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王賊 Crown & Crime  作者: ふん
魔法のない村

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第四部「パートナー復活」

「被害者のハウドは……旅人の依頼を直接受けた者です。作業にも関わっていました」

「証拠隠滅だ」パットンは言った。「魔道具の存在と、それを依頼した者との繋がりを消しに来た。……辺境の地に飛ばされたのは私にとっても不都合だったが、ヴァレンにとっても不都合だったのかも知れない」


「昨日の旅人は魔法を使って殺しを行った。村の魔力の痕跡と混同させれば、村人の誰かが使ったように見える計算だったかもしれない。しかし痕跡の質が違った。長年農村で使ってきた者の魔力と、外から来た者の魔力では、残り方が違う」


 村長の言葉は、ほぼ証拠だった。

 それを王国に持っていくか、王国から研究員を呼んで、調べれさせればすぐに犯人がわかるからだ。


「初めから素直に言えば協力した。なんのために辺境の地を治めようとしてると思っているんだ。優雅にワインを飲みに来てるわけじゃないんだぞ」


 グライムは鼻で笑った。


「アンタがそれを言うか」

「グライム……オマエにも話がある」

「そんなのあとだ。村長、その魔道具の製作記録か、同じ技法で作られた試作品が残っているか」





 倉庫の中に、残っていた。

 グライムとパットンが最初に見たものだ。


 箱の中の部品の一つが、五年前に作られた魔道具と同じ材質で、同じ技法で作られた試作品だった。

 当時の作業記録として残していたものだと村長が言った。


 グライムはその部品を手に取り、確認した。

 五年以上経っているが、精密な作業で作られたものには、製作時の魔力が微量に残る場合がある。


「これを分析に回せれば、姿を変えた者の魔力の痕跡と照合できる可能性がある。魔力の基本的な性質は、姿を変えても変わらないはずだ」

「カックラウに頼み、王都へ持っていくか?」パットンが言った。

「そうするのが普通だろう?」

「待て!」


 パットンが凄むと、グライムは彼の目を見た。

 パットンの目が、止めなければならない理由を持っている目だった。


「止める理由は? オレが知ってる理由なら、止める必要はないはずだ」

「王都の状況が、今は読めない」

「そうだろうな。第二王子と第三王子が暗躍中だ」

「グライム……オマエが聞きたかった答えだぞ。いや……だが、待て。この話は帰ってからだ」

「帰るまでに言い訳が考えつくとは思わないけどな」

「言い訳は必要ない。証拠を見せる」

「そりゃ楽しみだな」

「グライム、オマエにも構ってやりたいところだが、そっちは私の中でもう解決済みだ。先に片付けるはこっちだ」


「先祖の罪についてですよね。どうなりますか?」村長は聞いた。


「記録としてしっかり残す。ただし現在の村人が罪を犯していないことを明記する。五年前の依頼は脅迫による強制で、選択の余地がなかったことも記録に入れる。ハウドの死については、外部からの工作員による犯行として処理する。それ以前のことはこの国は関与していない」


 ハウドの死に関しては完全にヴァレンの命令だ。

 いくら証拠を探しても出てくるはずがないだろう。だが、魔力痕を王都に送り調べさせれば、いくらかの牽制になるとパットンは考えた。


「村は残れますか」

「残れる。ただし一つだけ条件がある。今後、魔法を使えることを隠すのをやめること。正式に申告することだ。そうすれば王国の記録に村として登録できる。記録に載っていない村は、行政上の保護が受けられない。今回のような外部からの脅威があった時に、正式に支援を求めることができない」


 村長はしばらく考えたが、その場で答えは出なかった。


「……分かりました。村の者と話して、決めます」


「急がなくていい」パットンは言った。「こちらには時間がある」


 村長が小屋を出た後、パットンはため息を付いた。


「百年以上隠していたものを、二日で話せとは言えないか……」

「言えないのは、アンタの話し方のせいだ。私兵になれといえば、その場で返事しただろうよ。山賊と同じだ」

「彼らは友人だ。私兵は三獣士で十分だ」

「パットン……三獣士にもう一人いただろ。どこに行ってる?」

「雉のハーピィのケーンのことか? それを本気で聞いてるのか?」

「そう返されるなら、質問を変えればよかった。ヴァレンと繋がってるのか?」

「……グライム。ケーンはオマエのせいで城を出ていったんだぞ。忘れたのか? オマエがケーンの奥さんに地下牢から手紙を送ったのが原因だ」

「それって幽閉されてた時だろ? 脱獄するのに邪魔だから、二、三日手紙とにらめっこしててくれればいいと思ってダメ元で出した手紙だぞ」

「ハーピィの夫婦は色々複雑なんだ……。番の絆や、抱卵問題でな」

「納得した。確かあの時は早く子供が欲しいって、手紙をアイツに変わって出したはずだ」

「なぜそんな事をした……」

「うるさいからだ。ほっとけば一晩中喋ってるやつだぞ? 手紙を口の中に突っ込んで窒息させなかったことを褒めてくれ」

「まぁ……口を塞ぎたくなるのはわかるがな。とにかくケーンも近いうちに帰ってくる。そして――」




 屋敷へと戻ったパットンが、書類の束をテーブル叩きつけた。


「――だ。これが疑いを晴らす証拠だ」


 最初の一枚は、王都からの命令書だった。グライムの身柄を送還せよ、という内容だった。

 文面は簡潔で、発行日は三週間前だ。グライムがこの屋敷に厄介になり始めてから、そう間もない頃に届いたことになる。


 次の一枚を読んだ。

 パットンの名前で書かれた回答書の写しだった。

 城壁の防衛魔法陣が未完成であり、現段階での移送は逃亡の恐れがある——そう記して、パットンは送還を拒否していた。


「オマエを送還しようとした命令が来ていた。それに対して私が拒否の回答を出した」

「やられた……。オレが記憶を失った兵士の夢の中で見た記憶と逆だ。記憶を消したんじゃなくて、改ざんしたのか……」


 グライムが夢の中で見た情報は


 城壁の改修そのものがグライムをこの地に縛り付けるための口実であり、魔法陣の構築をわざと難航させているという、パットン本人の冷徹な工作手順が詳細に書き込まれていた。


 というものだ。


「それで様子がおかしかったのか。立場上言えないこともある、私を信用しろと言わん。だが、敵はヴァレンだ。それは覚えておいてくれ」

「悪かった。完全な油断だ……。まさか一般兵の記憶をいじるとは思わなかった。下手すりゃ廃人だぞ……。よっぽど自信があったのか」

「どちらでもおかしくない。自信家であり、家臣の命などなんとも思っていない。それがヴァレンだ」

「待った!」


 突然グライムが大声を上げたので、なにまだ変なことがあったのかとパットンは身構えた。


「つまり、オレはまた犯罪者ってことか? 王都に戻ったら腕輪か?」

「また――ではない。まだ、だ。そして、その件が決着していない段階で、グライムが王都へ入るのは危険だ。だから、あの時止めたんだ」

「だとしたら、証拠を送るだけ無駄になる」

「だが、部品は王都に送らなければ調べることが出来ないぞ。魔力痕は牽制になるが、部品は証拠をわざわざ返してやるようなものだ」


 グライムとパットンは同時に頭を悩ませた。

 疑いが晴れたからか、まるで兄弟のように同じ腕を組むポーズを取っていた。

 そして、また同時にある男の名前を口にした。


『ボンドだ!』


「ボンドに頼めば、裏社会から部品の解析ができる」

「解析が終わったあと、堂々とヴァレンに送り返してやろう」


 パットンはニヤッと笑うと、右手を差し出した。


「パートナー復活だな」

「あぁ、疑って悪かった」


 グライムがガッチリ握手した。


「いいんだ。疑え。それがオマエの仕事だ。私は気にしない。ただ言え。疑ったことを全部な」

「わかった……アンタとジェーンって」

「上司と部下だ」

「一度も……」

「ない」

「部下になる前」

「しつこいぞ!」

「パットン……アンタに言われたことを実践してるんだ。反省してる証拠だろ?」

「その調子でヴァレンをやり込めてもらいたいものだ……」

「お望みとあらば……陛下」

「王子だ」

「今はな」





 その夜。グライムはボンドに出す海賊ワインの暗号を考えながら、手の中にある部品のことを考えていた。

 五年前の試作品だ。


 この部品の中に、ヴァレンとして動いている者の魔力の痕跡がある。

 それを証拠として使える日が来るかどうか、今は分からない。


 だが、確かな武器になるのは間違いなかった。

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