1082 具体的イメージ
そのまんまだ。
姿は違うけれど、いかにも銀次おじさん。
話したこともないのに、そう、これこれと思うこの感じ。
……でも。
あの、それはそれとして……その姿。
小さくてかわいいけども、ちょっとアレじゃないかな。
『ヒヨッコ! 早くこの忌々しい壁を退けんか! この! このこのこの!』
『待ちなさいよ! 最年長のくせに落ち着きがないわね!』
バチバチとモモシールドから火花が散っている。もう……しょうがないんだから。
「ふふ、そうだね。まずは、いただきますかな!」
途端、さっと座ったみんなに倣って、きょときょと見回した銀次おじさんも席に着く。
「銀次おじさん、やっと呼べたね。こっちの世界でも、よろしく! 今度は……オレが守れるように頑張るね!」
『クワーーッ、ヒヨッコが、羽毛が白くなってから言え!』
白くはならないけどね!? やっぱり、オレを護っていたつもりだったんだな。オレ、一応地球では大人だったんだけど。さすがに、銀次おじさんよりも強かったはずなんだけどなあ。
くすくす笑って、手を合わせて――。
「じゃあ、食べよっか! いただきます!」
わふっ! と、既に何か口に入っていそうないただきますが聞こえた。
一斉に食べ物に向かうみんなを見渡して、なんだかオレは手が動かない。
箸を持った小さな手を、じっと見た。
少し、深呼吸する。
オレ……みんなを呼べたんだな。
もう一度顔を上げて、賑やかな食事風景に目を細める。
――ラピスは、ケーキがいいの! ユータ、早く分けてほしいの!
『うっ……主ぃ! 俺様に、もっと食べられる魔法をかけて!』
『おやぶ、ばやんす良く食べるのよ!』
シロたちのそばだと、うっかり食べられてしまいそうで、オレの手元でわちゃわちゃしている小さい組。
くりり、と振り返ったティアが首を傾げた。
……なんでもないよ、とにっこり笑う。
元からの絆も、新しく結ばれた絆も。
オレ、良かった。
この世界に来られて。
もう何度目になろうかという、その感情を噛みしめて笑った。
――ゆーた、早く切るの! ラピスが切っ――
「ま、待って! 切るから!」
ほこほこした気分で、ただみんなを眺めていたら、ふわふわの破壊神が飛んできた。
慌ててケーキを切り分けると、みんなに分配しておく。
特別祭壇で悠々と食べているルーにもお供えすると、こちらを見た金の瞳が、じっとり細められる。
どうするんだ、アレを。そう言われている気が、すごくする。
だ、大丈夫じゃないかな……多分!
そっと、新たな召喚獣を見つめた。
◇
「あの……ちょっと、見せたいものがありまして」
努めて平静を装って、カロルス様を見上げた。
途端、目を剥いて突っ伏した領主様。
「うおぉ……まだ、まだなんかあんのかよ! お前、またやらかしただろ! なんでギルドから感謝文と覚えのねえ報償が届くんだ!」
あっ……やっぱり来てましたか。
あわよくば、ギルド内で『よかったね』ですむかと思ったんだけど。まったく、余計なところで義理堅い。だけど、多分、そんなことはどうでもよくなるんじゃないかな。
「えーと、それはまあ、置いといて……それよりも」
「それよりでけえことなのか……」
最強の英雄が、ぐったりしている。そ、そんな悪いことじゃないから!
「違うよ!? あの、新しい召喚獣が来てくれたから、その紹介をした方がいいかなと思って!」
ものすごく胡乱な視線が突き刺さる。
「……またろくでもねえモンを呼んだのか」
「そんなことは……」
煮え切らない返事に、カロルス様が深々溜め息をついた。
「――わくわくするわ! 次はどんなかわいい子なの!?」
「マリーは確信しています! 素晴らしい生き物であると!」
ちゃんと嬉しそうにしてくれるエリーシャ様たちに励まされ、にっこりした。
「うん! かわいいけどね、でも中身は結構年をとってやかましいんだ。銀次おじさんって言うんだけど」
ちなみに、もちろん新しい名前を考えようとしたのだけど。
『我の名前を変えようなどと笑止千万!!』と言われてしまったので、まあいいかと。元々、オレがつけた名前じゃないものを、変えてしまうのも憚られちゃって。
「わくわくしねえわ。嫌な予感がひしひしする」
「心外ですが、同感ですね」
「うーん。期待感はあるんだけども、それが僕たちに関わって来るとなるとまた違うっていうか」
そう言いつつ、セデス兄さんは瞳の輝きが抑えきれていない。
とっとと出せ、というカロルス様に促され、頷いた。
「じゃあ……銀次おじさん、お願い!」
『クワーーッコッコッコ!!』
……その声、ちょっとどうにかならないだろうか。
そう思った次の瞬間、えっと声が出た。
『ありがたく拝むがよい! この美しき羽毛! とさかは惜しいが、まあよかろう!』
どん、と床を揺らしたその大きな身体。
ぱちり、と瞬いてほの温かい身体に触れた。
「え……? お、大きくない……? あれ? さっきまでは……」
元の銀次おじさん、つまりニワトリサイズだったはず……。
『ヒヨッコが、お披露目だと言うから、立派な姿が良かろうと配慮したまで! 礼はあとで構わん!』
「お、大きくなれたんだ……」
天井に頭がぶつからないよう、窮屈そうにする銀次おじさんを見上げて、そろりとみんなへ視線をやった。
ふーっと息を吐いた執事さんが、額を押さえた。
セデス兄さんが、息を止めて目を輝かせている。
エリーシャ様とマリーさんは、小さく?! 小さくなるの?! と興奮している。
カロルス様が、ゆっくりオレに視線を戻すと、引きつった笑みを浮かべた。
「……なあユータ。俺には……部屋にドラゴンがいるように見える」
えっと……オレにもそう見えるっていうか。
「あ、あのでも!! 見てこの翼! ほら、ドラゴンじゃないよ!? 多分、鳥の一種じゃないかな!!」
サッと、銀次おじさんの翼を持ち上げてみせる。
ラ・エンのような翼膜ではない、鳥の翼。
そこにいたのは、口さえ開かなければ神々しい、鳥の翼をもつ白いドラゴン。
さらさらとしたタテガミが赤い。
オレ……この姿、見たことあるんだ。
「ねえユータ……! これって、あれでしょ!? ユータの家で語り継がれていた古文書の!! うわあ、実在したんだ!? つまりユータの家に伝わる守り神とか、そういう感じ!?」
そう、それだ。
オレたちの大魔法、あの時の挿絵に、そして魔法を放つ瞬間に浮かび上がったドラゴンの姿。
『クワーッコ! 最強たる姿ならば、我に相応しい! 我を模した色味も、姿も好ましいではないか!』
クワックワッと笑う銀次おじさんに、確かに、と思う。
あれは、サイア爺のお魚の色味でもあったんだけど。でも、言われてみれば、銀次おじさんと同じ配色だ。ボディが純白か銀かの違いはあるけれど。
あの具体的なイメージを元に、銀次おじさんは具現化したんだろう。
『もうよいか。邪魔でかなわん』
言った途端、ふわっと光をまとった。
瞬く間に、小さくなった光の中、ニワトリサイズのドラゴンが現れる。
エリーシャ様たちから悲鳴が上がった。
うん、かわいいよね。
「ね、ね?! ほら、これは鳥! ちょっとトカゲっぽい要素はあるかもしれないけど! 紛れもなく鳥だよ!!」
「「……」」
他の視線が緩むなか、執事さんとカロルス様だけは、少々やつれた表情で遠くを見ていたのだった。
ニワトリさんでした! そして、やっぱり必要よね、ドラ……いるよね??
皆さまの感想がとても嬉しい……(´;ω;`)






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