように笑っているのを見て、パットンは今日何度目かわからないため息をついた。
「大きくなったのは、オマエが目立つ動き方をしたせいだ……。そして、その条件として、今回の一件がある。近々ゾンビ族の一人が、この国へやってくる。魔界の砂漠の一つを統治する、ゾンビの王だ。名は、ファラリオ。その威厳から、人々はファラオと呼んでいる」
「アンデッドというのは、生前は様々な種族だった者たちの集まりだ。エルフも入れば、獣人も、天使さえもいる。その分、特殊な決まり事が多い」
パットンが続けた説明にグライムが頷いた。
「知ってる。だからアンデッドってのは魔界に住んでるんだぞ。こっちの世界の決まりは合わないからな」
「そこで、種族の文化や生活に詳しいオマエに、助言を聞きに来た。夜導師のことがあっただろう? その時の資料を読んだ王が、オマエならば、どうにかできると判断されたわけだ。城には、誰もアンデッドに精通している者がいない」
グライムは腕を組んで考え込んだ。
その姿は、パットンに妙にもったいぶった仕草に見えた。
「ゾンビ族ね……。確かに、オレはゾンビ族のことをよく知ってるし、対応もできる」
「じゃあ、なんだ? 何が問題ある。素直に頷け。王に良い印象を与えるチャンスだぞ」
「オレは、街の事件を解決するんだろう? これじゃあ、国の事件を解決してることになる」
「同じことだろう。なにを気にしてるんだ」
「使う式も違えば、辿り着く答えも違う。見えてる数字は同じでも、単位が違ったりな。受け入れ態勢がないままゾンビ族を受け入れた理由は、他種族国家と言い張る見栄。それか――相手が格上の国だってことだ」
「一つの情報から、余計な情報を抜き出すな……」
パットンは額に手を当てた。
グライムが正しく言い当てたからだ。
パットンが言い淀んでいたのはこれが原因だった。不用意に情報を話せば、グライムは一から十を知ってしまう。
十を知った彼が大人しくしているとは到底思えなかった。
「格上、というのは、あながち外れてもいないだろう」グライムは続けた。「魔界の砂漠を一つ丸ごと統治してる王だ。この国が、下手に出ておかしくない相手だ。はずべきことじゃないだろ。国には人間の格差以上に、しっかりと優劣がある」
「だから、余計な勘繰りはやめろと言っている」
「勘繰りじゃなくて、事実の確認だ。相手がどういう立場の人間かわかってないと、対応を間違えるだろう。下に見て失礼な真似をしても困るし、逆に、へりくだりすぎて足元を見られても困る」
「それは、確かに一理ある」
パットンは渋々認めた。
グライムがからかって横道へと逸らしたのは確かだったが、パットンに言い返すべはない。
ようやく自分が有利に話を進められる体勢に入ったと、グライムは会話を先へと進めた。
「城の連中は、そのあたりの機微が分かってるのか」
「怪しいものだ」パットンは正直に言った。「これまで、他国の王族を迎えた経験はある。だが、アンデッドの、それも独立した国を統治する王を迎えるのは初めてのことだ」
「初めて尽くしってわけか」
「だからこそ、オマエの知恵が要る」
「まっ、初仕事としては悪くない」
グライムは腕を上げて魔法錠を見せた。
パットンは、その仕草にニヤッと笑みを浮かべた。
「そうだな、初めてだな。オマエと一緒に、表門から城へと入るのはな」
「この間は、城へ入る前に捕まったからな」
二人は示し合わせたように、同時に肩をすくめた。
「一つだけ確認しておきたい。今回の件……失敗したらどうなる」
「失敗による」
「ファラオの機嫌を損ねた場合、ということだ。国同士の面子がかかった話だろう」
「最悪、国交そのものが立ち消えになる。それだけじゃない。魔界の砂漠地帯には、他にも複数のゾンビ族の王がいる。一人の不興を買えば、他の王たちにまで、悪い噂が伝わりかねない」
「随分と重い一手だな」
「重いからこそ、オマエに任せる。軽々しく頼んでいるわけじゃない」
グライムはその言葉を聞いて、少しだけ表情を引き締めた。




