↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王賊 Crown & Crime  作者: ふん
魔法のない村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/111

第一部「忍び込んだ影」

 短くなった蝋燭の炎が、書類の端で不規則に揺れていた。


 パットンは羽根ペンを置き、目を細めて今書いたばかりの文面を読み返した。

 先日の大雨による被害についてだ。明朝までに予算の承認を出しておく必要がある。

 数字は合っているのを確認すると、署名をして、書類を脇に寄せた。


 ついで、次の書類を手に取る。

 巡回の報告書だ。特記事項の欄は空白だった。いつも通りだ。パットンはそれを承認の束に加えた。


 ここの辺境の地では、政務や公務だけではない。王子がしないような執務もこなす必要がある。


 窓の外では、夜風が木の葉を鳴らし騒がしていた。

 その音で気が散ったということは、集中力が切れてきた証拠だ


 パットンが一度伸びをすると、バキバキと肩が鳴った。

 もう一仕事あるが、明朝までのものは終わったので、今夜はここまでにしようと思い、蝋燭を吹き消した。


 立ち上がり、上着を整え、執務室を出た。

 ドアに鍵をかけると、見回りの衛兵が歩いてきて、二言三言交わした。

 特に変わったことはないという報告に、パットンは軽く笑ってご苦労と言った。

 

 そしてその二つの影が離れると、入れ替わるようにグライムが現れた。


 懐から金属の棒を二本取り出す。

 辺境の錠。それも屋敷の執務室だ。グライムの手にかかれば、音もなく解錠することなど造作もない。


 鍵穴に差し込み、指先だけで内部の構造を読む。

 あっという間にドア開け、隙間から中に入り、後ろ手にそっと閉めた。


 まず机の上を一瞥したが、書類の山には触れない。

 統治記録、予算の承認書、巡回の報告書。月明かりの下でも、端を几帳面に揃えて積まれているのがわかる。

 パットンという男の性質がそのまま出ている。

 特別なものを出しっぱなしにしとくわけがない。ここに積まれているものは、朝早く片付ける書類だ。


 次いで、引き出しを上から順に開けていった。

 中に入っているのは、筆記道具に白紙の書類と封蝋。

 目当てのものがないか確認していると、ふいに廊下で足音がした。


 グライムは引き出しを半開きのまま、動きを止めた。

 足音は二人分。

 話し声に耳をそばだてると、息を潜めた。


 見知った声ではないので、執務室に入ってくることはない。

 黙っていれば、ただ扉の前を通過する。

 

 遠ざかっていく足音を聞きながら、グライムは三番目の引き出しを引いた。


 引き出しの中に書類束があった。

 他の書類と同じ紐で束ねられているが、結び目の形がわずかに違う。他よりもわずかに力を込められた硬い結び目になっている。


 自分でも気付かないうちに力がこもってしまった跡だ。つまり、誰かに見られたら困るものだ。


 グライムは束を取り出し、月明かりの下に持っていって目を通した。


 それは城壁改修の手続きを意図的に遅延させた記録だった。

 どの業者に、いつ、どの書類を差し戻したか。担当者への指示の内容。

 末尾にパットンの署名があった。


 グライムは書類を見たまま、しばらく動かなかった。


 怒りは湧いてこなかった。驚きでもなかった。

 もっと静かなもので、名前をつけるとしたら確認という言葉が近い。

 疑っていたから調べに来た。

 調べたら、疑い通りだった。それだけのことだ。それだけのことのはずだった。


 それでも、息が少し重くなった。


 グライムは廊下に出て、後ろ手に鍵を閉めた。

 廊下を歩いて、自分の部屋に戻った。寝台の端に腰を下ろし、窓の外の暗い空をしばらく見た。


 わずか五分にも満たない時間だったが、まるで長い一日を過ごしたかのような疲れが襲ってきた。

 気づけば、グライムは浮かない気分のまま眠りについていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。