第四部「牢屋の抜け道」
夕方になった頃。地下牢ではボンドが四杯目のグラスを置いた。
「ところで王子、一つ聞いていいか? 四年前なにやってたんだ?」
「第三王子だぞ。やることなんてあってないようなものだ」
「そんなわけないだろう。王子っての無職の別の呼び方か?」
「オマエが期待するような仕事はないということだ。で、なければ街に出られるわけがないだろう」
「四年前もか?」
「そうだ」
「そうか……」
ボンドは急に黙った。
四年前もパットン王子が身分と正体を隠して、街の犯罪を対処していたのならば、グライムはその最中のパットンに遭遇している可能性がある。
そして再びこの国へ戻った時に、パットンの馬車を襲撃している。
グライムがルミナス暗号のことを知ったのは、四年前なにかを見たからではないかと思ったからだ。
それも……パットンの関連したもので。
だから、グライムはパットンの馬車にルミナス暗号を解くためのアイテムがあるとわかっていた。
「どうした? ボンド。酔ったか?」
急に黙ったのでパットンは心配したが、ボンドはすぐにいつもの調子へと戻った。
「海賊ワインのせいだ。飲みすぎると船酔いみたいに気持ち悪くなるんだ」
「それは飲みすぎだ。ただのワインでもなるだろう」
「いーや。この地に足がついてないかのよう酩酊感。これこそ、海賊ワインの醍醐味だ」
ボンドは酔ってないと立ち上がると、ふらふら千鳥足で牢屋の壁にぶつかった。
「おいおい……飲みすぎだぞ。しかたない……カックラウ。毛布をもってこい。今日は牢屋に入れておく」
「なにかしたんですか?」
「酔っ払いだ……。こんな状態で連れ出して、城の中で騒がれたら誤魔化しが利かない。酔いが覚める明日の朝まで、ここで捕らえておく」
「ワイン瓶を抱えて寝てますよ? 警備はどうしましょう」
「犯罪を犯したわけでは……今は証拠はない。放っておけ……。こんなところで眠れるだなんて……。どういう神経をしているのだか……」
パットンは床で寝息を立てるボンドに毛布をかけると、しっかり牢屋に鍵をかけ、カックラウと一緒に出ていった。
階段上のドアが締まり、鍵がかかる音がすると、ボンドはすくっと立ち上がって、耳を澄ました。
パットンとカックラウが消えると、早速直ぐに行動を開始した。
「グライムの言う通りだな。記念日の手伝いだけで、こうも信頼するとはな。……世界が平和だったら、良い王様になれただろうに。残念ながら世界は暗黒へ向かう真っ最中。まぁ、そもそも平和だった時期なんてないんだけどな、この世界にはな」
ボンドはぶつぶつ独り言を言いながら、壁に手をついて調べた。
ここは以前グライムが何か月も幽閉されていた地下牢だ。彼が、なにもここに残していないことはありえない。
隠すなら壁の一部だ。
なぜなら、レンガは最高の隠し場所になるから。
そして、ボンドは見つけた。
グライムはレンガの一部を取り外しできるようにし、裏にメモを残した。
それはカギ型だった。
「潜入できないなら、捕まればいい。海賊ワインはその名の通り、賊のためのワインだ」
ボンドは抱きかかえていたワイン瓶のラベルを剥がすと、それをワイン瓶に浸した。
すると、ラベルは粘土のように固まった。
それをカギ型に押し込み、数秒待つとラベルはあっという間に固まった。
ゴブリンの細い腕を格子の隙間から伸ばし、固まったラベルを鍵穴に挿し込みひねると、簡単に牢屋のドアが開いた。
そして、海賊ワインのコルク便を口に入れ、何度も噛み砕き、小さくして飲み込んだ。
吐いた息に酒の匂いはなく、爽やかなミントの香りがした。
海賊ワインはコルクも特性な作りになっており、噛めば強烈なミントの香りになり酒の香りを消せるのだ。
「城を歩くならエチケットが大事だってね」
小さな影は鉄格子のドアを開けると、音もなく闇に混じり消えていった。
翌朝。ボンドは地下牢でカックラウに起こされ、荷台に押し込まれ、城から出ていった。




