1077 合流
「あ、しまっ――」
顔色を変えた冒険者さんたちが慌てて通路奥へ避難しようとして、揺れる足元にままならずにいる。
よくよく見れば、冒険者たちのいる通路、そこも下部が大きく削れている。こっち側が崩れていたんだから、そりゃあ脆いのは同じだよね。
『そうね、ここで派手に魔法やら何やらすればねえ……』
『巻き添えなんだぜ!』
……あれ? もしかしてオレたちのせいって感じ?
オレが支えているこちら側はともかく、ガラガラと崩れていく目の前の通路。そんなに高さはないし、冒険者さんたちなら特に怪我するほどでもなかろう、と静観していたけれど。
そ、そういう事情があるならば後ろめたい。モモに協力を仰いで、冒険者さんたちをシールドで包んでおいた。
オレたちよりわずかに高い位置で滑落の止まった冒険者さんたち。無事に着地したのに、蒼白な顔で後ろへ這いずっていく。そんなスペースなどありはしないのに。
「た、助け――!!」
「う、うあああ?! ……あ?」
恐慌を起こしそうだった彼らが、ややあってきょとんとした。
「なんだ、これ……シールド?」
ようやく正気の光が灯る瞳に、にっこり微笑んだ。
「うん、一旦シールドを張ってあるよ! 準備はいい? 解除するね!」
「「「えええええ?!」」」
「「「はあ?! シールド?! ちょっと待てユータ?! 俺らも――ああああ?!」」」
ひとまず、這い寄る花がさらに大量に追加されたので、大人組も頑張ってほしい。
周囲はもう花と人入り乱れての大混戦。悲鳴と怒号響き渡る洞窟内は、おかげであちこち崩れている気がする。
蘇芳がいるので、大変なことにはならない……はず。
ライフセーバーとしてシロとモモを配置して、安全面には配慮してある。
「こいつら、どっから来るんだ?」
「さっきの揺れから、増えたよね~」
オレたちはなんとか底を眺めようとするけれど、草で埋まっているので視界はただの大草原。いや、お花畑だろうか。お花って動かないからいいのだと、初めて知った。
「ひとまず、この底に何かあるんじゃない? タクト、見て来てよ」
「ええー……」
嫌そうな顔をするけれど、オレは知っている。身体強化しているタクトなら、この花程度が傷をつけることなんかできない。気持ち悪いという、ただそれだけで。
渋々底を覗き込んだタクトが、腕を回して溜め息を吐くと、一気に駆け下りていった。
「「「はあああ?!」」」
冒険者さんたちの驚愕の声が聞こえる。大丈夫、タクトだから!!
うおお、と一台の重機が道を切り拓いて行く姿が、すぐに見えなくなる。二重底になった、空洞の中へ入り込んだんだろうか。
「あれ? 結構空洞が広く残ってるのかな? ライト!」
タクトのいたあたりにライトを送り込んでほどなく、おええ、と妙な声を上げながら重機が戻って来る。
「くっせぇえ! なんか、デカいのが超腐ってる!」
一気に戻って来たタクトが、涙目ですうはあ息を吸い込んだ。ほんとだ、ほのかにタクトも臭い気がする。
「腐ってるって、魔物? それがこの空洞を作ったのかな」
「それなら、大きめサイズのワームかな~? 死に際に、苦し紛れにこんなところまで来たのかもね~」
なるほど、なんと迷惑な。
以前のウカラマンメイズでも、ワームのせいで穴だらけになっていたことを思い出す。
「でも、二重底はそのせいだとして、この花は?」
首を傾げたところで、戦闘中のクラスメイトから声が上がる。
「種子の状態でワームにくっついてきた、って仮説がたてられるんじゃない?!」
「数個の種が、腐ったワームを栄養豊富な土壌として、天敵のいない空間で大繁殖……とか!」
なるほど、と大きく頷いた。それで合点がいった。
「多分、さっきまで腐ったヤツの通路は崩れて埋まってたっぽい。なんか急に臭えなと思って辿ってみたからさ」
犬みたいなことを言うタクトに、ちゃんと犬のシロが補足する。
『そうだね! ちょっとしか隙間がなかったのが、いっぱい広がったよ。腐ったのがあるって、言った方がよかった? ごめんね、みんな腐った魔物には興味がないと思って』
シロの鼻でお墨付きをもらったら、間違いないだろう。そして、勘違いしてほしくないんだけど、オレたち腐った魔物に興味があるわけでは、決してないからね?!
よし、魔物の謎はこれで判明した。
「みんな、朗報だよ! この魔物たちは無限に湧くわけでもない、ただ異常繁殖しただけだから! つまり、このまま頑張れば着実に数を減らせるってこと!」
疲労の色濃いクラスメイトと、見知らぬ冒険者さんたちへ、そう言ってにっこり笑う。
これで、奮起してくれると思ったのだけど。
「んなモン分かってんだよおぉお! それまで俺らがもたねえって、それだけだ!」
「無限に湧くとかあるわけないだろ! 今! この量が! 無理だっつってんの!」
一斉に反論がかえって来て閉口する。結構、余裕があると思うのだけど。
ちなみにオレは、一人で壁に手を当てているわけだけど。誰か、代わってくれてもいいんだよ?!
「シールド張れんだろ?! やってくれよぉお!!」
悲鳴のような声に、なるほどと頷いた。
「分かった! みんな、頑張ってね!! シールドの方はオレに任せて!!」
しっかり頷いて、きりりと眉を上げる。
「シールド!」
大丈夫、オレが、最終ゲートキーパーだ。この花が、決してこの場から出ないようにする……!!
オレたちが来た方、入口に繋がる通路をしっかりとシールドで覆っておく。こうすれば、知らずに後から来る人たちが被害に遭うことはない。
一瞬の静寂の後、一斉にみんなが何かを叫んだけれど、そんな口々に言われても分かるわけがない。
「うん! 頑張ろうね!!」
適当に見当をつけて、ぐっと拳を握っておいた。
「――回復っ! みんな、頑張ったね!!」
ふわり、とみんなを回復の光で包み込んだものの、もはや無反応。
虚ろな瞳で佇む様は、ゾンビじみて怖い。
「終わった……のか?」
「ここから、出られる……? 解放されるのか……?」
『這い寄る花』はまだ完全なる殲滅はしていないけれど、もう道端に咲く花程度の数になっている。ここまでやれば、概ね大丈夫じゃないだろうか。繁殖するにしても、あっと言う間に増えるということはないだろうし。
みんなで元の通路まで戻ると、崩れた部分にある程度土魔法で蓋をしておく。
「これでよし、入口まで戻ろっか! もしかすると、救援が来てるかもしれないね!」
「それ……最初から……」
「救援……何のために……」
ぼそぼそと力なく呟く声が、しじまの中でノイズのように響く。
冒険者さんたちも、洞窟に閉じ込められて随分消耗していたらしい。魂が抜けたように無言でついてくる。
「それにしても、こんな発見があるなんてな。すげえトラブルだったけど、面白い経験だったわ」
「そうそう、まさか『這い寄る花』が見られるなんて、ある意味ラッキーかも」
まだ元気なクラスメイトがどこか嬉しげにそんなことを言って、ぴたっと足を止めたラキとタクトが、勢いよく振り返る。
「ふふ、人探しのはずが、いい訓練になったよね! それにしても、どこに行っ……」
はた、と足を止めて振り返る。
いつの間にか、全員が足を止めて視線を集中させていた。
「なんでクラスみんなで? メリーメリー先生でも迷子になったの?」
「人探しだったのか。こんなところに? 誰を?」
不思議そうな顔をする彼らに、オレたちはす、と息を吸い込んだ。
「「「お・ま・え・らだよっ!!」」」
ぐわん、と響いた大声に、奥の方でまた、崩れる音がしていた。






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