1089 案じる次期領主様
ジフの素晴らしい実績について熱く語って、身を乗り出した。
「ね? 凄いでしょう?! 画期的じゃない?!」
「ふうん……」
セデス兄さんは、退屈そうにちらりとノートに目をやった。
「なんでそんなに興味が薄いの?!」
大いに憤慨して言い募ろうとしたところで、ぬっと視界に華奢な腕が割り込んだ。
「お待ちどうさま! さあ、本日のおすすめ、まずはモレア茸のスープとナッツサラダだよ!」
「うわ~おいしそうだね!」
途端に満面の笑みを浮かべ、ノートが無造作に脇へ避けられた。
「ちょっと?! 研究のことを話すために来たんでしょう?!」
「いやいや、まずは食事をとるために来たよ」
いそいそカトラリーを手に取る王子様に、溜め息を吐いた。
オレだってまずごはんを食べることに異議はないのだけど、でも、もうちょっと気にかけても良くはないだろうか?!
「せっかくのアイディアなんだから、セデス兄さんももうちょっとジフの……あ、美味しい!」
「僕に言っても仕方ないと思ったから、こうして説明されないままにノートを持たされてると思……何これ、サラダのくせに美味しいね?!」
サラダのくせにってどういう意味。この世界の……いやロクサレンの人は野菜が基本好きじゃないからなあ。野菜だって美味しいのに。
でも、このサラダは格別美味しい。多分スープに入っていたモレア茸というのがサラダにも入っている。
カットされたキノコが咀嚼する顎にさくりと小気味よく、カリッと炒ったナッツ類と生野菜がそれぞれ別の歯触りを連れてくる。
「これは……顎で食べるサラダだね!!」
「どれも顎で食べるんじゃない?」
そういう意味じゃなくて!
いや忙しい。ひとくち噛みしめるたびに、シャキカリサクッと色んな感触が一度に襲ってくる。
甘めの大人しいドレッシングは、きっとこの咀嚼感に集中させるため。
夢中になっている最中に、もうメインがやってきてしまった。
何とかっていう鳥っぽいもののロースト。目にも鮮やかなスパイスをびっしりまとっているのは、多分オレたちへの特別仕様だと思う。
「すご……こんなに未知の味なのに、こんなにしっかり美味しい……」
スパイスだけじゃない。お肉ときれいに味を馴染ませるために、香草やらオイルやら……。
ナイフを入れるたび、パリッと弾ける皮。零れ落ちたスパイスが、溢れる肉汁と混じり合って新たなソースになっている。
ああ、頬張るたびにいい香り。皮目の下にスパイスやら何やらが入れ込まれているのかな。
減って行くお肉を悲しみつつ、よくよく味わっているところへ、穏やかな声がした。
「ふふ、相変わらずいい顔だね。美味しいかな?」
「プレリィさん! もう、美味しいもなにも! 最高!!」
最後のひとくちをしっかり口へ入れてから、勢いよく頷いた。
柔らかな淡緑の瞳が細くなって、ふんわり笑う。こっちの賢者様も、王子様っぽい。むしろセデス兄さんよりは中身も王子様かもしれない。
「そっか。やっぱり人間も動物系だから、美味しく感じるんだったりしてね」
「動物系……?」
「そう。人間って虫や植物よりは、動物の方が近いかなって。次点で虫」
それはそう……虫はともかく。
なぜ急にそんなサイコパスじみたことを、そんなきらきらしい微笑みで言い始めたのか。
困惑とちょっぴり怯えが入ったところで、ぺちんと音がした。
「まず説明しなよ?! 違うから、スパイスの話だから!」
「だから今、説明しようとしたんだけど……」
「遅いんだよ! 先に! 説明!!」
キルフェさんに後頭部をはたかれ、プレリィさんが不満そうな顔をしている。
「……あ、もしかしてこのお肉のスパイス?! これ、動物系寄せに効果的なやつ?!」
「そう! そういうことだよ。次は虫用でも作ってみようかと――」
「虫用って言うんじゃないよ! 食欲失せるじゃないか!」
うん……言葉の力ってすごいね。虫用で作った料理だよ、と言われただけで3割くらいは食欲が落ちる。
『え、3割なのね?』
『あんまり落ちてないんだぜ!』
だって、プレリィさんのお料理だよ?! 虫用だろうが細菌用だろうが美味しいに違いないっていう前提が覆せないんだもの。
使用スパイスについて語り始めたプレリィさんに、くすりと笑った。
「ジフと同じだね。やっぱり料理人は結局そこへ行きつくのかな」
「つまり、ジフ君も料理にしたってこと?! ぜひ聞きたいな! 今日はジフ君来てないの?」
ぱっと目を輝かせたプレリィさんに、思わず吹き出した。危ない、食べ終わっていて良かった。
「じ、ジフ君……」
何かおかしい? とキョトンとしているプレリィさんを見上げて、そう言えばこの人はジフよりはるかに年上なんだったと思い出した。
いやでもオレやタクトたちを呼ぶのと同じ雰囲気で、ジフ君……。あの髭面山賊顔が、ジフ君。
何とか爆笑を堪え、震えながらノートを差し出すと、まさに食い入るように読み始めた。
セデス兄さんとは大違いだ。そこで、テーブルに突っ伏して笑いの発作に苦しんでいるセデス兄さんとは。
「ジフ君、虫系もチャレンジしてるね! いくつか分かってきたスパイスがあるし、色々試したくなるね! 系統別にベストスパイスが配合できたら、お肉に振りかけて焼くだけの簡単調理に応用できるよ」
「すごい! 美味しい上に野外で簡単に作れる食事なんて、一石二鳥だよ!」
「えーとユータ? その一石二鳥はおかしくない? そもそもの目的は魔物寄せだからね?」
そうだった。じゃあ一石三鳥だ!
「よし、じゃあジフ君のアイディアとスパイスパターンも試してみようか!」
「うん!」
オレとプレリィさんは、満面の笑みでハイタッチを交わした。
「あの……別に料理にしなくてもいいかなっていうか……」
おずおずと口を挟んだセデス兄さんに、キッと険しい視線を送る。
「何言ってるの! 香り立たせるためにはどうせ火を通すんだから、だったら料理の方がお得じゃない! しかも美味しかったらもっとお得!」
「うーーーん。いやあ……そうかもしれないけど……それ、まさかまたロクサレン発祥の何かしらになったりしない……? あのさ、僕はただ魔物の好みをね……?」
はた、と動きを止めたオレに、プレリィさんがにっこり微笑んだ。
「素晴らしい功績になるよね。魔物の種別に寄せたり避けたりできる、そんな夢のスパイスと応用料理。食のロクサレンに相応しいと思うよ?」
ぴしり、と空気が固まった気がした。
「ユ~タ~~?」
「お、オレじゃないよ?! セデス兄さんだから!!」
功績を押し付け合うオレたちを前に、森人二人は不思議そうに首をかしげていたのだった。
21巻いかがだったでしょうか~?
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来月が不安……超不安……






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