第四部「敵か味方か」
オルドレン王子への報告はすぐに行われた。
盗まれたはずの小皿が城内で見つかったという内容だ。
衛兵の隊長が報告し、オルドレン王子は直接現物を確認した。
パットンとグライムはその場に呼ばれ、彼が確認する様子を見ていた。
「こちらの小皿ですが」衛兵の隊長が言った。「どうやら猫が盗んだようです」
オルドレン王子はグライムを見た。
「グライム殿、またお世話になりましたな」
「いいえ」グライムは言った。「こちらが猫の毛を利用したと言ったせいで、混乱させてしまいました。まさか猫そのものが犯人だったとは……お恥ずかしい」
グライムの芝居がかった喋り方を、パットンは訝しく見ていたが、すぐに視線をオルドレン王子に戻した。
「まだアモーレは城に潜伏しているかも知れません。探したほうがいいです」
「当然捜索させています。ですが、怪盗はプライドが高い。わざわざ予告状を出すくらいだ。今頃必死に逃げているでしょう」
「でしょうね」
グライムがにこやかに笑うと、吊られるようにオルドレン王子も笑った。
パットンはグライムを横目で見たが、グライムは前を向いたままだった。
報告の場が終わり、二人は客室へ向かった。
廊下を並んで歩きながら、パットンはしばらく何も言わなかった。
角を曲がった先の、人気のない廊下に差しかかった時、パットンが口を開いた。
「猫が盗んだ?」
その口ぶりは、端からグライムを疑っていた。
「そう決定づけたのはオレじゃない」
「印象づけたのはオマエだ。猫やら、猫の毛やら、猫を使った手口やらとな」
「おまけにオルドレン王子の前では猫を被るってか?」
「グライム……。オマエが何かやったのは分かっている」
グライムは前を向いたまま、何も言わなかった。
「宝石細工が施された小皿が戻ってきた。アモーレという怪盗はオマエの元恋人だ。そして、猫の話がきっかけで使用人たちが動いた。全部が繋がっている」
「繋がっているように思うか? オレには繋げたように聞こえたけどな」
「繋がっている」
「そういう見方もできるな」
パットンは少し間を置いてから、ため息まじりに言った。
「ここは他国だ。私がオマエの行動について責任を取ることに限界がある。だから強く言えない」
「わかっている」
「わかっていて、やったということだな?」
「どうした? 言葉に棘があるぞ? 今回はそもそも盗まれてなかったんだ。問題あるか?」
「問題ないのが問題だろう……」
「そんなことはない。問題だらけだ」
グライムは上着の内ポケットから畳んだ紙を取り出し、パットンに渡した。
アモーレが書き写した、魔牢の設計者の情報と、その後が書かれているものだ。
「オマエ……どこで手に入れた。本当なのか? この情報は……」
「オルドレン王子も猫を被ってる可能性がある。もしくは化けの皮か」
パットンが開いて読んだ。しばらく視線が動いた。
「なぜ隠す?」
「一般的な考えだと、魔牢の情報を他に流さないためだ。よくある曰くだろう? 最強の剣を打った鍛冶屋は殺される」
「だが、この情報を信じるなら殺されてないのだろう?」
「そうだ。理由を考えるなら。魔牢はまだ完成してない。欠点があることを知っていた」
「だから……グライム、オマエを国へ呼んで、魔牢の欠点をあげさせた? 完成させるために? なるほど……ヴァレンからの情報か」
「だろうな。ヴァレンはオレが城壁の欠片一つで、城壁の魔法陣をいじったのを見てる。どこまで繋がってるかはわからない。これも含めてヴァレンの作戦の可能性は十分ありえる」
「考えるだけ無駄だな……」
パットンは紙を折り畳むと、返さずに懐へいれた。
「もう少しだけ、この国へ残る必要があるな……。オルドレン王子は……敵か……味方か」




