1079 神獣とは
「……これは、切っただけだ」
不服そうな顔に苦笑する。
そんなこと言ったら、板前さん激怒だよ。まあオレは板前さんみたいな腕がないから、本当に切っただけなんだけども。
「一応、切り方とか大きさとか、考えてるからね! あと、このタレを合わせたのだってオレなんだから!」
文句を言う割りに、ひょいひょい食べているんだから。
これは、箸で一枚一枚食べるものでしょう! ということで、お酒をエサに人型になってもらったルー。でも、這い寄る花のお刺身モドキは、あんまり嬉しくないようで。
やっぱり現地の人からしたら、これはサラダなんだろうか。お刺身という概念がなければ難しいかもしれない。ちなみに、箸は使ってくれなかったので、手で一枚ずつつまんでいる。
少しでも和に近づけようと出汁に漬け込んでみたので、オレからすると、そのまんま食べた時よりも大分洗練されている。
でもやっぱり、魚の旨味っていうものがないから難しい。いっそナタデココ風にスイーツにした方が好評だろうか。
「いっぱいあるから、いろんな食べ方ができたらいいんだけどね」
ひとまず薄切りのチーズを追加して、カプレーゼのようにしてみた。
ひょいと刺身モドキをつまみあげ、じっくり噛みしめた。
今度ジフやプレリィさんとも相談してみよう。そう思いながら、あぐらをかいたルーの片腿に頭を載せて転がった。
獣姿でオレのスキンシップ(?)に慣れ切っているルーは、こんなことをしても大して気に留めない。
それよりも、カプレーゼがワインと合ったようで、そっちに夢中だ。
「……硬い」
やっぱり、ルーは獣姿の方がいい。締まった腿は、お世辞にもいい枕とは言えない。
ちら、と見上げたルーは、まだちびちびワインを飲みながら食べている。
仕方ない、食べ終わってから昼寝にしよう。
そう決めて、集中し始める。
もうかなり慣れた作業は、疲労感こそあれ、難しいことはない。
種石を作ったら、毛糸玉をつくるように魔力を絡めていく。
そう、恒例の生命の魔石作り。
今日は何も予定がないし、ちょっと頑張っておこう。
じりじりゴルフボール大の魔石に成長させ、ふう、と息を吐いた。
ここから、もう少し……!
どうも、一定以上の大きさになると格段に難易度が上がってくる。
徐々に朦朧とし始めるのは、召喚の時と似ている。魔力を大量に消費すると、どうにも意識が薄れていく感じがする。それとも、集中しきっているからだろうか。
ふいに、ぐっと身体が持ち上がったような感覚。
ふわ、と柔らかなものに包まれて、きりきり引き絞るようだった意識が解放された。
「わ……見てルー! 最高記録更新かも!」
いつの間にか汗だくになっていたことに気付いて、額を拭う。
「……絶対に置いて行くんじゃねー」
獣姿に戻ったルーは、半ば諦めたような目で、ハンドボールを少し超えたサイズの魔石を見た。
オレも、じっと大きな生命の魔石を見つめる。
予備タンク代わりの生命の魔石は、結構貯まっている。
そろそろ、いけるだろうか。
「召喚、うまくいくかなあ……」
ぱたっと腕を落とすと、小さな手では荷が重すぎた大きな魔石が、ころころ転がって行った。
長い尻尾が、そっと転がるそれを止め、オレの手元まで引き寄せる。
絶対に持って帰れという強い意志を感じる。
いいじゃない、ルーのいる場所なら。
生命の魔石が随分貴重だって聞くから、オレの収納にいっぱい入ってるのも怖い気がして。
「収納に入れておけ」
「入れるけど……そんな急かさなくたって」
ああ、身体が重怠い。少しばかり、想定より魔力を使いすぎてしまった。
「一刻も早く入れておけ。ここらの魔素が乱れる」
「ええ……大魔法を使ったわけでもない――ああそっか、そのくらいの魔力消費はしてるから」
ごろり、と転がって大きな生命の魔石に触れると、収納へしまった。
魔力消費だけで言えば、確かに相当だ。
「でも、ここは生命の魔素が多いから、大丈夫じゃないの? 乱れるの?」
「乱れる。魔法を使えば場が荒れる」
「へえ……そういうこともあるんだ。じゃあ、大魔法の会場とか大変じゃない? あ、ダンジョンなんてずっと魔法が使われてるよ?」
そもそも、場が荒れたら何がダメなんだろ。
「ダンジョンは、だからダンジョンだ」
「ええ? どういうこと?!」
「乱れに乱れた魔素の場が、ダンジョン化する」
なんでもないように返って来た言葉が、頭の中を通過して、引き返してきた。
えっ……今、すごく大変なことを聞いたような気が……。
重い身体をなんとか起こして、金の瞳を見つめる。
「じゃ、じゃあ……ここでオレやルーが毎日魔法を大量に使ったら、ここもダンジョン化するってこと?!」
「するか」
フン、と鼻であしらわれ、がっくりつやつやの毛並みに倒れ込んだ。
な、なんだったの……さっきまでの会話は。
「俺がいる時点で、そんなことにはならねー。基本、ダンジョンは閉鎖空間だ」
「もう……だったら、脅かされた意味は何だったの?!」
「乱れると、俺がめんどくせー」
大きな頭が、とすんと柔らかな土の上に下ろされた。ごろり、日に当てるように晒されたお腹が大変魅力的。
迷わずそこへ乗り上げて、全身で頬ずりした。
「ここがダンジョン化しないように、頑張ってね! けど、その理屈で言えば王都の周辺なんて常に魔法が使われてるよ? ああ、閉鎖空間じゃないから大丈夫ってこと?」
「小さな魔法は大して影響ねー。多少荒れてもすぐに均一化する」
なるほど? じゃあやっぱり閉鎖空間って話だね。だけど、王都にはメイメイ様とか、大きな魔法を使う人も結構いる。大丈夫なんだろうか。
「あ……それでいうと、ロクサレンなんか……」
へ、閉鎖空間じゃないから! だから大丈夫なんだよね?!
不安になって、あたたかい身体をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫じゃねー。だから、乱れた場所へ靄が出た」
「靄……あっ!?」
一瞬首を傾げて、さっと青くなった。
あれは……偶然ではなく?
魔物があふれ出る、邪の魔素の塊のような黒い靄。
あれが出た場所は――王都と、大魔法の会場と……ロクサレン。
こくり、と喉が鳴った。
必然、だったの?
ルーは、知っていた。
いつ、どうなるかは分からなくても。だけど、いつかそうなるかもしれないことは。
オレ、結構ここへ来るのに。でも、聞いたのは今日が初めてだ。
遠くを見る、金色の瞳を見上げた。
教えてくれればよかったのに――なんて、言えないな。
ルーは、やっぱり……神獣なんだな。
オレは、ただ目を閉じて、その柔らかな毛並みを感じていた。
あの……設定を書いたか書いてないか自信ないのですが……
書いてなかったよね……????






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