第二部「連続怪死事件」
三人の被害者の行動を追うのはパットンの役なので、グライムは別の方向から動いた。
翌日の午後、グライムは王都の南西の奥にある劇場街へ向かった。
この街区には小劇場がいくつか並んでいる。
役者がたまる酒場、楽器の修繕屋、楽譜の写本を扱う古本屋、朗読会の看板を出している集会所。
詩に限らず、文学に関わる人間が集まりやすい場所だ。
何もないまましばらく歩いたところで、一枚の告知板の前で足を止めた。
『吟遊詩人シオン・ヴォーカル、一夜限りの朗読会。未完の詩集を語る夕べ。参加者との対話を大切にする特別な夜』
日付は三日後。場所は近くの集会所だ。
詩の朗読会が開かれるだなんて、こんなに都合の良いことはない。
グライムが思わず警戒するほどだった。
告知板の前を離れて、近くの古本屋に入ると、店主ん老人に詳細を確認した。
「そこの告知板を見たんだけど……。シオン・ヴォーカルという詩人を知っているか?」
「ああ、もちろんだ。彼は旅の詩人。一年ほど前から、何度かこの街に来ては朗読会を開いている。変わった男でね、必ず"未完の詩"を語るんだよ。完成形は見せない。途中まで読んで、あとは聞いた者の想像に任せると言って」
「未完成の詩の朗読ね……。人気があるのか?」
「あるね、みんなその未完成の詩を聞きたがる。特に、知識人に評判がいい」
「聞きたがるってことは。朗読会では発表されないのか?」
「その時々の出来の良い生徒だけが、未完の詩を聞かせてもらえるんだ。先月も学者の先生が熱心に通っていたよ」
グライムは話を聞きながらまさかと思っていた。
シオン・ヴォーカルが犯人なのは、この店主の話からしても間違いない。
シオン・ヴォーカルがこの街でしている活動自体が、犯人は私ですと宣伝しているようなものだ。
その日の夜、隠れ家での報告は短かった。
「つまりだ。自己顕示欲が強く、ナルシスト。それが、シオン・ヴォーカルだ」
グライムの報告に、パットンはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「なんだよ。本気で言ってんだぞ。きっと犯人は自己愛が異常に強い。金や怨恨が主目的じゃない」
「わかっている……。こちらで調べた情報にもそう感じられるものが節々に合ったからな」
「なら、答え合わせだな。被害者三人に共通する場所が見つかった。一ヶ月以内にシオン・ヴォーカルという詩人の朗読会に参加していた」
「こっちが調べたものを概ね同じだ。三人とも死ぬ前の週に、彼の個人的な朗読会へ呼ばれたと友人と会話している」
「あとは昨日今日に現れた輩ではないってことだな」
「それも調べがついた。一年ほど前から、シオン・ヴォーカルはこの国に現れているが、最近の事件以外の関与については不明だ。未解決の事件で似たようなものを探してみたが、類似事件はなかった。グライムの見立てがただしければ、つい最近急に犯罪者になったんだ」
「犯罪者になるための手段を見つけたが正しい。犯罪だろうがスポーツだろうが、技術を吸収してる最中が一番腕試しをしたくなる」
「つまり今がチャンスということか」
パットンがじっとを顔を見ると、グライムはそのチャンスは手に入れたとニヤッと笑った。
「三日後に朗読会がある」
「行くつもりなのか?」
「参加者として入るのが一番いいだろ。告知板の紙を引っ剥がして持っていけば、情熱があると思われ、特別に目をかけられる可能性もある。参加するのが目的じゃない。こっちの顔と名前を覚えられるのが目的だ」
「なるほど……私も行く。詩のことなら任せてくれ。腕におぼえありだ」
パットンは既に変装した気になり、背筋を正し、襟の位置を直した。
「王子が行ったら目立つだろ」
「変装すればいいだろ」
「下手な変装は変質者にしか見えない」
「失礼だな……。グライム、オマエが私を変装させればいい」
「いいか? 王子に来てほしかったら、城に連絡を入れるだろ。告知板に貼ってあったってことは、素人を集めたいんだ」
パットンがしばらく黙った。
確かに詩のこととなれば、昔の勉学を思い出し、余計な口を挟む可能性がある。
「わかった……会場の外で待機する。だが、カックラウを付けるぞ。オマエから目を離すほうが危険だ……」
「カックラウも連れてくるなよ……。あいつが一番厄介だ。詩の朗読会だぞ、あいつは空気を読めないだろ。目的はシオン・ヴォーカルを気持ちよくお喋りさせて、証拠を掴むことだ」
「ならジェーンなら?」
「ジェーンか……。私服なら目立たないな。犯人を刺激するなよ、まだ魔法の仕組みがわかってないんだからな」




