1076 二重底
「えーっと、もう少し詳しく話してくれる? どういう状況?」
つぶらな瞳をぱちりと瞬いて、ラピスがふわふわのしっぽを上下させた。
――わかったの! もうちょっと行ったところで、会場のメッキが最高潮なの! 早くユータも参加するといいの!
うん、やっぱり分からない。
でも、誰かがいることには違いない。
なんか楽しそうだから、大丈夫な気がするけれど……ラピスだからなあ。
「ねえ、この先に誰かいるみたい! 急ごう!」
「あいつらか?」
「いるのなら、どうして出てこないんだろ~? あ、もしかして『這い寄る花』に夢中になってるとか~?」
そんなまさか、ラキじゃあるまいし……と苦笑しかけて、オレとクラスメイトたちは顔を見合わせた。
いや、彼らは生粋の植物フェチ『鋼の花』パーティ。あり得る……すごく、あり得る。
「マジか……ただの趣味が爆発してるだけかよ」
どっと疲れた顔をするクラスメイトを慰めるつもりで、にっこり笑った。
「でも、みんなでちょっとした自主訓練だと思えば! いい経験じゃない?」
「「「……」」」
そこは、肯定が返って来るところじゃないんだろうか。
オレに注がれた虚ろな視線の意味をはかりかねて、首を傾げた。
「おいユータ! サボってないで魔法!」
「え、うえええぇえ?! 頑張ってラキ!!」
「え~。まあ結構面白いけど~」
頼りになります!! オレは全身の産毛が逆立つ気がして、前方から視線を逸らした。
い、嫌すぎる……多いよ!!
鼻唄を歌いそうな様子で、ラキがシューティングゲームのごとく速射を披露している。正確無比な射撃で、『這い寄る花』は次々ただの朽ち果てた草になっていく。
だんだんとみんながラキから距離を取っているような……。
大活躍するラキに任せ、どんどん進むにつれ、花は増える一方。
一面にわささささ、と蠢く植物は、なんともいえない違和感でオレを苛む。蜘蛛の方がいい! ずっといい!
だって、あのカニだかクモだかの大量発生の時だって、ここまで嫌だとは思わなかった――あ。
「あー! そういうこと?!」
ハッとラピスを見て、前を見据えた。
「みんな、この奥、多分もっと……いっぱいこの魔物が詰まってると思う! 気合い入れて行くよ! 多分、生存者が囲まれているんだと思う」
「無茶言うなよ?! こんな多いの、俺ら無理だからな?!」
「もうあたしらだけだと、引き返すのも危険なんだけどぉ!!」
この花、当然ながらただ気持ち悪いだけじゃない。当たり前のように肉食で、草なのかどうかは疑問だ。
ひっくり返した裏側には、鋭い牙を備えたタコの口のようなものがある。
「さすがに多い~単発射撃では無理~。いくよ~? 丁寧に、均一に。無駄なく、規則的に――細網加工!!」
ぶわっと広がった、網目のような弾幕。
うわあ。無理。こんな魔法、オレには。
まるで機械のように緻密な配置で放たれた弾幕が、目に映る範囲を一掃する。
「ラキ……僕ら、君はまだかろうじて人のうちだと……」
「そうだったのね、ラキも既に……」
顔色を悪くしたクラスメイトが、ぼそぼそささやき合っている。大丈夫、そのうちみんなも仲間入りだから!
ひとまずこの隙に一気に走り出し、拓けた道の先へ急ぐ。
「なんか、臭くねえ?」
「変な臭いするね。あと、道もなんだか…… 」
妙な臭いと、土の臭いが入り混じる。再び魔物が現れ始めた道の先が、黒々して見えて、目を凝らした。
「あ~ユータ効果が出てるね~」
「お前、生き埋まる準備できてんの?」
「縁起でもないこと言わないで?! い、今やるから!」
まるで掘り返したような地面に首を傾げ、ハッと壁面へ魔力を馴染ませた。
足元の乾いていた地面が、ごつごつ荒い下り坂になっている。その下から、魔物が上がって来るよう。
これ、崩れてる……? でも、上が崩れるならともかく、下が崩れるってどういうこと?
「つまり、地面の下に空洞があるってこと~?」
「あ! 見ろよ、完璧崩れてんじゃね? で、向こうにいるのが……」
タクトの指した先、オレたちより高い位置に通路の続きだったはずの場所がある。こうしてみると、こっち側は完全に崩れ落ちて、向こうの通路は削り取ったような絶壁になっている。
ああ、まさにオレが以前やった魔物コンサートのごとく。
ラピスがうきうきと声を弾ませる。
――誰が歌うの? もう終わったの?
盛り上がっては……いるのか。魔物たちは。
そして、底からどんどん花がやって来る。
「うわあああ!?」
「お前らのんびり考察してんなよ?!」
「いやああ!!」
崩れたせいで高くなった天井に、悲鳴が響く。
「お、おい! なんで子どもたちが?!」
「くそ、どうする?! 誰か……」
向こうの通路から顔を出して見下ろしてきたのは、どうやら崩れた奥にいた冒険者たち。
それなりの数がいそうだけれど、なぜそこに留まっているんだろうか。
「こんにちは! ねえ、どうしてそこにいるの?」
大きく手を振ると、右往左往していた彼らが、え、と動きを止めた。
「避難してんだよなあぁあ!!」
「フツーはそうするのよねえっ?!」
彼らの代わりに、なぜか戦闘中のクラスメイトたちが声を張る。
「そうなの? じゃあ、みんなで協力してここを出る?」
「え……いや、そこ、一面の魔物で……」
錆びついたような動きでこちらを見た冒険者さんたちが、絞り出すように言った。
どうやら『這い寄る花』たちは壁面を上ることができないようで、高台にいれば安全ということになったらしい。
「あの、他の奴らが救援呼んでるから……」
「ああ! だから人がいなかったんだ」
そりゃそうか。ここが崩れた時点で、その場にいたみんなは異変に気付くよね。
「つまりだ、ユータ! 俺らもあそこへ上がらせてくれよ?!」
「死んじゃうからぁあ!」
方々で着弾する魔法と、もはや剣よりも足で踏みつぶす方が早いと判断した肉体派たち。
必死の応戦を見せるクラスメイトたちに、深々頷いた。
「うん、わかった! じゃあまず、この辺りの魔物を片付けてしまおう!」
「「「そうじゃねえええぇ!!」」」
素直に肯定したのに。むっと唇を尖らせたところで、ズズ、と振動が来た。
あ、マズイ。
「モモ!」
オレは咄嗟に壁に手を当てた。






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