第5話 このちびっ子が少尉!?
一九四一年十二月二十日 午前九時
アメリカ海軍 真珠湾基地
真珠湾攻撃から、
すでに十三日が過ぎていた。
港には今なお、
戦火の爪痕が色濃く残されている。
戦艦アリゾナは依然として海底に眠り、
戦艦ウェストバージニアやカリフォルニアも、
なお引き揚げと修復作業が続けられていた。
埠頭では、
工兵たちが昼夜を問わず施設の復旧に追われ、
ドックでは無数の溶接の火花が飛び散っている。
基地全体は、
当初の混乱から徐々に立ち直り、
ようやく秩序を取り戻しつつあった。
しかし――
今、真珠湾基地で最も大きな話題となっているものが一つあった。
十三日前、
戦場へ突如として姿を現した、
あの謎の複座戦闘機。
そして、
その機体を操る二人の正体不明の搭乗員である。
司令部による調査、
事情聴取、
そして機密審査を経て、
太平洋艦隊司令部は最終的に、
二人を正式に真珠湾基地へ配属することを決定した。
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基地の集合広場。
数百名の海軍将兵が整然と隊列を組み、
静かに整列している。
一人の海軍中佐が演壇へ上がった。
「気をつけ!」
その号令とともに、
全員が一斉に背筋を伸ばす。
中佐は隊列を見渡し、
重々しく口を開いた。
「諸君。」
「本日より、真珠湾基地へ二名の新たな仲間が正式に加わる。」
「すでに、その名を耳にした者も少なくないだろう。」
その言葉に、
隊列のあちこちから小さなどよめきが起こる。
「まさか……。」
「あの二人か?」
「ついに正式発表されるのか。」
中佐は後方へ向き直った。
「前へ。」
「登壇せよ。」
二つの人影が、
ゆっくりと姿を現す。
先頭を歩くのは、
長身の青年だった。
短く整えられた金髪。
身長は約百八十センチ。
落ち着いた表情。
隙のない立ち姿からは、
豊富な飛行経験がうかがえる。
肩章には、
アメリカ海軍大尉
カイル・マイスター
の階級章が輝いていた。
その隣に立つのは、
小柄な女性士官。
金茶色のポニーテールを後ろで束ね、
身長は約百五十八センチ。
冷静な眼差しと鋭い観察力を感じさせる瞳。
華奢な体格ながら、
その佇まいからは揺るぎないプロフェッショナルの風格が漂っていた。
肩章には、
アメリカ海軍少尉
コート・ウィルソン
と記されている。
その瞬間、
広場は静まり返った。
多くの将兵が、
思わず二人へ視線を向ける。
「……あの二人か。」
「思っていたよりずっと若いな。」
「隣の女性が、あの日兵装システムを担当していたっていう?」
「本当なのか……。」
中佐は二人へ視線を向け、
紹介を続ける。
「アメリカ海軍大尉――」
「カイル・マイスター。」
カイルは一歩前へ進み出ると、
背筋を伸ばし、
教範どおりの美しい敬礼を行った。
「皆さん、よろしくお願いします。」
落ち着きがあり、
力強い声が広場に響いた。
「これから共に戦えることを楽しみにしています。」
続いて中佐が紹介する。
「アメリカ海軍少尉――」
「コート・ウィルソン。」
コートも一歩前へ進み、
きびきびと敬礼した。
「コート・ウィルソン少尉です。」
「兵装システム士官(WSO)を務めます。」
「これからよろしくお願いいたします。」
その挨拶が終わった直後だった。
一人の若いパイロットが、
堪えきれないように手を挙げる。
「質問があります!」
中佐は静かにうなずいた。
「発言を許可する。」
若いパイロットは立ち上がり、
期待に満ちた眼差しをカイルへ向けた。
「大尉。」
「お聞きしたいことは、一つだけです。」
彼はゆっくりと言葉を続ける。
「十三日前に現れた、あの戦闘機は――」
「今でも飛べるんですか?」
その瞬間、
広場は水を打ったように静まり返った。
数百人の視線が、
一斉にカイルへ注がれる。
カイルはしばらく沈黙し、
やがて穏やかな笑みを浮かべた。
「飛べる。」
短く、
しかし力強く答える。
そして、
集まった将兵たちをゆっくり見渡した。
「あの機体は――」
「これから皆さんと共に戦う。」
「そして、アメリカ合衆国を守る。」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
「よっしゃあ!」
誰かが真っ先に歓声を上げた。
それを合図に、
広場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。
「やった!」
「あの戦闘機がいれば、日本軍がまた来ても怖くない!」
「俺たちはもう孤立無援じゃない!」
「アメリカは必ず勝つ!」
将兵たちの表情から、
十三日前の敗北と悲しみの影が少しずつ消えていく。
その瞳には、
再び希望の光が宿り始めていた。
歓声が広場を包む中――
カイルの隣に立つコートだけが、
聞き慣れた電子音声を耳にする。
【アカシより通知。】
【両リンク対象の本時代における軍事体系への正式編入を確認しました。】
【身分情報の同期を完了。】
【歴史偏移率:13.7%。】
【真珠湾基地長期支援ネットワークを構築します……】
数秒後。
【構築完了。】
コートは表情を変えることなく、
そっとカイルへ視線を向けた。
カイルも何かを察したように、
わずかに口元を緩める。
今日、この日をもって――
二人はもはや、
歴史の狭間から現れた謎の来訪者ではない。
真珠湾基地に所属する、
アメリカ海軍の一員として、
新たな一歩を踏み出したのだった。
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三日後 真珠湾海軍基地・食堂
朝食の時間。
食堂は朝食を取る海軍将兵で賑わっていた。
カイルとコートは食堂の隅の席に座り、
数名のパイロットたちと朝食を囲んでいる。
その時だった。
三人の体格のいい水兵が、
食堂の扉を押し開けて入ってきた。
そのうちの一人が店内を見回し、
すぐにコートの姿を見つける。
一瞬足を止めると、
口元に見下したような笑みを浮かべた。
「なんだ?」
「なんで飛行服を着た女がいるんだ?」
別の一人が、
わざと周囲にも聞こえるよう声を張り上げる。
「そんなチビでも戦闘機に乗れるのか?」
三人目が腹を抱えて笑った。
「海軍も、とうとう人手不足ってわけか!」
食堂の空気が、
一瞬にして静まり返る。
コートの手が止まった。
フォークを静かに皿の上へ置く。
さっきまで浮かべていた笑みは、
跡形もなく消えていた。
彼女が一番嫌いなのは、
背が低いと言われることではない。
その身長だけで、
自分の実力まで否定されることだった。
この時代、
女性パイロットは極めて珍しい存在である。
ましてや、
女が男を差し置いて戦うなど、
快く思わない者も少なくなかった。
見かねた一人の兵士が立ち上がる。
「やめろ!」
「その言い方は――この方は……!」
言い終えるより早く、
三人のうち一人が乱暴に彼を突き飛ばした。
兵士は勢いよく床へ倒れ込む。
「引っ込んでろ!」
「お前の出る幕じゃねぇ!」
その一部始終を見ていたコートは、
無言で立ち上がった。
ゆっくりと、
一歩ずつ三人へ近づいていく。
カイルは一度だけ顔を上げ、
その光景を見ると、
ぽつりとつぶやく。
「おっと……。」
「これは面白いことになりそうだ。」
隣に座っていた若いパイロットが驚く。
「面白いことって……。」
「大尉、止めなくていいんですか?」
カイルは平然と朝食を食べ続けながら答えた。
「必要ない。」
「どうしてです?」
カイルは小さくため息をつく。
「なぜなら――」
「俺も昔、あいつに『チビ』って言ったことがある。」
その場にいた全員が目を丸くした。
「それで?」
「どうなったんです?」
カイルは苦笑しながら、
自分の頬に触れる。
「気絶した。」
「三分くらいだったかな。」
すると、
背中を向けたまま歩いていたコートが、
冷たい声で訂正する。
「三十分です。」
カイルは軽く咳払いをした。
「……そうだった。」
「三十分だったな。」
その一言で、
食卓から一斉に笑いが起こる。
だが、
三人の水兵はさらに大声で笑い出した。
「はははは!」
「このチビが海軍パイロットを三十分も気絶させたって?」
「冗談にしても笑えすぎる!」
そのうちの一人が、
コートを見下ろして鼻で笑う。
「おチビちゃん。」
「そんなに自信があるなら、やってみろよ。」
コートはゆっくりと顔を上げた。
氷のように冷たい蒼い瞳が、
男をまっすぐ射抜く。
「……それが、あなたの遺言?」
その声は静かだった。
だが、
周囲の誰もが思わず背筋を震わせるほどの冷たさを帯びていた。
それでも男は、
危険に気付く様子もなく笑っている。
「なんだ?」
「本当にやれるっていうなら――」
そう言うと、
自分の胸を指先で軽く叩いた。
「一発で俺を倒してみろよ。」
その光景を見つめるカイルは、
思わず苦笑する。
(まったく……。)
(この展開、どこかで見たな。)
彼の意識は、
ゆっくりと一年前へと遡っていく。
あの日――
カイル・マイスターが、
コート・ウィルソンと初めて出会った日のことだった。
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時は一年前――
二〇二五年 リムーア海軍航空基地
カイル・マイスターは、
ラウンジで飛行データを整理していた。
そこへ一人のパイロットが笑顔で近づいてくる。
「マイスター大尉。」
「今日着任する新人、かなりの美人らしいですよ。」
別のパイロットもすぐに話へ加わる。
「いいなぁ。」
「上から美人の相棒をあてがってもらえるなんて。」
さらにもう一人が笑いながら言った。
「ずっと独り身だから、上官が気を利かせてくれたんじゃないか?」
ラウンジは一斉に笑い声に包まれる。
カイルは苦笑しながら首を振った。
「からかわないでくれ。」
「俺は飛行技術さえ確かなら、それで十分だ。」
すると別のパイロットが肩をすくめる。
「またまた。」
「美人で腕まで一流だったら、人生勝ち組じゃないですか。」
そんな他愛ない会話で盛り上がっていると――
ラウンジの扉が静かに開いた。
一人の若い女性パイロットが姿を現す。
金色の無造作なポニーテール。
細身の体つき。
身長は百五十センチ台半ばほどしかない。
彼女はその場の全員へ向かって、
はきはきと挨拶した。
「はじめまして。」
「コート・ウィルソン少尉です。」
「本日付で着任しました。」
「どうぞよろしくお願いいたします。」
その姿を見た周囲の隊員たちは、
思わず顔を見合わせる。
(……ち、小さい!)
(あの子が新しいクルー?)
(本当にパイロットなのか?)
その時、
体格のいい三人の水兵が、
からかうような笑みを浮かべながら彼女へ歩み寄った。
一人が口笛を吹く。
「へぇ。」
「こいつが新入りのパイロットか。」
別の一人は頭の先から足元まで眺め回す。
「百五十センチあるのか?」
三人目がニヤニヤしながら言う。
「おチビちゃん。」
「ここは海軍基地だぞ。」
「高校のクラブ活動じゃない。」
最初の男も笑いながら続ける。
「その足で操縦桿はともかく、ラダーペダルまで届くのか?」
三人は声を上げて笑った。
コートは立ち止まり、
無表情のまま三人を見つめる。
「……言いたいことは、それだけ?」
男の一人はまだ笑っている。
「なんだ?」
「泣いて教官のところへ駆け込むか?」
次の瞬間――
ドゴッ!!
乾いた衝撃音がラウンジに響いた。
コートの鋭いストレートが、
最初に挑発した男の顔面へ真っすぐ叩き込まれる。
男は声を上げる暇もなく、
その場に倒れ込んだ。
コートは残る二人を鋭く睨みつける。
氷のように冷たい青い瞳が、
二人を射抜く。
「……もう一度言ってみなさい。」
「今度は容赦しないわ。」
残る二人も何が起きたのか理解する間もなく、
コートは一気に間合いへ踏み込んだ。
鋭い体術で次々と相手を制圧していく。
三十秒も経たないうちに、
三人全員が床へ倒れていた。
ラウンジは静まり返る。
その場にいた全員が目を丸くしていた。
カイルの隣にいた同僚が、小声でつぶやく。
「大尉……。」
「小さいですけど、結構かわいいっすね。」
カイルは心底あきれたような顔を向ける。
「……お前、どこか悪いのか?」
そう言うと席を立ち、
コートの前まで歩いて行った。
「やあ。」
「チビ。」
「俺はカイル・マイスター大尉。」
「今日から君の――」
その後、俺は三十分気絶した。
(現在)
時は現在へ戻る。
大男は鼻で笑い、
コートの肩へ手を伸ばした。
「ちょっと、そのチビ――」
言い終える前だった。
コートが地面を蹴る。
小柄な身体が一瞬で宙へ舞い上がる。
両脚が鋏のように男の首へ絡みつき、
身体をひねる勢いそのままに投げ飛ばした。
ドンッ!!
大男は体勢を完全に崩し、
コンクリートの床へ叩きつけられる。
食堂中からどよめきが上がった。
男が起き上がるより早く、
コートは軽やかに着地する。
残る二人も同時に飛びかかる。
「一人だ!」
「一気に行け!」
コートは一歩も退かない。
拳を紙一重でかわす。
そのまま肘打ちを腹へ叩き込む。
もう一人が殴りかかる。
手首を掴み、
流れるような一本背負い。
ドンッ!!
最後の一人も体勢を立て直す暇なく、
横蹴りをまともに受けて吹き飛ばされた。
三十秒後――
三人とも床へ転がり、
苦しそうにうめいていた。
一瞬静まり返った食堂は、
次の瞬間、
大歓声に包まれる。
「少尉! 最高だ!」
「最高の見世物だったぞ!」
カイルはゆっくり立ち上がり、
倒れている三人を見下ろして苦笑した。
「一つ忠告しておく。」
周囲を見渡しながら言う。
「小さいからって甘く見るな。」
「こいつは俺を一発で三十分気絶させた女だ。」
コートがゆっくり振り向く。
冷たい視線。
カイルは慌てて目を逸らした。
「……悪かった。」
「他意はない。」
コートは小さく鼻を鳴らし、
そのまま何も言わなかった。
その時だった。
騒ぎを聞きつけ、
食堂へさらに多くの将兵が集まってくる。
その中の一人が、
倒れている三人を見るなり苦笑した。
「ああ、やっぱり。」
「こいつら、昨日本土から着任したばかりなんだ。」
彼はコートへ頭を下げる。
「申し訳ありません、少尉。」
「昨日来たばかりで、まだ少尉のことを知らなかったんです。」
コートは乱れたフライトスーツを軽く整え、
静かに答える。
「気にしないでください。」
「もう慣れていますから。」
その声は、
あまりにも静かだった。
まるで、
自分とは関係のない話をしているように。
だが、
カイルだけは見逃さなかった。
視線を伏せたその一瞬。
彼女の瞳に、
ほんのわずかな寂しさが宿ったことを。
彼女が本当に傷つくのは、
挑発されたことではない。
どこへ行っても、
誰もが最初に見るのは、
彼女の身長。
そして、
女性であること。
実力を見ようとする者は、
ほとんどいない。
カイルは小さく息を吐いた。
慰めの言葉は口にしない。
そんな一言で消えるような思いではないと、
誰よりも知っていたからだ。
彼はただ、
静かにコートの隣へ立つ。
「朝飯、冷めるぞ。」
コートは少し驚いたように彼を見る。
そして、
小さく笑った。
「……はい。」
二人は肩を並べ、
席へ戻っていく。
その日以降、
食堂で彼女の身長を笑う者は、
誰一人いなくなった。
翌日
真珠湾海軍基地・食堂。
朝食の時間。
カイルとコートが食堂へ入ると、
さっきまで賑やかだった店内が、
一瞬だけ静まり返った。
次の瞬間。
一人の若い水兵が笑顔で手を振る。
「ウィルソン姐さん!」
コートは思わず立ち止まる。
「今日、アイスありますよ!」
「俺がおごります!」
別の水兵も元気よく手を挙げた。
「姐さん!」
「コーラもあります!」
「昨日のヘッドシザーズ、最高でした!」
さらに別の兵士も笑う。
「姐さん!」
「今度誰かに絡まれたら助けてください!」
食堂中が笑い声に包まれた。
コートはその場で固まる。
少し照れくさそうに視線を泳がせた。
昨日三人を倒しただけで、
今日にはもう、
皆から「姐さん」と呼ばれている。
思わずカイルを見る。
カイルはトレーを持ちながら笑いをこらえていた。
「おめでとう。」
「昨日で一気に有名人だ。」
コートは困ったようにため息をつく。
「……私は静かに朝ご飯を食べたかっただけなんですけど。」
カイルは笑った。
「もう無理だろうな。」
その時だった。
昨日倒した水兵の一人が、
アイスを二本持って走ってきた。
「姐さん!」
「どうぞ!」
コートは数秒黙って彼を見つめる。
やがて、
静かにアイスを受け取った。
「……ありがとう。」
水兵は満面の笑みを浮かべる。
「どういたしまして!」
「昨日、本当に格好良かったっす!」
(幾天後)
前回の騒動から数日後。
基地には新たな新兵たちが配属された。
食堂の入口でコートを見かけるなり、
数人が小声で笑う。
「女がパイロット?」
「しかもチビじゃないか。」
コートは何も言わなかった。
ただ、
冷たい視線を向けるだけだった。
周囲の兵士たちは、
「またコートが返り討ちにするだろう」
と思っていた。
しかし――
突然、
一人の大柄な水兵が立ち上がる。
「おい。」
「今、何て言った?」
続いて、
食堂のあちこちから兵士たちが立ち上がる。
一人。
二人。
五人。
十人。
あっという間に、
新兵たちは屈強な兵士たちに囲まれていた。
一人が手首を鳴らしながら笑う。
「坊主。」
「俺たちのウィルソン少尉を馬鹿にするつもりか?」
別の兵士も拳を鳴らす。
「少尉に失礼とは、いい度胸だな。」
新兵たちはようやく気付く。
食堂中の視線が、
すべて自分たちへ向いていることに。
冷や汗が一気に流れ落ちた。
「ぼ、僕たちは……。」
「ただの冗談で……。」
大男がにやりと笑う。
「安心しろ。」
「俺たちも冗談だからな。」
次の瞬間。
数人の兵士が、
一人は腕を、
もう一人は足を掴む。
「ま、待ってください!」
「俺たちは――」
最後まで言い切る前に、
数人まとめて持ち上げられ、
食堂の外へ放り投げられた。
ドサッ!!
食堂の外から悲鳴が響く。
それから数日後。
「ウィルソン少尉、おはようございます! 今日のコーヒーです!」
「少尉、荷物なら運びます!」
「少尉! 午後、一緒に野球やりませんか!」
次々と飛んでくる挨拶に、
コートはただ呆然と立ち尽くしていた。
いつの間にか、
自分が基地中の人気者になっていたのだ。
その様子を見つめながら、
カイルは静かに微笑む。
――あの日。
「もう慣れていますから。」
そう口にした彼女。
だが、その言葉はもう少しだけ、変わり始めているのかもしれなかった。




