第三部「なりきりコンテスト」
グライムが作戦を考えていた頃。
パットンの元へ、変装したグライムが牢屋に入り、囚人を連れて脱獄したと情報が飛び込んできた。
数時間後。苛立つパットンとカックラウ、それにグライムの手腕が見られるとウキウキのオルドレン王子までもが揃って街へ駆けつけることになった。
馬車の中でパットンはグライムの容姿や背格好を伝え、早馬で情報だけを先に伝令して貰った。
グライムの読み通りの行動をしてるとはつゆ知らず、パットンは次々とグライムの読み通りの行動をしていく。
そうして街へつくと、衛兵の一人が、街の広場でグライムらしき人物を見かけたと報告を上げた。
「本当にあいつなのか」パットンは馬車の中で、報告を持ってきた兵士に何度も確認していた。「見間違いではないな」
「はい、確かに。特徴とよく一致しています」
馬車が広場の近くで止まると、パットンは真っ先に飛び降りた。
少し離れた場所に、グライムの姿によく似た後ろ姿が見えた。同じ身丈、同じ髪の色、同じ立ち姿。
「あいつめ……見つけたぞ。おい、グライ――」
思わず声をかけようとしたパットンの腕を、カックラウが掴んで止めた。
「王子! 待ってください!」
「どうした? グライムが逃げる」
「匂いがしません……。グライムの匂いじゃない。背格好を似せた別人です」
カックラウは低い声で言った。
犬の獣人であるカックラウは、常人には及ばない嗅覚を持つ。別人だとすぐに気付いた。
「なんだと……」
「罠かもしれません」
「だが、みすみす見逃すわけにも行かないだろう。追うぞ」
パットンが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる後ろで、オルドレン王子が満面の笑みを浮かべて降りてきた。
「あの後ろ姿がグライムの影武者で、それも罠かもしれない……?たった一日で、そこまでの手を打ったのか!?」
オルドレン王子の声は、それはもう嬉しそうだった。
「グライムが人を傷つけるようなことはあり得ませんが」パットンは険しい顔で言った。「それ以外のことは保証できません。何をしでかすか全く予測がつきません。油断なさらないように」
「ああ、気をつけよう」オルドレン王子は目を輝かせながら言った。「この目で、グライムの手腕を見逃さないようにな!」
オルドレン王子の言動に、パットンが呆れる暇はなかった。
グライムの偽物と思しき人影が、駆け足で広場の角を曲がったからだ。
こちらを撒こうとしたと思ったカックラウが、即座に地面を蹴り、猛スピードで追いかけた。
パットンもすぐ後を追った。
だが、角を曲がると同時に、前を走っていたカックラウが急に足を止めたせいで、その大きな背中に顔をぶつけてしまった。
「危ない……どうした、カックラウ。何があった」
カックラウの背中越しには、まだ状況が見えない。パットンが横に回り込む前に、後ろから追いついたオルドレン王子が、代わりのように声を上げた。
「さすがグライムだ!」
広場に広がっていたのは、酒を飲み、屋台の肴を頬張り、昼間から陽気に騒いでいる一団だった。
追っていた男が走ったのは、この騒ぎを見つけて速く混ざりたかったからだ。
そして、ここにいる一団の全員が、グライムとよく似た背格好、よく似た髪型をしていた。
仮装をしているのか、それとも本当にそういう催しがあるのか、判断がつかない。
誰もが陽気に酔い、路上でグライムの真似をした身振りを競い合っている。
「陽動……」パットンはカックラウの隣に立ち、深いため息をついた。「やられました。おそらく、ここにグライムはいないでしょう」
パットンの目の前に広がっているのは、賑やかな昼酒の光景だった。
一人に話を聞くと、突如として【なりきりコンテス】」の噂が街に広まり、面白がった住民たちが集まってきたのだという。
特定の人物になりきるわけではなく、特徴を教えられ、それぞれ架空の人物に一番近づいたものが優勝というものらしい。
誰が本物のグライムかを見分けることは、この人だかりの中ではほぼ不可能に近い。
「なにを考えているんだ……グライム」
パットンは眉をひそめ、こみ上げる怒りを抑えるように、拳を握りしめた。




