アクアラインで海と異能に挟まれた――これって絶体絶命?
前回のお話はーー
崩壊した旧首都高で、カズマたちは能力者の追撃を受ける。常識外れの走行と能力が激突する中、幸太の走りは別次元だった。戦場の中でカズマは自分との差を痛感する。
「まだ来るのかよ!」
カズマが歯を食いしばる。
ツルが、生き物のようにうねり進路を塞いでくる。
「いまだ!」
クラウンが唸りを上げ、強引に突っ込んだ。
その背後から、ツルが再び伸びて塞ごうとする。
だが、その間に180SXが、迷いなく割り込んだ。
神業のドリフト。
ツタが裂け、銃撃が追い打ちをかける。
ツルは、次々にちぎれ落ちた。
180SXとクラウンは、逃げ切るように――大師ジャンクションのループランプへ突入する。
視界を埋めるのは、絡み合う高架と連続する急カーブ。
どこが道で、どこが奈落かも分からない。
まるで、巨大な迷宮だった。
その瞬間――
轟音。
路面が、盛り上がる。
アスファルトが裂け、岩が、壁となってせり上がる。
進路を、完全に塞いだ。
――後方。
ハマーの車内で、烈が低く鼻を鳴らす。
「烈、もっと丁寧に運転してよ! 乗りにくいんだけど!」
「はいはい」
翔夢の文句を軽く流して、烈は楽しそうにハンドルを握る。
助手席の野岩が、窓の外へ手を伸ばす。
砂煙が舞い、それは、そのまま岩壁となって――クラウンの逃げ道を、潰していく。
さらに、ハマー自身が巨体を滑らせた。
逃がさない。
挟み込むように、横へ。
「くそっ……逃げ場がない!」
カズマの声が、震えた。
ループランプの狭さが、すべてを奪っていく。
――だが。
幸太は、迷わない。
180SXが咆哮し、岩壁の縁を、かすめる。
ドリフト。
火花。
横滑りのまま、非常識な角度でカーブを抜ける。
その走りは――岩壁を舞台にした、演舞だった。
「……オレには、できない」
カズマは、再び思い知らされる。
その差が、胸の奥を抉った。
「しっかりしなさいよ! カズマ君は、カズマ君よ!」
由真の声が、耳に飛び込む。
――はっと、意識が戻る。
遅れてもいい。
追いつけばいい。
アクアラインで。
深く息を吸い、
カズマは、丁寧にハンドルを切った。
そして――
視界の先に。
アクアラインの入口が、見えた。
カズマはアクセルを踏み込み、加速したクラウンはアクアラインに飛び込んだ。
解放感より先に、潮の匂いと突風が車体を揺らす。
濡れた路面が光を反射し、まるで罠の舞台装置のように輝いていた。
背後から轟音。
エルのスポーツカーと烈のハマーが横並びで迫る。
一本道の海上高架――逃げ場はない。
由真は緊張で息を飲み、カズマはハンドルを握り直した。
直後――両側の海面が持ち上がった。
左右の海が、まるで巨大生物のように盛り上がり、そのまま道路の上へ――
「水の……壁!?」
由真が息を呑むより早く、海水が雨のように降り注ぎ路面が一瞬で水浸しになった。
「烈、前から距離を取って走れよ」
ハマーの後部席で、水月が集中してつぶやく。
濡れた路面が白く光り、水が音を立てて凍り始めた。
バキバキバキバキ――!!
「氷……!?」
カズマが目を見開く。
路面のあちこちから、槍のような氷柱が一斉に隆起した。
鋭く、太く、車体の高さに届くほどの氷の氷柱が、波のように押し寄せてくる。
「ッっ!!」
幸太の180SXが吠える。
ハンドルが一瞬で切られ、車体が横滑りし、氷柱の森を縫うように舞い始めた。
氷の槍が牙を剥き、車体をかすめるたび火花が散る。
「なんすか、これ……マジで死ぬって……!」
陸が叫ぶ中、幸太の視線だけは獣のように研ぎ澄まされていた。
だが――
「カズマ君!! 前!!」
クラウンの進路正面にも、巨大な氷柱が隆起した。
避け切れない。
この距離、この角度――
ぶつかる。
そのはずだった。
氷柱が、一瞬で霧になった。
「……え?」
由真が声を失う。
クラウンの真正面だけがスッと白く煙り、氷は霧のように散り跡形もなく消えた。
まるで――『存在そのものが無くなった』 かのように。
「行ける……!」
カズマはアクセルを踏み込む。
しかし、終わりではなかった。
「カズマ君! 上ッ!!」
由真の叫びと同時に――空から影が降った。
海上高架の継ぎ目が黒ずみ、その真上に、巨大な岩の槍が次々と形成されていく。
「今度は上ぇぇぇ!!」
陸は悲鳴とともに、あわててサンルームから引っ込む。
ドン! ドン! ドドドドド!!
岩杭が雨のように落ち、アクアラインを叩き割る。
破片が飛び散り、コンクリ片が弾丸のように降ってきた。
「次から次にッ!!」
もう、ここまで来たら怖いモノなどないように幸太は笑う。
180SXは、今度は岩柱の雨をかい潜り、落ちる影と影の『瞬間の隙間』に滑り込む。
まるで未来を読んでいるかのような動き。
だが――クラウンは違った。
「カズマ君!! 今度は上ッ!!」
由真が叫ぶ。
見上げた先――巨大な岩杭が落ちてくる。
直撃する――そう思った瞬間だった。
岩杭が、崩れた。
砕けたのではない。
砂のように霧散し、クラウンを包むように舞うと消えていく。
「え……これ、なにが起きてるの?」
由真の声が震える。
「今は……無視!」
カズマは歯を食いしばり、アクセルを押し込む。
ただ前に――180SXに追いつかなくちゃという気持ちだけで走っていた。
180SXの激しい動きに振られながら、陸の銃が火を噴いた。
「……当たれッ! うわぁっと」
パンッ!
次の瞬間、エルのスポーツカーの後輪が爆ぜた。タイヤが裂け飛び、ホイールが路面を削る。
「あ!? タイヤなくなっちゃった」
バランスを完全に失ったスポーツカーは路肩の段差にガツンと衝突する。
ドンッ!!
その一撃で車体が跳ね上がり、スポーツカーが空へ放り上げられる。
「よっしゃ――って、うわっ!?」
ガッツポーズしかけた陸は、反射で顔を引っ込めた。
クラッシュしたスポーツカーが、180SXの屋根スレスレを飛び越えていった。
「え? 飛ぶの!? 車って飛ぶの!?」
サンルーフからそろりと顔を出した陸は、飛んでいくスポーツカーの先に――クラウンの姿を見つける。
「やっば……マズイってマズイって! うわぁぁぁ!!」
幸太が反射的にサイドブレーキを引くと、180SXがは車体の向きを変えた。
どうにか軌道をズラしてクラウンとスポーツカーの衝突を避けようとする。
――ここからでは、間に合わない。
幸太の背筋を、嫌な汗が流れた。
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