↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王賊 Crown & Crime  作者: ふん
誘拐と金庫破り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/108

第三部「誘拐」

 グライムが連れ込まれた先は、空き家になった建物の地下だった。

 灯りは一つ、天井から吊るされたランタンだけ。

 周囲には、昼間馬車を襲った覆面の一団が、揃って待ち構えていた。


「静かにしてもらおうか」


 覆面の一人が、グライムの口を塞いでいた布を外しながら言った。

 声は若い男のものだった。


「静かにするかどうかは、そっちの態度次第だ」

「状況をわかってるのか」

「わかってる。がっかりしてるところだ」

「誘拐された、自分の間抜け具合にか」


 誘拐犯の一人がおちょくって笑うと、下卑た笑いが伝染して広がった。


「間抜けを間抜けだと見抜けなかったことにだよ。てっきり知能犯が紛れてるのかと思ってた……」


 グライムは椅子に座らされ、両手を後ろで縛られた状態のまま、余裕の態度で部屋の中を見回した。

 壁には荷造り用の縄がいくつも掛けられ、床には土がそのまま剥き出しになっている。急ごしらえのアジトだなのが丸わかりだ。

 長く使う場所ではない。壁際には、盗んだと思しき雑多な荷物が積み上げられている。行き当たりばったりの盗みを繰り返してきた形跡が、そこかしこに見えた。


 覆面の一人が、部屋の隅に置かれた金庫を顎で指した。

 それは昼間、オルドレン王子の馬車から盗まれたものだ。


「開け方を知ってるんだろう? 魔法錠のことを話してたのを聞いたぞ」


 グライムはその言葉であることに気付いた。

 馬車を見送りながらカックラウと交わした会話を、聞かれていたということだ。

 あの距離、あの音量で盗み聞きできたのなら、この連中はよほど耳がいい種族なのだろう。

 人間や大半の亜人には難しい仕事だ。

 盗み聞きというのは大抵は風魔法が使われる。声の振動を風魔法が拾うのだ。それも、何時間もかけた緻密な計算な元で使われる。天候や風向きで簡単に無効化される。

 

 こんなお粗末な盗みをする連中が使えるはずもない。魔法犯罪ではなく、他種族国家になる最中でよくある、種族による特性事件だ。


「聞いていたのかと」グライムは表情を変えずに言った。「なら話が早い。開けるには専用の魔道具が要る。オレは持っていない」

「んなもん信じるかよ」


 覆面の男がグライムの襟元を掴んで凄んだ。

 顔を近づけ、脅すように声を低くするが、グライムの表情はぴくりとも動かなかった。


「よく考えてみろ。簡単に開かないから、オレを誘拐したんだろう? 凄んだところで無駄だ。持ってないものは出せない」


 男はカッとなったようだったが、すぐに我に返り、他の仲間と顔を寄せ合った。

 覆面越しにひそひそと話し合う様子は、統率の取れた連携というより、行き当たりばったりの相談に近かった。

 判断を仰ぐ相手もなく、ただその場で互いに顔色を窺い合っている。

 誰も次の一手を決めかねている、それが手に取るように分かった。


 グライムはその様子を見て、確信した。――この連中はヴァレンとは無関係だ。


 ただの素人だ。もし裏に確かな筋があるなら、こんな段取りの悪い誘拐はしない。

 指示系統がまるで見えないからだ。

 誰かに雇われたにしては、逃げ道の詰めも甘すぎるし、そもそも金庫が魔法錠だと知りながら、開ける手立てを何一つ用意していなかった時点で、計画性のなさが露呈している。


「必要な道具を教えてやる」


 グライムは呆れ混じりのため息を挟んで言った。


 男たちの視線が一斉にグライムに集まった。


「いいか? その金庫を開けたいんだろう? 特殊な油と、蝋燭が要る。両方ともこの街にあるはずだ。今から言う場所に言って盗んでこい。方法なら教えてやる」


 覆面の一人が疑わしげに訊ねた。


「なんでそんなに素直に協力する。オレたちを騙して逃げるつもりじゃないだろうな」

「逃げる気なら、とっくに逃げてる。オレも興味がある。久々に腕が鳴ってる。国が作った魔道具との対決も久しぶりだからな」


 グライムは手首を縛っていた縄をいとも簡単に解くと、それを誘拐犯の一人に投げ渡しながら言った。


「おい! 勝手なことするな!」

「それはこっちの台詞だ。いいか? 盗む時にしっかり関係ない場所も荒らせ。欲しいものだけ盗んでくるな」

「やっぱり余計なことをさせて、騙して捕まえるつもりだな」

「欲しいものだけ引き抜いて持ってきてみろ。アジトまで餌をばらまいて鳩を引き寄せるようなもんだぞ。まず目的をあやふやにさせるんだ。真実をいくつも小分けにしろ。そうして一つずつ解かせるんだ。それだけこっちの自由時間が増える」


 グライムの指示は的確で、すっかりこの犯罪者グループのリーダーのような立ち振舞になっていた。


 覆面の男たちは互いに顔を見合わせ、やがて二人が場所を確認するために外へ出ていった。

 残った者たちは、落ち着かない様子で部屋の中を行ったり来たりしている。

 一人は金庫の周りをぐるぐると歩き回り、もう一人は壁にもたれて腕を組んだまま、グライムを警戒するように見つめ続けていた。


 時間が経つにつれ、残った男たちの間にも、次第に落ち着きが戻ってきた。

 グライムがどっしりと構えているせいか、伝染するように焦りが消えていったのだ。


 誰かがグライムに水の入った器を差し出した。


「毒でも盛ってあるんじゃないかと思ってるなら、飲まなくていい」

「いや、もらう」グライムは短く言って、口をつけた。「意外と、あんたらは律儀だな」


「なんとなくだよ。なんとなく、あんたを殺す気にはなれない。あんた、本当に怖くないのか」

「怖がったところで手錠は外れないし、金庫も開かない。だったら、怖がるだけ時間の無駄だろう?」

「変な奴だな。まあいい。あんたのおかげで、今日はまともな稼ぎになりそうだ」


 男はそれ以上は言い返さず、静かに立ち上がった。

 地下室には、じっとりとした湿気と、古い木材の匂いが漂っていた。

 グライムは縛られたていた両手の調子を取り戻すように、手首を回したり、何度も握って開いたりを繰り返す。

 その横顔は、パットンと出会う前の仕事人の顔していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。