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スカイ東京を賭けたハッカー対決! 勝敗を分けたのは技術ではなく……。

前回のお話はーー

奏と雪兎は偽装IDでSSS本部に侵入し、地下三階のメインコンピューター室へ向かう。一方カズマたちは、アンダーから繋がる道で“鍵の扉”に辿り着く。二つの侵入は、同じ瞬間に重なろうとしていた。

「ふふふふふ。オレの出番キターー!」

 侵入者とは思えない叫びで雪兎のテンションが上がる。

 古びた真鍮色の鍵穴に、その指先が触れた。


 ――その瞬間。


 雪兎の身体が、ノイズのようにふっと揺れる。

 次の瞬間には、その輪郭が崩れ、まるで人影が砂になって散るかのように微細な光粒子となってほどけていった。


 だが、完全には消えない。

 意思を宿した『粒子の塊』となった雪兎は、そのまま鍵穴の中へと吸い込まれていく。


 カチ……

 カチリ……


 鍵穴の奥で、内側の金属ラッチがひとつ、またひとつと噛み合っていく音。


 ガチャリ。


 金属的な、重い音。

 電子音じゃない。

 『精巧な機構の鍵』だけが鳴らせる、確かな解除音が響いた。


 すぐに、鍵穴から光粒子が溢れ出す。

 空中で形をととのえ、それは再び雪兎の姿へと戻った。


「鍵は開いたけど、ドアが開くと警報鳴るって言ってたよね? なんかイロイロ無茶苦茶だね?」

「そちらも解除済み。さ、入るよ」

 奏は涼しい顔のまま、重い扉に手をかける。

 きぃ……と低い音を立て、扉はゆっくりと開いた。


 180SXが芝浦JCTの扉を通過した時、薫のパソコンの警戒音が鳴り響いた。


 『SSS本部システム:侵入を検知』


「な、何事っすか?」

 助手席の陸が驚いてアタフタと辺りを見回す。

 車内に響いていたキーボードの打鍵音がピタリと止まる。

「ふふふふふふぅぅ」

 今度は車内に響く薫の笑い声に、陸がすがるような目で幸太に助けを求める。

 何も言うな――そう、首を振った幸太はそのまま運転を続けた。


 お台場・SSS本部・メインコンピューター室。

 ひんやりとした薄暗い部屋に、雪兎はお化け屋敷を連想して身震いした。

 いくつかのスクリーンと椅子がひとつ。完全に一人用の小部屋だ。

 中央モニターの椅子に腰を下ろした奏は、キーボードに指を置いた瞬間に恍惚とした表情でため息をついた。


「さーて、と……。始めますか」


 中央モニターには、スカイ東京のシステムマップが展開されている。


 スカイ東京は、地上から約三百五十メートルの高さに築かれた都市だ。

 その構造上、外部との出入り口は限られている。


 接続されているのは、都市外周に設けられた七つのゲートのみ。

 それ以外のルートは、存在しない。


 そのひとつ、レインボーブリッジゲートに『閉鎖』の文字。

 先ほど落としたゲートを確認し、奏はニヤリと笑う。


 スカイ東京を手に入れるには、まず外界から切り離す必要がある。

 外部の干渉がある限り、完全な支配は成立しない。


「あと六つ取ればいいんだよねぇ……ふーん。はい、1つ、落ちた」

 まるでゲームクリアのような軽さ。

 だが実際には、国家級の防壁を数秒で突破する芸当である。


「……やるじゃない?」

 車内で静観していた薫は、画面を一瞥しただけで相手の力量を測る。

 次の瞬間には、もうキーボードを叩きつけるように入力を始めていた。


『Gate-6 主権:奪取完了』

『Gate-6 主権:奪還』


 薫の指が走る。

 画面上に幾重もの盾となる『薫式スタック防壁』が、咲き乱れる花のように生成される。


 次の瞬間、二人は同時に走る。

 コードが奔流となってぶつかり合い、光と影の激突となって火花を撒く。


「Gate-5、いただきっ!」

「甘いっ! そのルートは読んでるわよ!!」

「それならコッチで……」

「いいわよ! その手で来たかぁ!」


 理性なんて、とっくに吹き飛んでいた。

 これはもう、仕事でも戦争でもない。

 ただの意地の張り合い。

 意地と意地が衝突する、最も人間くさい『勝負』。


「Gate-4 主権獲得!」

「Gate-4 主権奪還!」


「Gate-3、もらい!」

「Gate-3、渡すわけないでしょ!!」


 180SXの助手席で陸は震えあがる。

「なんすか、あれ……! っていうか薫、性格変わってません!?」

「んー、まぁ、あれも、薫なんだよねぇ」

 幸太はバックミラーで生き生きとした薫をチラリと見て答えた。

 薫との付き合いの長さが陸とは違う、幸太にはコレも薫なのだ。


「あれが、薫の本気だから」


 清々しいまでの薫への信頼を感じて、陸はちょっと羨ましいと思った。


『Gate-2 主権:奪取』


 薫の額に汗が浮かび、呼吸が浅くなる。

「……ッ! 速すぎ……」


 モニター前の奏の口角がわずかに吊り上がる。

「ほらほら? 六つ取ったよ。あと1つで——スカイ東京、孤立完了」


 奏のコードは美しい。

 無駄を削ぎ落とした、鋼の刃。


「ねぇ……SSSの頭脳とまで呼ばれて、ちやほやされている君が『負ける瞬間』ってどんな気分?」

 勝利を確信した奏の満足な微笑みは残酷で美しい。


「ハッカーって独り言多いなぁ……」

 そんな奏を後ろから見ていた雪兎は、半ば呆れたようにつぶやいた。


「……ッふけんな!!」

 薫の指が加速する。

 もはや打鍵音さえ、連続しすぎて一音のノイズにしか聞こえない。

「Gate-1……絶対に――渡さない!!」


 奏はこれ以上ない高揚感を感じていた。

「いいね、いいねぇ。ほら来いよ、そんなもんじゃないよね?」

 コードが枝分かれし、無数の針となって薫の防壁へ突き刺さる。

「さぁ仕上げ。Gate-1、主権もらうね」


『Gate-1:主権移譲開始』


 揺れる後部座席でキーボードを叩く音が消え、薫は大きく息を吐いて小さく宣言する。

「幸太。全部落とすね」

「大丈夫だよ」


 いつも背中を押してくれる幸太の優しい声に、薫は柔らかく微笑む。


「え、ちょ、え? 全部って……全部って何……?」

 陸の声が震える。


「スカイ東京のゲートシステムは、お台場変電所から電力供給受けてる。つまり……」


 薫の指先は迷いも焦りもなく、まるでテレビの電源を切るみたいにEnterキーを押した。


 奏がGate-1のパラメータに手を伸ばした瞬間。

「これで終わり、だね?」

 画面がふっと揺れた。


「……あ?」

 中央モニタープツリと消えた。


「……はい、ここまで。コンセント抜いたら、勝ちなのよ」


 お台場すべてを停電させる――。


 それさえやれば、お台場変電所から電源供給を受けているSSSメインコンピューターは強制終了される。

 SSSメインコンピューター室からの侵入そのものを『物理的に遮断するため』の最終手段。


 お台場全域を停電させることは、交通や病院など大きなリスクも伴う。

 それでも、薫は信じている。


 システムは、最終命令を実行した。

 お台場の電源が、すべて落ちた。


 暗転。

 静寂。


「ちょ、待——」

 メインコンピューター室で奏は、呆然と固まる。

 予備電源に切り替わり、再び動き出したモニターには、各ゲートの稼働状況が並んでいた。

 レインボーブリッジ以外は、すべて通常稼働。


 キーボードを叩いても、なにも操作は出来ない。

 勝負も、システムも、すべて強制終了されていた。


「おい……嘘だろ!!」

 ただ、沈黙だけが、奏の周囲を満たした。


「……え、待て待て。あれ全部、ダミーだったのかよ!……負けた?」


 一瞬、モニターを睨みつける。


「お台場全部停電って、どんだけ性格えげつないんだよ。各ゲートの給電、全部お台場変電所だろ? それで他のゲートは通常運用って……」


 そこで、はっと息を呑む。


「……あ、電源供給を書き換えたのかッ! 地域変電所に逃がした? 戦いながら? 裏で別プログラム組んでたって事だろ!」


 敗北のはずなのに、最高峰の技術を感じた興奮のようなテンションで叫ぶ奏の肩を、雪兎がぽんと叩く。


「説明ありがとう。さっさと帰ろっか!」


 勝ったのは薫だった。

 自己の技術に溺れない――『一線を越えなかった』薫の勝利だった。


お読みいただきありがとうございました。

次回更新→来週更新予定です。

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