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王賊 Crown & Crime  作者: ふん
牢の至宝

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第四部「縛りつけるモノ」

 その頃、グライムは街の外れでグァヴァを見送っていた。


 兵士たちはパットンとオルドレン王子の命令により、その殆どが広場を中心に集まっているので、ひと目はほぼなかった。


 荷馬車の荷台に隠れられるよう、干し草の下に空間が作られている。

 グァヴァはその荷台に潜り込む直前、グライムに向き直った。


「世話になった」

「いい。それより頼んだぞ」


「ああ。絶対に届ける」グァヴァは頷いた。「信じて待っていてくれ。この恩は絶対に忘れない。あのまま、老いさらばえて朽ちていくだけだと思っていた。魔力がなくなった……ただの抜け殻の状態でな」


「いいから行け。次の作戦はない。見つかったら終わりだ」

「わかった……。君も気をつけろ」


「オレはどうとでもなる。――今はな」


 荷馬車が動き出し、干し草に埋もれたグァヴァの姿が見えなくなった。


 グライムはその後ろ姿をしばらく見送ってから、踵を返した。


 グァヴァを見送り終えたグライムが次に向かった先は、広場の外れにある古い石像の前だった。

 広場の催し物は、怒ったパットンにより解散させられており、既に兵士たちも別の場所を捜索に行ったのでいなかった。


 石像は女神をかたどったもので、街の歴史と共に名のある芸術が造り上げたものだ。

 長年の風雨で表面が摩耗し、輪郭が少し曖昧になっている。


 石像の前には、妖精族の女と、仲間の男二人が待っていた。


「待ったよ……嘘をつかれたのかと思ったよ」

「嘘をつくのは得意だけどな。本当のことを言うのも得意なんだ」

「そんなことはどうでもいい。約束の至宝はどこにあるっていうんだい。こんな広場の真ん中に……まさか」


 女の顔に疑いの色が浮かんだ。

 衛兵に通報されたのではないかと、身構えるような目だった。


 グライムはそれを察し鼻で笑うと、道端に落ちている石を一つ拾い上げた。


「衛兵がいなくなるのを待ってたから遅くなったんだぞ。通報なんかするか。これから至宝を取り出すんだぞ」


 グライムは石像の台座に足をかけて登ると、乙女をかたどった石像の右手を、拾った石で叩き割った。


 鈍い音を立てて、石像の右手の一部が崩れ落ちた。


 崩れた石の下から現れたのは、本物の石像の右手だった。

 その指には、指輪がはめられている。


 この指輪こそが、グライムがかつてこの国から盗み出した至宝の一つだった。


「本当にこんなのが欲しいのか?」


 グライムは石像の台座から飛び降りると、指輪を無造作に女たちに向かって投げ渡した。

 なんてことをするんだと、男二人がまるで水に飛び込むように慌てて指輪へと駆け寄る。


 女も、信じられないという表情で指輪を見つめてから、グライムを見た。


「至宝だよ……。投げ渡すやつがいるか」

「至宝ね……。そう呼んでるだけだ」グライムは鼻で笑いながら言った。「価値もないし、表に出せるような立派な逸話もない」

「それはグライムが立てた作戦のことだろう。噂の立て方」

「至宝に見せかけた、ただの宝石ってことだ。至宝が複数盗まれたら普通もっと……。そうだ……普通はもっと血眼になって探すはずだ。今回のことでわかったよ。これはな――オルドレン王子を、この辺境に縛りつけておくための鎖だった」

「は? なにを言ってるんだい」


 急に突拍子もないことを言われ、女は口をぽかんと開け眉間にしわ作った。


「今は偶然、オルドレン王子がこの辺境の城にいるけど……アイツもパットンと同じだ。なるべくして辺境の城を任されている。……悪い、用事ができた」

「ちょっと!」

「それは至宝と呼べる代物じゃないが、十分に価値はある」グライムは背を向けながら言った。「売り払って、住みやすい国へ逃げろ。話聞いてただろ。魔力を盗まれる可能性があるぞ」


 女は指輪と、遠ざかっていくグライムの背中を、交互に見た。

 何か言おうとしたが、言葉が出てこないまま、グライムの姿は路地の向こうへ消えていった。






 グライムがパットンに伝えることができた、と広場を離れた時だった。


 風向きが変わったのか、それともグライム自身が匂いを隠しきれなくなったのか、離れた場所にいたカックラウが、ぴたりと足を止めた。


 鼻先を上げ、空気を確かめる。

 それから、迷いのない足取りで駆け出した。


 角を一つ曲がったところで、カックラウはグライムを見つけ、逃げる隙を与えず腕を掴んだ。


 狼が獲物をとらえるかのように、グライムを道に組み敷いた。


「捕まえたぞ」

「一文字違う……。捕まえ“る”ぞ。が先じゃないのか? 警告はどうした」


「そんなものいるか」と怒りを隠さない声を発したのはパットンだった。


 グライムが顔を上げると、険しい表情のパットンと、興味津々といった様子のオルドレン王子が待っていた。


「言いたいことはあるか?」


 パットンはグライムを睨みつけた。


「ああ、ある」グライムは平然と言った。「もっと速く捕まえてくれ……。そうすれば走る距離か少なくて済んだ」


 パットンが呆れたようにため息をつくのをよそに、グライムは立ち上がると、オルドレン王子へと向き直った。


 酒騒ぎの陽気な喧騒はまだあちこちから名残り惜しく聞こえてくが、グライムの周囲だけは、急に空気が静まったように感じられた。


「聞きたいことがあります」

「待ってくれ! 先にこっちが聞きたい。一体どうやって捕まって、どうやって脱獄した。それも一日でだ! それも自白までしにきたんだ。……今日はもう眠れそうにない」


 興奮するオルドレン王子の質問には一切答えず、グライムは自分の質問を押し付けた。


「あなたをこの辺境に縛りつけたのは、誰ですか?」


 グライムは、まっすぐにオルドレン王子を見て、そう言った。


 オルドレン王子の表情から、それまでの浮ついた笑みが消えた。


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