表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/55

旧首都高で始まる異能カーチェイス――オレだけが追いつけない

前回のお話はーー

雪兎と奏はSSS本部メインコンピューター室へ侵入する。奏はネット上でスカイ東京のゲート主権を奪い始める。迎え撃つ薫との攻防は激化し、最後に勝敗を分けたのは、技術ではなく選択だった。

 旧首都高1号羽田線。

 かつて都市を支え、そして――地震によって捨てられた道路。


 高架の継ぎ目はひび割れ、ガードレールは半ばちぎれている。

 今では使われることのない、死んだ高速道路だった。


 クラウンのバックミラーに、異様な影が映る。


 地鳴りのようなエンジン音を撒き散らすハマー。

 その横を、獣のように路面を滑るスポーツカー。


 常識外れの速度で、こちらへ迫ってくる。


「?!」

「カズマ君……! あれ……この前のスポーツカーじゃない?」

 由真の声が、わずかに震えた。

 カズマの胃の奥が、すっと冷える。

「……ああ。間違いない。こいつら……ミツキが誘拐された時の奴らだ」


 二度目の交戦。

 そして気づいた。


 ――この状況は、あの時から、もう始まっていたのだと。


 悔しさが、じわりと胸を刺した。


 カズマは、もう一度バックミラーを見る。


 闇を切り裂いて迫る、ハマーの巨体。

 逃げ場のない獲物になったような感覚。


 その瞬間――ハマーの周辺の空気が、歪んだ。

 地面の砂が、ざわりと浮き上がる。

 砂は集まり、束ねられ、みるみるうちに塊へと変わっていく。

 岩と呼ぶにふさわしい大きさになると――爆ぜた。

 弾け飛んだ瓦礫が、四方へ散る。

 散った破片が、空中で軌道を変える。

 まるで、意思を持つかのように、一直線にクラウンへ殺到する。


 ガンッ!

 ガガガッ!


 だが、次の瞬間。

 破片はクラウンのボディに触れた途端――

 ぱっと、光の粒となって霧散した。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。


「か、カズマ君?……消えた……よね?」

「……消えてる」


 理解が追いつくよりも早く、背後のハマーが不快そうにエンジンを唸らせる。

 思い通りにいかない苛立ちを、そのまま音にして叩きつけてくるかのように。


 襲われているのは、180SXも同じだった。

「来るよ!!」

 陸の叫びと同時に、背後のガードレールから――ぶわっと、緑が生え広がる。

 植物のツル。

 触手のようにしなり、一直線に迫ってきた。


「陸ッ!!」

「オレ様の出番でしょー!」

 陸がサンルーフから身を乗り出す。


 パンッ! パンッ!


 乾いた銃声。

 ツルの先端が、正確に撃ち抜かれて弾け飛ぶ。


「オレ様天才!」

 粉砕されたツルの残骸を突き抜けた――その瞬間。


 スポーツカーの運転席で、エルが心底楽しそうに笑った。

「アイツ、命中率すごいわ! 射的とかやったら景品取りまくりじゃね?」

 助手席の碧葉は、指先でツルを操りながら舌打ちする。

「……もう少し、動きを速くして」

「了解」

 エルは視線だけで壁を捉え、ニヤリと笑った。


 スポーツカーが180SXから離れる。

 そして――壁へ。


「え……? 車って、壁、走る?」

 信じられない光景に、陸の顔が引きつる。


 スポーツカーは壁に張りつくように疾走。

 そのまま『跳ねる』ように角度を変え――


 カーブの途中。

 180SXの斜め上、真横へと躍り出た。


 シャッ!


 横殴りに放たれるツル。


 幸太が即座にハンドルを切る。

 180SXは寸前でかわした直後、ツルがアスファルトを叩き割った。

 粉塵が爆ぜ、破片が舞う。

 それでも幸太は、顔色一つ変えない。

 さらに――アクセルを踏み込んだ。


 高架が大きくカーブする。

 その先に――揺れる光があった。


 クウィーン……ウィーン……グォォォォ!


 甲高く、耳に刺さるロータリーサウンド。

 風を切り裂き、空気そのものを震わせる。


「……来る!」

 前方の得体の知れない光へ、陸が身構えた。

 次の瞬間。

「RX―7!?」

 カーブの闇を突き破って――RX―7が飛び出してきた。


 ブワッ!


 マフラーが火を噴く。

 後輪が白煙を散らし、路面を蹴った。


 RX―7の車内。


 エリーが、窓の外へ指先を払うように振る。

「燃えちゃいなさい。雑草ども!」

 180SXを追っていたツルが――燃えた。


 ぼっと音を立てて、炎が一気に駆け上がる。

 緑だったはずのそれが、炎をまとったまま、道路へと叩きつけられる。

 アスファルトに火の粉が散り、赤い火花が跳ねた。


 江ノ島は前方から視線を外さず、短く告げた。

「援護完了。行きます!」

「しばしのお別れですわ、幸太さまぁ」

 切なげなエリーの声が、幸太に届くことはない。


「うおっ!? 燃えたっす!?」

 サンルーフから、陸の素っ頓狂な叫び。


 炎のトンネルを切り裂きながら、RX―7と180SXがすれ違う。


 助手席の窓越し。

 一瞬だけ――幸太と、江ノ島の視線が交差した。

 言葉は、ない。

 そこにあったのはただ――それぞれの使命へ向かう者の目。


 RX―7は羽田方面へ。

 フルスロットルで、闇の中へ走り去っていった。


 クラウンの車内。

 カズマは、思わず息を止めていた。


 燃えるツル。

 火柱の向こうを、赤い車体のRX―7が駆け抜ける。


「……すげぇ……」

 それだけしか、言葉が出なかった。


 由真は、前方を走る180SXを見つめていた。

 ――これが、現場なんだ。

 由真の胸の奥で、何かが静かに熱を帯びていく。


 舞台は、最悪のエリアへ突入していた。


「前……これ、沈んでない!?」

 サンルーフから身を乗り出した陸が叫ぶ。


 かつては多摩川に架かる『高速大師橋』

 だが今は、支柱の半分が崩れ落ち、路面が斜めに沈み込んでいる。

 中央には巨大な裂け目。

 むき出しの鉄骨が、風に揺れるたびミシリと軋んだ。


 上空では、スポーツカーがツルワイヤーでスイングし、背後からは、ハマーが重力任せに突っ込んでくる。


「行くぞ――落とされる前に抜ける!!」

 180SXが、崩落高架へ飛び込んだ。


 続いて、クラウンも突入する。

「突っ込む! しっかり掴んでろよ!」

 四の五の言っている場合ではない。

 由真はシートベルトを強く握りしめた。


 橋のような道路に突入した瞬間、車体が沈むように揺れた。

 放置されたコンクリート。

 もはや、これは道路じゃない。

 崩れた欄干の破片が散乱し、橋は戦場そのものだった。

「くそっ……こんな状態かよ……!」

 ハンドルを握るカズマが、必死に進路を探す。

 汗で、指先が滑りそうになる。


 その前を、180SXが普通の道路を走るように進んでいく。

 幸太のハンドル捌きは、常識を超えていた。

 瓦礫を寸分違わず避け、車体を滑らせるように、橋の中央へ躍らせる。

 まるで――

 障害物のほうが、彼を避けているかのようだ。


「……なんだよ、アレ……」


 カズマの喉が、震えた。

 自分なら、確実にぶつかっている。

 反射も、判断も、すべてが足りない。


 ――別次元。


 そう突きつけられ、カズマは歯を食いしばりクラウンを加速させた。


 なんとか橋を抜けた、その瞬間。

 周辺の緑がうねった。

 街路樹の根が異様に伸び、アスファルトを割って、ツルが蛇のように躍り出す。


 前方で、スポーツカーのライトが閃く。

 その影から、異常に肥大したツルが広がっていた。


「幸太さん! タイヤ取られるっすよ!」

 ツルが路面を這い、180SXの前を塞ぐ。


「……ふっ」

 幸太は、わずかに笑った。

 ハンドルを切る。

 180SXが滑る。

 ツルの隙間を、まるで『そこに道があるかのように』突き抜けた。


「……やっぱり、俺にはできない」

 カズマの声が、掠れた。

 自分なら、確実に絡め取られていた。


 幸太の運転は、やはり――別次元だ。


 由真は、カズマの横顔を見た。

 震えているのは、恐怖じゃない。

 追いつけない現実を、受け止めている顔だ。

 ……大丈夫。

 言葉にはせずに由真はただ、前を見据えた。


「オレ様の敵じゃないっすねぇ!」

 サンルーフから陸が身を乗り出す。

 銃声が夜を裂き、束になったツルを撃ち抜いた。


「いまだ!」

 進路を見出し、カズマがアクセルを踏み込む。

 クラウンが突進するが、再びツルが塞ごうとする。

 だが、その前に――180SXが回り込んだ。


「させないよっ!」

 ドリフト。

 180SXツルを裂き、陸の射撃がその動きを補完する。


 その奥。

 スポーツカーの車内。

 砕け散るツルを見ながら、エルはどこか冷めた目で呟いた。

「植物だもんねぇ……強くはないよなぁ」

 その横で、碧葉の表情が、ぴくりと歪む。


 ――次の瞬間。

 ツルが、再び巨大な束となって、クラウンへと襲いかかった。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ