1063 うごめく影
「レッサードラゴンってどのくらいいるんだろ……ここにいるので全部ってことはないよね?!」
欲望に駆られて、まさかの美味しいお肉を絶滅させてしまうなんて、愚の骨頂!!
キリっと表情を引き締め、シロに確認をとっておく。
『大丈夫! ぼく、ここじゃない場所で食べ……捕まえたもの!』
だったら安心。生息域はここだけじゃない。それに、ここは王都の外れ。あんまり大きく強めの魔物がいては危ないかもしれない。そうでしょう?
『主ぃ、強め、が全然伝わってこないんだぜ!』
『あうじの方がちゅよいんらぜ!』
フンス! と力強く宣言してくれたアゲハに頬が緩む。
そう、オレは結構強いからね! なんせCランクだし!
『Cランクならフツー負けるだろ』
すかさずツッコミが入って、鋭いなと首を竦めた。
実際、レッサードラゴンは大きさにもよるけどB~Cランク。Cランク『パーティ』が基準だもんね。そもそも胃洗浄の彼? 彼女? ならBランクじゃないかな。多分、王都から離れた位置にいる方が大きいのがいる。つまりこちら側から攻めたのは大正解だ。
武器は大きさと、硬さと、俊敏さ。魔法を放ちはしないけれど、その硬さは身体強化系ではある。こういうところも、ドラゴンの名を冠する所以なんだろうな。
「つまり……身体強化系だからこそ、魔法が切れた状態のお肉はあんなにも柔らかく上質で……!!」
なんて言ったら、カロルス様やタクトも? なんて考えてしまったけど、レッサードラゴンは鱗が魔力を通して硬いせいだから!
食いついてこないかな、と敢えてシロに乗らずに巨岩の上を跳び歩いていたら、さっそく釣れた!
「一本釣りだね! よいしょお!!」
釣り上げイメージで、高々と宙へ吹き飛ばした。ちょい、と調整すれば自然と重い頭が下になる。こうしてみると、本当にドラゴンみたい。
……飛べないけれど。
ズズン、と地面を揺らす振動の後、舌を吐き出したレッサードラゴンがしんと横たわっていた。
『釣り……?』
いちいち突っ込まなくていいから!
律儀に反応するチャトにむくれながら、素早く収納へ。
「そこぉ!」
素晴らしい、入れ食い状態だ。
すんでで躱した顎が、ガチンッと硬質な音をたてて閉じた。
大きな縦長の瞳孔と、オレの小さな黒い瞳が互いを映す。
……これも、なかなかの大物。
うふ、と笑ったのが見えたろうか。
飛び退いたレッサードラゴンが、じり、と後ずさりを見せた。
「逃がさないよ?」
食べようとするならば、食べられる覚悟を持たなくては、ね?
駆け上がった巨岩を蹴って、跳んで、跳んで。岩とレッサードラゴンそのものを足場に、翻弄する。
「水鉄砲!」
ビク、と一瞬驚かせるだけの魔法。だけど――
『俺様の切れ味は世界一ぃ!!』
ほんの一瞬、その後頭部へ回り込むには十分で。
その一瞬は、オレがとどめをさすのに十分で。
そこは、当たり前の造りをした生き物の、大体の急所になる。
短いリーチで目いっぱい切りつけた、後頚部。
崩れ落ちた巨体を、着地と同時に収納した。
顔を上げると、随分森が近く見えるところまでやってきている。
「おいユータ! これどうすんだよ!!」
向こうから、横たわるレッサードラゴンが二体、土煙を上げながら迫って来た。なかなかにホラー。そしてその上に座り込んで素材を眺めているラキは、もっとホラー。
「ちょっと、引きずらないでよ?!」
「無茶言うな!」
いつの間にやらシロを呼んでいたらしい。それぞれ一体ずつ担いでやってきた。
これで、4体だね! カロルス様と、エリーシャ様と、セデス兄さんと、タクト分。つまりまだオレたちの分が足りない。オレたちは各々一頭もいらないから、もう一頭くらい狩れればいいかな?
「あと一頭……か二頭で打ち止めにしよう!」
もっと狩りたいのはやまやまだけど、あんまり数を減らしてもいけないかもしれない。
目をぎらつかせながら探していると、匂いに惹かれたか、森の方から一頭現れた。うーん、森サイズは少し小ぶりかもしれない。どうしようかな、と思っているうちにタクトが駆けだしてしまった。
じゃあそれはタクト分ね、と思いつつ、オレもちょうどよくラキを頬張ろうとしている一頭を見つけた。
「それは……やめた方がいい、よっ!」
狙いがオレに向いていないなら、簡単だ。難なく後ろにまわったオレの一閃で、レッサードラゴンは電池が切れたように倒れ伏した。
「ユータ、こっちも!」
タクトも随分早くなった。いそいそ獲物を収納して振り返り、素晴らしい収穫に満面の笑みを浮かべる。
だけど、タクトはこっちを見ていなかった。
オレから見える後頭部から、何かをひしひし感じる。
やがてゆっくり、肩越しに振り返ったタクトの、表情。
オレの上がった口角が、ひくりと引きつった。
森の中から現れた、いくつもの影。
すうっと背中が冷えて、こめかみを汗が伝ったのが分かる。
重々しい音をたてて進み出た影のひとつが、ぴたりとオレを見た。
「…………ユータ?」
「えっ?」
とても覚えのある声が、オレの名を呼ぶ。
我に返ったオレは、ぱちっと瞬いて、首を傾げた。
慌てて兜を取った騎士に、もう一度瞬いて、あっと声が漏れる。
駆け寄ろうとした彼が、むんずと後ろの騎士に首根っこを捕まえられてバタついた。
「ちょっとローレイ様?! 放してくれます?!」
「馬鹿か、お前ひとりじゃ食われるのがオチだろ」
「でもユータが!」
「だ、大丈夫ミック、オレがそっちに行くよ!」
さりげなく通りすがりにタクトの獲物も収納しつつ、ミックとローレイ様らしき騎士に駆け寄った。
「えっと、二人……じゃないね。騎士様たちはこんなところで何を?」
とっても注目を浴びている。ミックの背後には、彼の所属するだろう隊の騎士たちがいた。
視線が合ってるのかどうか、兜越しでよく分からないけれど、すごく見られているのは疑いようもない。
「それは私のセリフだよな?! こんなところで、何を? ユータが強いのは知ってるが、さすがに子どもたちだけでここは危険だろう」
「う、うん……。ちょっと収穫に来ただけなんだよ」
嘘は言ってない、嘘は。たぶん。
ガシャン、と音がして、ミックを捕まえる騎士様が兜を脱いだ。木漏れ日にきらきら光る淡い金髪。自分の顔の良さを重々承知しているローレイ様が、気取った仕草で髪を掻き上げた。
「ほう……収穫か。俺には空高く舞い上がったレッサードラゴンが見えたが。お前も見ただろ? あんな目立つもの。ちなみに、あっちのガキは蹴り飛ばしてたよな?」
すうっと目を細められて、冷や汗が止まらない。
「まさか、空飛ぶアレもユータが?! くっ……遠いな……」
ミックが驚愕して、なぜか項垂れた。そうか、少なくともミックはオレのことを知ってるんだし! ローレイ様だってある程度知ってる。これは、ラッキーでしかないのでは。
しかも、と目を輝かせて隊の面々を見回すと、ざわっと一斉に身を引かれた気がする。
彼らは、オレがせっせと餌付けをした騎士たち……!!
返してもらおう、ここで、クッキーの恩を。
『安上りだな』
鼻で笑うチャトだけど、そうでもないよ?! だって、今後のクッキーや差し入れだってかかってくるんだから!
オレは、にっこり笑ってローレイ様を見上げた。そして、さっと袋を差し出してみせる。
「……」
中身をのぞいた美青年が、無言でじろり、とオレを見下ろした。
ダメか……ならば!
ささっと差し出した皿の上には、ずらりと並んだおにぎり。
ごくり、と周囲から喉を鳴らす音が聞こえた気がした。
ローレイ様は、それらをミックに渡すと、片手を上げて何か合図した。
「えっ、ローレイ様?! ちょっと……待って、なんで俺を引っ張っていくんですか! 俺はユータに……ユータぁ!」
無言で遠ざかっていく騎士様たちの、雄々しい足音が響く。
完全にその姿が見えなくなったところで、詰めていた息を吐いた。
「な、なんとかなったぁ~!」
『なったかしら……?』
ぽんと腕に飛び込んできたモモが、肩まで弾んで、溜め息をひとつ。
「なんで、騎士様がこんなとこにいたんだ? もしかして、美味い肉調達に?」
「騎士様がさすがにやらないよね~」
やれやれとやって来て、腰を伸ばしたラキがあっと手を打った。
「そういえば言ってたよね~。騎士様の討伐~」
「知らないよ?! 一体どこ――あっ」
……聞いた。確かに、聞いた。
「おー、これが大規模討伐だったのか! ラッキーだな! これってもう一個の依頼も達成にならねえの?」
お気楽に笑うタクトをよそに、オレはがっくりと項垂れたのだった。
大遅刻!すみません!
予想当たった方はおめでとうございます~(≧▽≦)
もふしら21巻、予約開始しているそうですよ!
そしてアクスタの当たる企画、まだ応募できますからね!!
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