信じた仲間が敵になった日――海ほたるのカウントダウン
前回のお話はーー
中央会館最上階で待っていたのは、爆弾と覚悟を抱えた三月だった。止めるカズマと由真、寄り添う峰子。そして三月が口にしたのは、あまりにも残酷な本音だった。
「ココから先は、俺とコイツで止める。……お前らだけで行けるな?」
海ほたるの入口に180SXを停めた裕一は、嫌がって暴れる陸の首根っこをしっかり掴んでいた。
「なんでオレ様がお前なんかと残んなきゃなんねーんだよ!」
「頭使え、バカ」
この先には、鍵や砲撃のシステムが組まれている可能性がある。
マスターロック・薫の力は必要だ!
幸太と薫は短く頷き、振り返らずに海ほたるの中へ駆け出した。
「一時休戦だからな! おっさん!」
「俺、おっさんに見える? 若いつもりなんだけどねぇ」
憎まれ口を叩き合う声と同時に、180SXに乗り込む。
戦闘態勢は整った。
さぁ、ドコからでもかかって来い!
警戒したまま、海ほたるへ踏み込んだ幸太と薫は足を止めた。
会館と同じく鍵こそ閉じられている。
しかし、人の気配が――ない。
さび付いた土産屋の棚。
壊れたゲーム機。
ここがかつて観光施設だった『痕跡』だけが残っていた。
何かに導かれるように、二人は最上階へ。
ガラス張りの個室……小さなその場所は、他とは違う空気を放っていた。
幸太は薫に、視線だけで合図を送る。
ドアノブに手をかけた。
ゆっくりと、軋む音を殺すように扉を開いた。
「砲撃は予定通り発射します。カウントは始まりました」
聞き覚えのある声。
その瞬間、疑惑は確信へ変わる。
幸太と薫は、落胆を必死に取り繕いながら――かつての仲間と対面した。
「……やっぱり、君だったのか。A’s」
忽然といなくなった仲間――A’s。
ずっと探していたのに、こんな再会を望んだわけじゃない。
小さな部屋には、モニターや機械が乱雑に並んでいた。
まるで、船の操縦室のようだ。
すべてのモニターが、無情な数字をカウントしている。
「どうして……あなたが、こんなことを。A’s!」
問いかけに、A’sは一切の迷いもなく答えた。
「今の国は腐敗している。それを正すのが――我々、ノーザンクロスです」
「関係ない人まで巻き込んで、スカイ東京を壊すつもりなのかッ?」
幸太の声が、思わず荒くなる。
だが、A’sは表情ひとつ変えない。
「あるべきものを、あるべき場所へ……」
一拍。
その視線が、鋭く細められた。
「八年前、本来なら今の政府は終わっていた。我が君主の――国家となるはずだった」
「……姫川さん、だな?」
その名を口にした瞬間。
A’sの瞳が、わずかに揺れた。
――知っているのか?
そう言いたげな視線が、幸太を射抜く。
「あの人は、僕を認めてくれたんだ」
A’sの声が、初めて感情を帯びる。
「僕には、能力値を上げる力しかない。何も出来ない僕を……あの人だけは、認めてくれた!」
A’sの能力。
超能力者の力を『ブースト』する、唯一無二の力。
近くにいる超能力者の能力値を、何倍にも引き上げることが出来る。
だが――
本人には、何の能力もない。
超能力者としても、人としても。
どこにも属せない、半端者だった。
その闇を、照らしたのが姫川だった。
『君のイニシャルは……A、S。そうだ! 今日から君は、A’sだ』
能力が悪用されることを案じ、姫川は守るために名前を授けた。
それは――
大切な人を守るための戦い。
『仲間として認められた証』だった。
反乱軍の汚名を着せられても、守る者のために戦う組織。
だが、状況は悪化していく。
仲間は、ひとり、またひとりと減っていった。
家族を失うような喪失の中で、姫川はリーダーとして立ち続けた。
『君たちは、私たちの未来そのものなのだよ。A’s』
豪快に笑う、その姿が――
好きだった。
「あの人のいない世界に……僕が生きる意味なんて、ない!」
「あの子たちまで巻き込む気か! 姫川さんが命懸けで守ろうとした子たちを、殺すのか!」
幸太の言葉にも、A’sの瞳は揺らがない。
そこにあったのは、決意だけだった。
「砲撃と同時に、ここは自爆します」
海ほたるは、自爆?
スカイ東京を壊し、自分も死ぬつもりなのか?
「警告します。今すぐ、ここから離れてください」
A’sは、薄く笑った。
冷え切った声が、淡々と落とされる。
まるで、感情を持たないロボットが、言葉を並べているだけのようだった。
――もう、『過去のA’s』はいない。
プロフェッショナル・ジョーカーが生まれた日。
あの日――キングとして、仲間を守ると決めた。
まだ人数も少なく、SSS養成校が本社ビルの一角を間借りしていた頃の話だ。
『プロフェッショナル・ジョーカー! SSSのトップチームを作るんだよ!』
興奮気味の幸太の横で、薫がタブレットを掲げる。
『そのメンバーに、僕たちが選ばれたんだ! 僕と峰子、薫、A’s!』
三人は、満面の笑みだった。
『……僕は、記憶も曖昧だし。ホントの名前だって、分からないし……』
A’sだけが、どこか影を落とす。
『そんな僕が……本当に、いていいのかな』
その空気を、幸太が持ち前の朗らかさで破る。
『じゃあ、コードネームがあればいいよね! うーん……トランプ! 人数的にも、ぴったりだよ』
『当然、クイーンは私よね?』
峰子の即断即決。
誰も、逆らえなかった。
『エース、私がクイーン、薫がジャックで……』
峰子の視線が、自然と幸太に向く。
『キングは、幸太ね。リーダーだもの』
三人の瞳が、「異論なし」と告げていた。
『……僕が、キング?』
戸惑いながら、仲間の笑顔が背中を押した。
それが、プロフェッショナル・ジョーカーの始まりだった。
数年後
A’sは、黙ってその場を去っていった。
――守れなかった仲間。
だからこそ。
幸太は、決めたのだ。
「馬鹿な真似はやめてくれ、A’s」
幸太の声が震える。
言葉が勝手にあふれた。
「スカイ東京のためじゃない。……僕は、『あの子たち』を守りたい。姫川さんが守ろうとした子たちを――もう誰も失いたくないんだ」
A’sの瞳がわずかに動く。
「……それがプリンセスの望みでも?」
「ミツキは、そんなこと望んでないよ!」
即答。
幸太はまっすぐにA’sを見て首を振る。
「だってそうだろ? 残された者の悲しみを、一番知っている優しい君たちは……絶対にしない」
息をつき、静かに言い切る。
「それに……ミツキは死なないよ。これは、確信かな?」
幸太の穏やかな微笑みは、いつもと変わらない。
見守ることしかできなかった薫の胸の不安が――すっと軽くなる。
大丈夫だ、と自然に思えた。
その瞬間――
ジジジジジジジッ!!
非常ベルが、空気を切り裂いた。
モニターに並ぶ数字が、すべてゼロを示す。
砲撃予告の時刻。
――ドォォォォンッ!!
地震のような衝撃。
床が揺れ、幸太と薫は思わず息を呑んだ。
だが――。
お読みいただきありがとうございました。
このお話は、あと9話で終了となります。
七夕に最終回を予定です。




