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王賊 Crown & Crime  作者: ふん
一流の犯罪者と施錠破り

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第四部「エルフの木材」

 日が落ちてから、四人は街の外れにある邸宅へと向かった。


 塀は高く、庭には見張りの兵が巡回している。


 だが、リッケンの案内は迷いがなかった。

 巡回の間隔、庭木の陰、塀の低くなった一角。すべて、事前に何度も下見を重ねてきたことが窺える動きだった。


「随分と詳しいな」


グライムは小声で言うと、リッケンはそれよりも小声で答えた。


「詳しくなきゃ、今日まで生きてない」


 塀を越え、庭を抜け、四人は音を立てずに裏手へと回り込んだ。

 月明かりだけが頼りの暗闇の中、ディドルが小さく呪文を唱えると、見張りの兵の視界に、わずかな霞がかかった。

 気づかれるほどではないが、複数の影を紛らわし、注意力を散らすには十分な程度の魔法だった。


「行けるぞ」ディドルが囁いた。


 グライムを先頭に、四人は裏口へと辿り着いた。


 ミグルの壺が保管されている邸宅は、幾重にも魔法の施錠が施されていた。


 邸宅の裏手から侵入すると、最初のドアには単純な魔法錠がかけられていた。

 グライムは手早く魔道具を使い、鍵を開けた。

 二つ目のドアには、少し複雑な魔剤が使われていたが、それも問題なく処理した。


 スペンサーとディドルは、その手際の良さに感心した様子で見ている。


「本当に噂通りの腕だな」


 ディドルが言うと、リッケンが呆れ気味に言った。


「そうじゃないと困る。この邸宅にはドアがごまんとある。まるでドアの迷路みたいな作りになっている。ドア自体が価値のあるものだからな。まったく……収集家の考えることはわからない」


 リッケンは値打ちものドアに手を当てながら言った。

 エルフの森に生える木から作られる木材のドアだ。

 かさばらなければ、これだけ盗んで逃げてもいいくらいの勝ちがある。


 だが、お目当ての壺は、それ以上の価値があるものなので、リッケンはそれらに目もくれず、グライムに次々とドアを開けさせた。


 グライムはこれはすぐに開けられる、これは無理だとその場で判断し、侵入を勧めていく。


 廊下を進むごとに、屋敷の内部はより厳重な造りに変わっていった。

 壁には見張りの気配を感じ取る術式が仕込まれているらしく、ディドルがその都度、魔法で相殺して気配を殺していく。


 四人は足音を潜め、影から影へと渡り歩くように進んだ。


 三つ目のドアの前で、グライムの手が止まった。

 ドアの縁を軽く撫でながら、木材の質感を確かめる。


「これは面倒な錠だ……。いつもと違うやり方が要る」


 グライムはわざと声を大きくして言った。

 そして、普段よりも遠回りな手順を踏み、時間をかけてそのドアを開けた。

 工具を何度も持ち替え、必要のない確認まで丁寧に行う。


 周りの仲間たちには、単に錠が複雑だったからだと見えるように見えたが、グライムの腕を認めているからこそ、リッケンが苛立たしげに言った。


「時間かけすぎじゃないか?」

「急いで壊して、痕跡を残すよりましだろう。証拠を残さないのが、オレの流儀だ」


 その言葉に、リッケンはそれ以上何も言わなかった。


 だが、このドアの木材にこそ意味があった。

 エルフが好んで使う特有の木だ。


 グライムはこの手がかりを、どうにかパットンに見つけさせようとしているのだ。


 見つけられるのは、この国のことをよく知る、限られた人間だけだろう。


 最後のドアを抜けると、目当ての壺が飾られた部屋に辿り着いた。

 台座の上に、青みがかった陶器の壺が静かに置かれている。

 飾り気のない、素朴な形だった。


「これがミグルの壺か」


 グライムは呟やくと、横を通り過ぎながらリッケンが言った。


「見た目は地味だがな。中の釉薬に、今ではもう掘ることの出来ない貴重な魔石の粉が練り込まれてる。砕いて抽出して市場に出せば、この壺に使われてる微量な魔石の粉でも、家が三軒は建つ値がつく」


 スペンサーが素早く懐から贋作を取り出した。

 本物と見比べても、色合いも重さも寸分違わない出来だった。


「大したもんだな」


 グライムは素直に感心した。自分が知らずにこの現場に駆けつけたとしたら、しばらくは贋作に気付けないだろう。


 贋作というのは永久にバレなければ、本物に成り代わってしまうことがある。

 スペンサーの贋作づくりの腕は、その域に達していた。


「褒め言葉は仕事が終わってから聞く」


 スペンサーは無言で手を動かし、慎重に本物と贋作をすり替えていく。

 魔法管理がされているせいで、手を触れた瞬間、魔力の流れが代わり気付かれる仕組みだが、ディドルがリアルタイムで魔力の調整をしているおかげで、警報はなっていない。


「もっとゆっくり持ち上げろ。解析が間に合わないだろう」

「早くしろ……腕がプルプルしてきた……」

「やってるだろう」

「やってるように見えないから言ってんだよ」

「それが魔法だって。いいから黙ってろ」


 スペンサーは文句を言いながらも、壺の底に指をかけ、音を立てないようゆっくりとすり替え終えた。


 四人は壺を手に入れた喜びを噛みしめる間もなく、来た道を戻り始めた。


 ディドルが密かにはっていた風魔法の術式を発動し、追い風に乗って一気に屋敷から逃げ出した。

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