第五部「王都へ帰還」
王都へと戻ったパットンは、ヴァレンにねぎらいの言葉をかけられ、抱きしめられた。だが、パットンは睨みつけた表情のまま、眉一つ動かさず、帰還の挨拶をした。
「よく戻った、弟よ! 」
ヴァレンは、わざとらしく言った。久しぶりの兄弟の再会を祝おうと、肩を組もうとする。
パットンは、その手を払いのけた。
城の広間には、居並ぶ廷臣たちの視線が集まっていた。
誰もが、この兄弟のやり取りを、固唾を呑んで見守っている。表向きは和やかな再会の場のはずだった。
だが、その空気の裏には、張り詰めた緊張が漂っていた。
「グライムは?」
パットンは訊ねると、ヴァレンはさも当然といった様子で答えた。
「案ずるな。しっかり牢へ入れてある」
「そういうことを聞いているのではありません」
パットンは殺意のある瞳で睨みつけたが、ヴァレンは余裕の笑みで返した。
「案ずるなと言っただろう。オマエは心配性なんだよ、昔から」
「私は、あなたの昔を知りませんが?」
パットンは、中身が偽物なのを知っていると、言い換えたつもりだった。
だが、ヴァレンは余裕の笑みを崩さなかった。その反応のなさが、かえってパットンの神経を逆撫でした。
「昔のことを知らない、か……。それは寂しい話だな。兄弟の思い出は、忘れずにいてほしいものだが」
「思い出を語る気分ではありません」
「そうか」ヴァレンは肩をすくめた。「なら、本題に入ろう」
「明日、王国裁判を開く」ヴァレンは言った。「グライムは死刑になるだろうな。リィーイヤ王国でも、ずいぶん悪事を働いたようだ。パットン、ご苦労! 辺境まで魔導犯罪者を追い、リィーイヤ王国でオルドレン王子と協力し、逮捕に至った――その功績を、ここに認める」
「ヴァレン!!」
パットンが食ってかかろうとすると、すぐにヴァレンの私兵が行く手を阻んだ。槍の穂先が、パットンの目の前で交差する。
「パットン……。賢くなれ」ヴァレンは静かに言った。「一日に二度も裁判を開くつもりか?」
その一言に含まれた威圧に、パットンは奥歯を噛みしめることしかできなかった。
周囲の廷臣たちは、誰も声を上げなかった。
ただ、視線だけが、じっとパットンに注がれていた。中には、同情するような目を向ける者もいたが、誰一人として、声を上げる勇気は持ち合わせていなかった。
パットンは完全にヴァレンとの舌戦に敗北した。拳を握りしめたまま、その場を離れるしかなかった。
廊下を歩きながら、頭の中ではこれからの一手を必死に考え続けていた。裁判までの猶予は、一晩しかない。
一方グライムは、四六時中城の兵士が見張る窓のない牢屋に入れられていた。
グライムが捕まったのは王都についてすぐだった。
元からパットンがグライム逮捕のために辺境に行っていたことにされ、手続きはスムーズに進んだ。
グライムは暴れることはせず、流れに身を任せ、大人しく逮捕されることを選んだのだ。
仮にあの場で逃亡の素振りを見せていたら、攻撃の許可を出されていたかも知れない。
ため息の代わりにあくびを一つ、グライムは牢屋を見回した。
石の壁は分厚く、空気は淀んでいた。
灯りは廊下から漏れる、わずかな光だけだ。
パットンに捕らえられた、あの秘密の地下牢よりも、居心地の悪さを感じながら、グライムは不敵に笑ってみせた。
兵士がぴくっと反応した。
だが、グライムは再びあくびを一つ挟んで、そのまま眠りについた。
不敵な笑みに、意味はなかった。
ただ、手持ちのカードがゼロの状態では、どうにか意味を作ることが重要だった。
今できることは、見張る者にこちらの余裕を植え付けておくことだ。
それが、次の一手に繋がる。動揺を見せれば、それだけ相手に主導権を渡すことになる。
グライムの手持ちのカードはゼロに戻されたが、辺境にいる間に、ヴァレンは手持ちのカードを持ち直していた。
圧倒的な不利なこの状況でも、グライムは絶対にパットンが表で動いてくれると信じていたからだ。
パットンが表で動くのならば、自分も裏で動く準備をする。
今度の不敵な笑みは、打算的なものではなく、自然に口元に浮かんだものだった。
その信頼だけを支えに、グライムは薄暗い牢の中で、静かに次の夜明けを待った。
シーズン2完結です。
シーズン3は王国裁判ですので、引き続きよろしくお願いします。
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