1085 カロルス様と
カロルス様の威圧、見てみたい……けど。楽しいものじゃないのは、さっきの二人で既に経験済み。しかも、あれはオレに向けられたわけでもない。
ちょうどよく、ロクサレンに大型魔物でも襲いに来ないだろうか。来ないだろうな……ロクサレンだし。
それに、ちょびっとだけ威圧を味わうには、オレも魔物側にいなきゃいけなくなる。
何か方法はないか、と考えて、ふと疑問が浮かぶ。
「ねえカロルス様、威圧って相手からやられた場合にどう対抗するの?」
「どうって、お前もいくらでも経験あんだろが」
「え? ないと思うけど……」
「あるわ。気付いてねえだけだ」
気付かないなんてことある?! そう思ったけれど……。
「――なるほど? 威圧って、せいぜい同等クラスや強者側からするから効果があるのか……」
「当たり前だろ。弱ぇーのがいくらやっても、何も怖くねえだろ。威圧ってのは、自分の力を分かりやすく見せてやんだよ。雑魚と戦うのがめんどくせえ時に」
そうか……。つまりラキたちだって十分強者側ってことだ。オレ、うわあって思うもの。
「オレもやりたいんだけど、難しくて。カロルス様も『ぶっ殺す!』って思ってるの?」
ふはっと笑ったカロルス様は、一体何が面白かったんだろうか。
「思わねえよ、ぶっ殺すって思わねえ相手にやるからな。ぶっ殺す相手へは……威圧っつうか、自然に漏れる。多分、受ける印象違うんじゃねえか?」
威圧にも種類があるの?! いや、これはカロルス様だけかもしれない。
「じゃあ、そのぶっ殺すじゃない方を教えて!」
「そう言われてもな……お前もやってんだろ」
「ええ? やってないよ」
「そんなわけあるか」
顎に手を当てて首をひねったカロルス様が、オレを持ち上げて立ち上がった。
「見せてくれるの?」
「いや、お前が見せてみろ」
え、と思う間もなく、素晴らしい速度で窓から飛び出した。もちろん、オレを片手に掴んだまま。
も、もうちょっと普通に! 抱っこして!! オレはバッグでもぬいぐるみでもないから!!
一体、何から逃げるのにそんな神速が必要だったんだろうか。
屋根を蹴って別の屋根へ、そのまま大きく跳躍して木を蹴りつつ地面へ。
そのまま走り出すカロルス様に、助っ人をあげよう。
「シロ!」
「ウォウッ!」
「お、いいじゃねえか! 行け、遠くまで!」
飛び乗ると、きらきら目を輝かせたシロが、ドン、と速度を上げた。
咄嗟にシールドは間に合ったけれど……カロルス様は大丈夫でも、オレは木っ端みじんになりそうだからね?!
「も、もういいでしょう?! どこまで行くの?!」
「いいじゃねえか、気持ちいいだろ」
『うん! とっても気持ちいいね! この辺りでいいの?』
ご機嫌なシロが徐々にスピードを緩め、どこともしれない平地で足を止めた。
ひとまず、人っ子一人いない場所であることは分かる。
「カロルス様がサボりたかっただけじゃないの……? 執事さんに怒られるよ?」
ぎくり、とした大きな体が素知らぬ顔をする。
「お前がどうしてもっつうから、仕方なくだろ。グレイにちゃんと言えよ」
「もう……じゃあちゃんと見せてよ!?」
すとん、と下ろされ頬を膨らませる。
「なんでだよ、お前が見せろって言ったろ」
「だから、できないって言ってるのに……」
なのに、カロルス様は少し離れると手を差し出した。
「なんか、いい感じの棒くれ。持ってねえか」
「なんでそんなものを持ってると思うの! いくらでもあるけど!!」
ぷりぷりしながら『いい感じの棒』コレクションのひとつを投げた。だ、だって……つい拾うじゃない? ほら、収納スペースはいくらでもあるわけだし……。オレ以外にシロだってタクトだって拾ってくるんだもの!
胡乱な目をしながら受け取ったカロルス様が、一度振って手に馴染ませた。
そして、にやっと笑う。
「ほら、かかって来い。魔法ナシな」
「……カロルス様とやったら、腹が立つんだけど!」
「本気でやってみろよ、一太刀浴びせたら腹は立たねえだろ」
さすがに無理がある! オレは剣士じゃないんですけど! どっちかというと魔法使い!!
むっすりしながらも、思いっきり攻撃できる相手なんて、そうそういないから……どうしたって心が弾み始める。
「じゃあ……行くよ!」
「おう」
すう、と息を吸って、吐いて。
しんと静かに己の内側を整える。
ふっと息を吐くと同時に地を蹴った。
小手先じゃなくて、真正面から。だってカロルス様は攻撃してこないもの。
両の短剣を抜き放って左右に開く、大ぶりの一撃。僅かな時間差をもった左右の剣を、たった一本の棒でどう受ける――?
なんて。簡単なんだよね、カロルス様には。
僅かな時間差も、ほぼ同時にいなせる神速の剣だから。
ああ、気持ち悪い。手応えが全然ないままに、つつっとオレの手が思わぬ方へ滑る。
当然予測していたオレは、その勢いを使って足を振り上げた。
完全に頭を下へ向けた蹴りは、大きな左手が受ける。がちっと思いのほかしっかり止まった足。
瞬間、それを支点に即座に力の方向を変える。受けた手を踏んで腹筋のばねで弾けるように跳ね、くるりと小さく回転した。この小さな、軽い身体だからこそ!
それでも。
奇想天外な軌道も、回転の乗った鋭い一撃も。
「おお、速いじゃねえか」
いとも簡単に受け流されて歯噛みする。
猛攻をしのぎ切って、涼しい顔のカロルス様と、一気に息が上がったオレ。
たん、とん、と距離を取って、肩で息をする。
「ちょっとくらい、手加減すればいいのに!」
「手加減したら、面白くねえだろ。つうか棒で相手してんのは手加減にならねえのか」
「ならない!」
地団太踏んで怒るオレに、カロルス様が大笑いした。
「もっと、真剣にやれ。本気度が足りてねえ」
「真剣だけど!!」
ふうふう息をしながら、身構える。
悠々と立つカロルス様を、じ、と見た。
見せたい。オレが、以前より強くなったところ。少しでも、びっくりの顔をさせたい。
お腹の底から、力を込めた。
じり、と腰を落としてわずかに片足を引く。
オレだって、強いんだから!
双眸に力を込めて、ブルーの瞳を見つめた。
「……いいぞ。ほらみろ、できてるだろ」
「……えっ?」
ふっと笑ったカロルス様に言われて、間抜けな声が出た。
皆さま!情報解禁です!!
『選書魔法のおひさま少年、旅に出る。』
電撃の新文芸様から7月刊行予定! Twitter(X)にはイラストが出されていますので、ぜひご覧ください!! 透明感あるイラストでとってもかわいいですよ!!
活動報告にも書きましたが、既に予約も開始されているようです。
厳しい昨今の状況、どうなるかめちゃくちゃ不安ですが、応援いただけると嬉しいです!
書籍化にあたってだいぶ改稿しましたよ! 書き下ろしも!!
ピュアなわんこ少年ルルアと、ツンデレ不良少年ディアン、そしてぽんこつもふもふのほのぼのした日々を楽しんでいただけると幸いです。






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/