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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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1096/1109

1080 シロの胸の中に

ぼうっと、揺れる梢を眺めてどのくらい経ったのかな。

ちゃぷり、ちゃぷりと岸へ寄せる湖の音を聞いていて、ふと口を開いた。

「ねえルー、お風呂に入ろっか」

「……」

こちらを見た金色の瞳が、何を唐突に、とありあり語っている。

ふふ、と笑って立ち上がると、最近使っていなかった露天風呂を綺麗にした。

……だってね、なんだかこのままお昼寝したくない気分だったんだよ。


慣れた手順で露天風呂にお湯を張って、振り返った。

「さあ、入るよ!」

「別に、いらねー」

「終わったら、さらっさらのピカピカにブラッシングするよ!」

ぴくり、と動いたしっぽに成功を確信して服を脱ぎ捨てた。

ちょん、と足をつけて温度を確認する間に、ひらひらと落ちて来た葉っぱに先を越された。

ゆっくり沈めていく小さな身体から、幾重にも波紋が広がって、木漏れ日の梢をゆらゆらさせる。

首まで浸かると、水面に微かに漂う白い湯気が見えた。


ふう、と息を吐いた途端、大きな影が動いた。

あ、と思う間もなくどぷんと沈んだ大きな質量が、どうっとお湯を押し退ける。

完全に波に呑まれて水中に引き込まれたオレは、図らずもぐるりとでんぐり返ししてから、慌てて水面に顔を出した。

「けふっ! あ~~鼻が痛い! もうちょっとゆっくり入ってよ?!」

素知らぬふりで縁に顎など載せている神獣は、絶対わざとだ。

大きく波打つお湯に翻弄されながら、大きな獣のそばまで行く。

手を伸ばすと、水中で漂う毛並みがやわやわ絡んでくすぐったい。


のぼせないようルーの足に乗り上げると、硬い弾力を感じる肢体に寄り掛かった。

既に温まった身体が、ちょうど半分外に晒されて心地いい。

段々と落ち着いてきた水面には、再びきらきら木漏れ日が映り始める。梢を動いた影は、小鳥かな。

たぷ、たぷ、時折揺れる水面は、ルーのしっぽのせい。

ちら、と視線をやったルーは、完全に目を閉じてうとうとしているよう。これ、人型だったらちょっとオッサン臭いのでは? なんて考えて笑った。

「最初にここへ来た時も、一緒に温泉入ったね」

その時に比べたら……。

ねえ、随分心を通わせたと言っていいと思うんだ。


大丈夫、オレの一方的な思いじゃないよ。だってほら、ルーはやっぱり最初とは違うもの。

「オレ、ルーの近くにいると、思ってるんだ」

話しかけているつもりでもなく、ただ、オレの内側を整理するように呟いた。

「大事で、大好きだよ。……そうだね、神様ってそういうものかも」

ああ、と気が付いて笑みが浮かぶ。

そういうものだ。神様から返してもらえるのは、オレと同じ思いじゃあない。だって、神様はもっとたくさんの命を見ているから。


そっか、と納得して。

でも、と冷えてきた肩を越えて口元までお湯に沈めた。

でも、だよ。

オレは贅沢だな、と苦笑して、お湯の中にある身体を抱きしめた。

「うーん、もっと近くにいきたいな」

ぱしゃりと音がして、べしっと塗れたしっぽが頭に当たった。

「これ以上近くなりようがねー」

「そう? ならいいかな!」

たとえその言葉の意味が違っても、今日はこれでよしとしよう!


にっこり笑った時、ざばりとルーが体勢を変えた。

「俺は――」

ざばばば、と滝のように毛並みから滴り落ちる水音の中、ルーが何か言った気がする。

「え? ルー、何か言った?」

「言ってねー」

「ええ! 言ったよね?!」

そう言われると気になるんだけど?! でも、言う気のないルーが口を割るはずもなく。

まあ、大事なことではなかったんだろう。


「わあ、真っ赤になってる」

小さな手足を持ち上げると、湯気が立ち上った。

「オレ、先に上がるね。ルーはもうちょっとゆっくりする?」

この小さな身体は、気を付けないとすぐにのぼせてしまう。

無言で大きな身体を引き上げたところを見るに、多分、ルーはブラッシングを所望しているんだろう。

今日は、特別ゆっくりブラッシングしようかな。

大きな身体だもの、随分時間がかかるんだよ。そうしたら、きっと眠くなる。

天上の毛並みとなったルーの上でお昼寝。いや、その頃には既に夕方かな。


「今日は一日、じっくりルーと過ごそうかな!」

魔法で乾かした毛並みが、ふわっと膨らむ。

ちらりとこちらを見ただけで、何も言わなかったことに目を瞬いた。

いいの……?

絶対、追い出されると思ったのに。

もしかして、オレがちょっぴりナーバスになっていることに、気が付いているんだろうか。

少しずつ、ブラシを動かしながら、思いついて生命の魔力を流す。

喉元からごうごう聞こえる低い音に、安堵した。


 

気持ちの良い木漏れ日にうとうとしていたシロは、少し目を開けてルーを見た。

ぴんと立った三角耳を動かして、チャトより大きな低い振動音に再び目を閉じる。

きっと、言わなくてもいいことだ。

ユータは聞こえていなかったけれど。

でも、ルーはきっと、それでよかったんだ。

 

『俺は、お前を選んだから、杯を飲んだ』


それが何のことか、シロには分からなかったけれど。

でも、それはもう、聞かなくていいことだと。言わなくていいことだと。

それだけは、しっかりと感じとってにっこり笑う。

僕、言わないね。

だから、ルーが、ちゃんと言うんだよ。

ぱたっと一度だけしっぽを振って、シロは間もなく寝息を立て始めたのだった。




設定教えていただいてありがとう!

私の中にある設定、どこまで書いたんだか書いてないんだか忘れる……!!!

多分、皆様の方がよくご存知……!!

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ついに20巻!お祝い感溢れる表紙が目印です! 今回はランキング結果あり、書下ろし特別編もあり! 奥付のQRコードで抽選プレゼントがありますのでお見逃しなく?!
今回も最高~のイラストですよ!!

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― 新着の感想 ―
もふもふ露天風呂! なんて素晴らしい(≧▽≦)
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