表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/48

アナログ最強?――SSS本部、最後の扉!

前回のお話はーー

幸太の指揮で動き出すが、敵影のない会館に不気味な違和感が漂う。

違和感をぬぐえない峰子を会館に残し、一行は海ほたるへと出撃する。ゲート閉鎖に阻まれ、閉ざされた旧首都高ルートを選択する。


 お台場SSS本部――正面ゲート。


 改札型のセキュリティゲートが、等間隔に三基並んでいる。

 天井には顔認証カメラ。

 その奥では、行動パターン解析AIが常時稼働中。


 ――表向きは、完璧な要塞。


「……はい。通行権限、上書き完了っと」

 無機質な電子音が鳴るよりも早く、奏が小さく囁いた。

 二人が手にしている『偽造IDカード』のデータと、SSS本部データベース内の正規記録が静かに入れ替わった。


 事前にもらったデータの質が良すぎるんだよなぁ……。

 奏は内心で、ネコに軽く感謝する。

 プライバシー関連のセキュリティは、厳重すぎて面倒なことが多い。

 面倒なことにはあまり関わりたくない。


「お疲れ様ですー」

 見るからに、人のよさそうな警備員がにこやかに声をかけている。

 次々と本部職員がゲートを通過していく。

 その流れに、ごく自然に混ざりながら――雪兎が、カードをかざす。

 ピッ。

 軽い電子音。

 何事もなかったかのように、ゲートは開く。

 続いて、奏もカードをかざした。

 天井の認証カメラが二人の顔を捉えた、その瞬間。

 奏の意識が、仮想空間へと沈み込む。


 カメラが認識しているのは、もう二人の顔じゃない。

 事前に仕込んでおいた本部職員のデータが、リアルタイムで差し替えられ、AI解析をすり抜けていく。


 ――問題なし。


 ゲートを抜けた瞬間、雪兎が小さく息を吐いた。

「……通れた。ほんとに、いけるんだ……」

「ネコが言うには、ここから地下三階のメインコンピューター室までは一直線」

 奏は歩きながら、スマホを操作する。

「監視カメラは全部、僕が目隠しするから」


 営業中のフロアは、どこも白く、明るい。

 IT部門らしい落ち着いた空気。

 若い職員も多く、忙しそうに行き交っている。

 細身の二人は、むしろ――ここに『いそうなタイプ』だった。


 人の流れに紛れながら、自然な足取りで内部通路へ折れる。

 角を二つ曲がったところで、空気が変わった。

 急に、誰もいない。


「……ここから先、立入権限ないとダメなエリアだよね?」

 雪兎の声が、自然と小さくなる。

「うん。まぁ、厳重エリアだからね」

 奏が軽く指先を動かすと、通路沿いの監視カメラが無人のループ映像へと書き換えられていく。


「よし。行こっか」

 何食わぬ顔で、二人は並んでエレベーターへ向かった。


 扉が閉まり、静かな振動とともに下降を始める。

 表示パネルの数字が、一つずつ減っていく。

 ――B3。

 到着音。

 扉が開いた瞬間、空気が変わった。


 ひんやりとして、音のない世界。

 上層のオフィスフロアとは、明らかに別物だ。


「……本当に、誰もいないんだね」

 雪兎が、思わず囁く。


 地下三階。

 SSS本部の中枢――メインコンピューター室のある階。


 このフロアだけは、勤務者の立ち入りが極端に制限されている。

 一歩踏み込んだだけで、肌が『異質』を感じ取る。


「カメラ映像、全部ループ中……OK」

 奏は立ち止まり視線を上げずに言った。


 響くのは、二人の靴音だけ。

 硬い床を叩く音が、やけに大きく聞こえる。


 廊下の突き当たり。

 分厚い金属扉が、そこにあった。

 メインコンピューター室。


 ――その頃。

 180SXとクラウンがレインボーブリッジへと続く螺旋を下る、その途中――。

 本来なら、分厚いコンクリート壁が途切れることなく続いているはずの区画に、ぽっかりと『穴』が開いていた。


 壊された形跡はない。

 崩れた様子もない。


 ただ、最初からそこにあったかのように、開いている。


 ここに来るまでに、電子制御のこの扉は薫が開けておいた。

「幸太、スピード落として」

 薫の声が、いつもより低い。

「……すぐ次の扉が来るから」

「扉?」

 問い返すより早く、それは姿を現した。


 無機質で、巨大な――

 金属の壁そのものみたいな扉。


 180SXが減速し、停車する。

 すこし遅れて、クラウンも横へ並んだ。


 薫は車を降りると、扉脇へ歩み寄り、そこにあるものを鋭く睨みつけた。


「……薫? 鍵?」

「これ。普通の鍵穴っすね? え、今どき?」

 陸が、珍しいものでも見るように覗き込む。


「ここの扉……鍵だったの?」

 クラウンから降りてきたカズマは、信じられないものを見る目で鍵穴を見つめた。

 このルートは、アンダー東京からも繋がっている道のひとつだ。

 ――裕一は、すんなり開けていた。

 だから当然、電子ロックだと思い込んでいた。


「鍵って……?」

 由真が首を傾げる。

「さっき、お姉ちゃんが開けたのは……」

「……二重扉、ってことか」

 幸太の呟きに、誰も否定しなかった。

 薫が鍵穴を覗き込む、その動きだけで――鍵が、ここにないことを全員が悟る。


「……これだけ発展してんのに……」

 淡々とつぶやきのつもりだったのだろう。

 だが、薫の声には、じわりと怒気が滲んでいた。

「最終的に『アナログ最強』とか、ほんと……やめてほしいんだけど」

 ぶつぶつと文句をこぼしながら、薫は頭からヘアピンを外し、鍵穴に差し込む。


 本来なら、固唾を飲むような場面のはずだった。

 だが、薫の文句の圧が強すぎて、妙に耳を奪われる。


「……オレ、こういうの初めて見た」

 カズマは目を丸くしたまま、薫の手元から目を離せない。

「ほんとに……やるんだ」


 電子ロックを、秒で突破する人間が、今度はアナログ錠前を相手にしている。

 脳が、追いつかない。


「お姉ちゃんは、超一流の錠前師なの!」

 由真が、誇らしげに声を張り上げる。

「どんな鍵でもよ! 開けられない鍵はないの! 電子ロックでも鍵穴でも、なんでも超一流なのよ? なんたって『マスターロック』って呼ばれるくらいなんだから!」


 恍惚とした叫びをよそに、薫は一切視線を動かさない。

 ヘアピンが、くるりと回る。

 指先の動きは、驚くほど繊細だった。

 内部のピンをひとつ。

 また、ひとつ。

 確かめるように、探り当てていく。


 そして。


 ガチャリ。


 金属的な、重い音。

 電子音じゃない。

 『精巧な機構の鍵』だけが鳴らせる、確かな解除音が響いた。


 ――まったく同じ『瞬間』。


 お台場・SSS本部地下。

 《MAIN COMPUTER ROOM》


 重厚な隔壁のような扉が、静かに行く手を塞いでいた。

 電子ロック。

 そして、その下に備え付けられた――鍵穴のアナログ鍵。


「ネコの言う通り! 鍵だよ! 鍵!」

 雪兎はまるで新種の生き物でも発見したかのようなテンションで、鍵穴を覗き込んだ。


お読みいただきありがとうございました。

次回更新→来週更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ