1083 器用不器用
「うおぉ……ドラゴン……これがドラゴン……!!」
感涙しそうなところ申し訳ないけど、これがドラゴンかどうかは微妙なところだと思う。
「違うってばタクト! これは、鳥の一種!! ほら、翼!!」
膝に乗せた、銀次おじさんの両翼を広げてみせる。
ロクサレン家でお披露目にはもう飽きたのか、もしくは子どもはサービス対象外なのか、銀次おじさんはほとんど無反応でだらけている。
「鳥要素が翼だけしかないじゃない~」
「鳥と言えば翼! つまり、翼さえあれば8割くらい鳥ってこと!!」
「じゃあチャトも、鳥ってことになるけど~」
……それはそう。つい言葉に詰まるオレを見て、チャトが鼻で笑った。
「何言ってんだよ、これ、大魔法のドラゴンだろ? みんなにも見せてやろうぜ! そしたら、次大魔法使う時は完璧なイメージできんじゃね?!」
やっぱりバレるよね……。そりゃあ、あれだけ日々目に焼き付けていたイラストだもの。
まあ、クラスメイトにくらいはバレていてもいいかな。確かに、イメージは大切だし。
「そうだ、銀次おじさん、人前で大きい姿になったらダメだよ? 大騒ぎになっちゃうから」
『フン、このしっくりくるサイズ感があるというのに、そんな面倒なことはせん』
本当に……? さらっと気まぐれで大きくなりそうで怖いのだけど。
オレ、幻影魔法とか覚えておいた方がいいのかもしれない。
「見た目がドラゴンっぽくても、この大きさだったら誤魔化せるよね!」
「ん~。ひとまず、信じられないって意味で誤魔化せそう~」
「俺らはさ、ユータだからそういうことあるよなって思うから!」
どういう意味?!
唇を尖らせつつ、膝の上でうつらうつらしているニワトリ……じゃなくてドラゴンを撫でた。
ラ・エンよりも、柔らかいタテガミ。
鱗は手足だけなのかな……? ボディはうっすら羽毛のような毛並みに覆われているけれど、鳥のような柔らかい皮膚を感じない。羽毛の下が鱗ってことはないと思うのだけど。
翼以外は、ほぼほぼ想像するドラゴンのまま。二本のツノまで生えている。
もう少し、鳥っぽくても良かったのに。
「ひとまず銀次おじさんは、一人であちこち行ったらダメだよ!」
『何を言うか。美味いエサと寝床があるべき場所にある。そこから我は動かぬ。それこそトサカの矜持よ!』
声高らかな宣言は、どっちかというとぐうたら宣言見たいに聞こえるけども。
でも、そうだね。
銀次おじさんたちは、お庭の範囲から決して出なかったもの。
朧げな、懐かしい記憶をたどって、ふんわり笑った
「うん……オレのそばにいてね。ここに、美味しいごはんと、素敵な寝床があるから」
オレの中にいる時ってどんな感じか分からないのだけど、居心地はいいらしいから。
『よかろう』
鷹揚に頷く銀次おじさんに、ラキとタクトがこそこそしている。
「なんでユータの召喚獣って、普通のがいないんだろね~? あ、外側じゃなくて中身の話~」
「そりゃあ、『ユータの』召喚獣だもんな……フツーだと合格しないんじゃねえ?」
全然、普通で問題ないです! モモとかシロとか、結構普通……普通……?
一体、普通っていうのは何? なんだか、普通がゲシュタルト崩壊を起こしそう。
「そんなこと言ったら、ラキとタクトだって普通じゃなくなるんじゃない?」
ハッと顔を見合わせた二人が、自らを抱きしめて怯えた表情をする。
「やべえ! 俺、俺も……浸食されてる?!」
「そんな……僕、とっても普通の大人しくて穏やかで目立たない一般人のはずなのに~!」
思わず、オレとタクトの視線がラキに向く。
「……お前。さすがに、図々しくねえ?」
あ。……うん、そういうこと言っちゃうからタクトだよね。オレが何か失言する前でよかった。
「……どういう意味~?」
にっこり笑顔と共に、世界がひび割れてガラガラ崩れ落ちていく気がする。
同時に底冷えするような気配に、心拍が上がっていく。意識的に深呼吸して、腕をさすった。
「おい威圧! 威圧すんな!! お前、よく俺らに向けられるよな……!」
「え~簡単じゃない~? どんな感じかやってみてよ~」
「言っとくけど、めっちゃ怖ぇえからな!!」
タクトがオレの後ろに回って吠えている。巻き添えにするのをやめていただきたい。
「タクトも、威圧できるでしょう?」
振り返って、怯えたタクトを見上げた。タクトだって、割りとやってると思うのだけど。
「できるけど、敵にしか向けられねえ!!」
「不器用~」
「お前が器用すぎんだよ!!」
そうなのか。どっちにしろ、できてるんだかどうなんだか、サッパリ分からないオレよりは上だ。
「オレも使いこなしたいな……執事さんのとか、すっごい怖いよ」
「そりゃそうだろうな……」
直接ガッツリ向けられたことはないけれど、隣でそれを感じることはある。
思えばラキの威圧は、それに似ている。末端から凍り付いて行くような、黒い浸食。
カロルス様だったら、どんな感じなんだろう。
「ねえ、二人はどうやって威圧してるの?」
「ぶっ殺す! って思って」
うん、それはオレたちに向けられたら困るな。だから、敵にしか向けられないんだな。
「う~ん、最初はそんな感じだけど、慣れたら『威圧する』って考えるだけで向けられるかな~?」
慣れるほど、『ぶっ殺す!』の機会があったの……? それはそれでどうなんだろう。
つまり、オレは『ぶっ殺す!』と思ってないから無理なのか。
「ええ……難しいな。人相手にぶっ殺すって思うことってないじゃない?」
「あるわ」
「フツーにあるよね~」
そ……そうですか。オレ、平和な世界で生きていて良かった。
「人にはちょっと無理だから、魔物だとして……魔物にだって、別にぶっ殺すなんて思わないもの」
「確かに、食材にぶっ殺すとは思わねえな」
「ユータは、どうやって美味しく食べよう~とか考えてそうだし~」
そうですけど?! 間違いなくそう。
まさか、それがこんなところで足を引っ張るとは……!
「そもそも、ユータは威圧とか無理な気がすんだけど」
「まあね~。やわやわ幼児だと、さすがに厳しいよね~」
言われてむっとした。
だからこそ、必要なのではあるまいか……威圧ってやつが!
「よし、カロルス様に教えてもらおう!」
きっとカロルス様も、ぶっ殺す、とかあんまり思ってなさそうだし!
すうっと凍える気配をまとう己を想像して、オレはむふふと堪えきれない笑みを浮かべたのだった。






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