表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王賊 Crown & Crime  作者: ふん
抜け道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/20

第四部「誰の思惑?」

夜が深まった隠れ家に、ボンドが帰ってきた。


 グライムはテーブルに肘をついて酒瓶を傾けていた。帰ってきた足音を聞いても立ち上がらなかったのは、ボンドへの信用の現れだ。


 無事に帰ってきた。城に侵入して帰ってきた。それだけでボンドの変装と侵入の腕の良さがわかる。


 だが予想を反し、ボンドの第一声は「抜け道は調べられなかった」というものだった。

 グライムは思わず酒瓶を置いて、立ち上がった。


「おい、嘘だろ……完全にボンドを信用してたんだぞ」

「今回はだ。少なくとも、後数回は必要だな。兵士は無駄話は市内が、侍女は話しかけてくる。ちょっと厄介だぞ。女は細かいところに気が付くからな」

「つまり時間がかかるってことか……」


 グライムは丸めた手でテーブルを軽くコツコツ叩いた。彼の苛立ちを示す仕草だ。


「最初からそのつもりだろ。それより、この手何度も使えないぞ。そのうち売るもんがなくなる。そうしたら商人本人の確認が必要なものを売る必要がある。無理だろ、そんなのを用意するのは」

「わかってる……。ちょっと黙っててくれ、考えがまとまらない……」


 グライムは珍しく、押し黙った。


 ボンドはそれを見て、酒瓶を掴んだ。

 隣の棚からわざわざグラスを二つ持ってきて、一つグライムの前に置き、一つを自分の前に置く。

 それも雑にではなく、お祝いごとをするように丁寧にセッティングした。


「まぁ、落ち着いて酒でも飲め」

「落ち着いてられるか。わかってても……進歩ゼロってのは焦る」

「パットン王子も、その部下も、今日は来ないだろう。魔法錠を足から腕につけ直したんだろ? せっかくだ、足を伸ばせ。ほら」


 ボンドが椅子に座ったまま短い足をテーブルに乗せると、グライムも同じように同じテーブルに足を乗せた。


 ランタンの炎が小さく揺れて、影が壁を踊るように緩やかに動く。


「それで? なにを祝うんだ?」


 グライムが尋ねると、ボンドを肩をすくめてからグラスを持った。


「乾杯の前には、酒が注がれてないとおかしいだろう」


 グライムは飲みかけの酒瓶から、二つのグラスに酒を注いだ。

 グラスを手に取ると、ボンドはおもむろに口を開いた。


「いいものやる。城で拾った」

「侍女の下着でも拾ったか?」

「もっと良いもんだ」


 ボンドがポケットから取り出したものは、布のようにはらりと落ちるのではなく、コツンと硬い音を立ててテーブルを転がった。


 小さな、灰色の欠片だった。


 グライムは酒瓶をテーブルに置き、その欠片を拾い上げた。

 指で表面を撫でる。石の手触りだが、普通の石ではない。特定の鉱物が混じった、城壁にも使われている特有の素材だ。


「これ……城壁の一部の欠片か?」

「そうだ。パットン王子は城には持ち帰ってないって言ったな?」

「ああ、アイツは嘘をつけない」

「じゃあ誰かが城に持ち運んだんだ」


 ボンドは言い終えるのと同時に、ぐっと酒を煽ってグラスを空にしたが、グライムは酒を飲むことなく、欠片を手のひらに転がしていた。


「外から持ち込まれた石の欠片と、内側で誰かが持ち運んでいた城壁の欠片では、意味が全然違う。前者は偵察の証拠だが、後者は……」


 グライムは言葉を止めた。

 後者は、城の内部に協力者がいるという証拠だ。


「なあ、パットン王子は本当に壁の欠片を盗んだ犯人を探してるのか?」


 ボンドがすっかり酒臭くなった息で言う。


「どういう意味だ」

「いいか。オマエが証拠を見つけるってことは、逆にパットン王子のアリバイも作れるってことだ」

「オレを利用して犯罪の矛盾点を洗い出して、完全犯罪にしようとしてるってことか?」

「そうだ」

「ボンド……オレを評価してくれるのは嬉しいけど……」


 グライムはため息を付く代わりに、口元を歪ませた。


「おい……やめろよ、その顔。オレのことをバカにしてるな!」

「パットンが怪しいのは確かだ。でもな……そういう理由の仕方をするなら、見張りは絶対に外さないだろ。ボンドの言うとおりなら、この会話も聞かれてるぞ。オマエの過去の犯罪の帳消しも……帳消しだな」

「それがグライムの悪い癖だぞ。裏をかかれるってことを考えてないんだ、いつもな。自分が一番賢いとでも思ってるんだろう」

「スマートと言ってもらいたいね」

「いつか足元すくわれるぞ」

「なら、その日までは、一番賢いと名乗るかな」


 グライムは自信満々の笑顔でグラスを傾けるが、ボンドはすっかり呆れていた。





 同じ時刻。

 パットンは猿の獣人のジェーンから報告を受けていた。


 猿の獣人は、高所の移動や身のこなしに優れ、気配を消して人の目をすり抜けることに長けている。

 

 中でもジェーンは群を抜いていた。

 屋根裏、梁の上、狭い路地――人が意識しない場所を渡り歩き、欲しい情報だけを持ち帰る。

 パットンがその腕を疑ったことは一度もない。


 つまりグライムにボンドがいるように、パットンにはジェーンがいるのだ。


「なるほど……。報告はこれで全てか?」

「はい。グライムの手に渡ったのが最後。それ以降の足取りは不明です」

「わかった……。潜入ご苦労」

「いえ。ではこれで」


 ジェーンは一礼すると、音もなく部屋を後にした。


 部屋で一人になったパットンは、月を見上げて眉間にしわを寄せた。


「グライムは……もう少し泳がせるか……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ