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閉ざされたルートへ、決断の出撃!

前回のお話はーー

慰霊式典に集ったVIPの前に、ノーザンクロスが犯行声明を突きつける。要求は国権の譲渡。時間制限の中、プロフェッショナル・ジョーカーは会館に仕掛けられた異変へ気づき、動き始める。

「君たちはどうする?」


「え、幸太さん!? それ聞くの!? こいつら学生だよ?」

 陸の思わず上がった声に、カズマと由真は顔を見合わせる。

 ――止められる。

 そう思っていた二人は、拍子抜けするほどあっさりと肩の力が抜けてしまった。


「止めても無駄だよ」

 幸太は、どこか分かっていたように小さく笑う。

「君たち……気になってるんだろ?」


 三月が誘拐された、あの日。

 アクアラインでカズマが見せた、あの真っ直ぐな瞳を幸太は忘れていない。


「行く!」

 考えるより先に、カズマの声が出ていた。

「わ、私も!」

 一拍遅れて、由真もはっきりと声が上がる。

 逃げない。

 その意思が、迷いなくそこにあった。


 その瞬間を待っていたかのように、幸太は二人の前へと歩み出る。


「君たちは学生でも、SSSのメンバーだ」

 声は穏やかだが、そこに迷いはない。

「……社訓は、覚えているね?」

「SSSは──人を守り、仲間を守り、自分の身を守る!」

 自然と二人の声が重なる。

 毎朝のように口にしてきた言葉。

 けれど今は、『スローガン』ではなく『現実』として胸に落ちてくる。


「これより君たちを、プロフェッショナル・ジョーカーの指揮下に置く」

 幸太は静かに告げる。

「命令には必ず従うこと。いいね?」

「はいっ!」

 カズマと由真は背筋を伸ばして答えた。


 幸太は全員の顔を一度だけ見回すと、くるりと踵を返す。


「──さぁ、行こうか!」


 その背中は、不安も迷いも、すべて吸い取ってしまうかのような、圧倒的な安心感をまとっていた。

 カズマは思わず息を呑み、導かれるようにその背中を追いかけた。


 控室から地下駐車場まで、すべての扉に鍵が掛かっている。

 ただそれだけの事実が、静かに不気味だった。

 けれど、奇妙なほど敵影はない。

 先頭に立つ陸は、銃を手にしているが、一度も構えることがない。

 その異常さが、じわりと嫌な汗を背中に滲ませる。

「……気持ち悪いな。逆に罠っぽいんだけど」

 低く落とされた呟きに、カズマも無言で頷いた。

 胸の奥で、同じ違和感が膨らんでいる。


 警備員の姿も見当たらず、一行は拍子抜けするほどあっさりと地下駐車場へ辿り着いてしまっていた。

 重い空気を断ち切るように、幸太が意図的に明るい声を出した。

「180SXで僕が先行する。カズマ君は、付いて来て。いいよね?」

「……了解」

 短い返事。

 カズマは無意識のうちに、クラウンの鍵を握る手に力を込めていた。


 全員が車へ向かおうとした、その瞬間──


「幸太。私は、ここに残るわ」

 鋭く、迷いのない声。

「……どうしても、気になることがあるの」

 峰子の言葉に、ドアへ手を掛けていた幸太の動きが止まる。

 幸太はゆっくりと振り返り、真正面から峰子の視線を受け止めた。


 強い瞳。

 一歩も退かない意志。


 幸太は一瞬だけ目を伏せ──そして、小さく息を吐いた。


「……ここは、任せるよ。気をつけて」

「ええ。幸太も……無茶はしないで」

「大丈夫。式典の時間までには必ず戻る。遅刻したら……頼むな?」

 峰子は呆れたように眉を寄せる。

「歌もダンスも、レッスンしてないの。私はアイドルじゃないんだから……遅刻しないで戻って来なさい」


 幸太は、真剣な表情で頷いた。

 冗談めいているようで、その裏にあるのは揺るぎない信頼。


 幸太はシートに身体を沈め、ハンドルを握る。

 一気に、アクセルを踏み込んだ。


 ブォウン!


 180SXのマフラーが、獣のように吠える。

 エンジンは、完全に戦闘態勢だった。


 それを追うように、クラウンも走り出す。

 静かに──だが、確実に。


 テールランプが闇へと溶けるまで見届けてから、峰子は踵を返した。

 ひとり、会館の奥へと戻っていく。


「幸太さん! なんで峰子さん残してくワケ!? 一人って危ないでしょ!」

 助手席から、陸の声が飛ぶ。

 だが、幸太は答えない。

 代わりに、静かに言い放った。

「薫。ルートを頼む」

「ちょっ……! 幸太さんッ! オレたち、仲間なんだよ!?」

「仲間だからだよっ!!」

 車内に、幸太の怒声が響いた。

 普段の穏やかさを知っているからこそ、その一喝は重い。

 陸は言葉を失い、口を閉ざす。

 押し込められた沈黙が、逆に幸太の胸を痛ませていた。


「式典までには戻るよ。全国放送だからね!」

 陸は不敵に笑い、相棒の銃を軽く掲げる。

「全国のオレ様ファンが、心配するでしょ?」


 幸太はバックミラー越しに薫を見た。

 薫もまた、無言で力強く頷く。

「最短ルートはスカイ羽田線……空港火災の影響で、すでに渋滞が始まってる……特区の湾岸線は、レインボーブリッジゲートのシステム解除には、ちょっと時間がかかるかも……」


 その瞬間。


『下だ! 下はどうですか?』

 180SXとクラウンを繋ぐ回線に、カズマの声が割り込んだ。

『――昔の首都高!』

 アンダーの存在は、本来なら厳重な秘匿事項だ。

 だが今は、そんな建前を守っている場合じゃない。


「芝浦JCT……?」

 薫が、即座に地図データを展開する。

「確かに、旧首都高へ繋がるルートは残ってる……でも、あそこは十年、使われてないわよ?」


 スカイ東京は、地上三百五十メートル。

 上空都市から特区SSS本部へ向かう正規ルートは、スカイ首都高を通り、緩やかな螺旋を描いて地上へ降りる。

 そして、レインボーブリッジへ。


 だが、その途中──

 芝浦JCTへと分岐する道は、『閉じられたままの道路』だった。


「地震で崩れてる可能性もあるし……そもそも、走れるかどうか……」


 薫の言葉が、わずかに揺れる。


 フロントガラスの向こう。

 レインボーブリッジの巨大なアーチが、徐々に視界へ入り込んでくる。

 迷っている時間は、もう残されていない。


「そのゲート、開けられる?」

 幸太の声は、驚くほど静かだった。

「ええ」

 薫はキーボードを素早く叩きながら答える。

「システム自体は、そこまで複雑じゃない」

「薫。ゲート解除をお願い。旧首都高ルートで、アクアラインへ向かう」

 即断だった。

「了解! 任せて」


 その直後。

 クラウンの車内に、幸太の決断がはっきりと響く。

 カズマの視界の先で、180SXのテールランプが赤く瞬いた。

 180SXが、ためらいなく分岐へと車体を振る。

 赤い軌跡を引きながら、閉ざされたはずのルートへ──。


 ここから先は、地図に載らない道。

 クラウンは一瞬も遅れず、180SXの背中を追った。

お読みいただきありがとうございました。

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