1064 口裏合わせの裏工作
やっぱり、諸々弁解――もとい、口裏合わせをした方がいいよね。
そう、先日のレッサードラゴンの件だ。
オレは、夕暮れ映える美しい町の一角で、こそこそ不審人物になっていた。
一旦の解決だと思ってはいるのだけど、やっぱり良心が痛むので、こうしてやってきている。
内密にやり取りをするなら最適な人物……ではないかもしれないけど、ひとまず『言わないで』って言っておけば、口が裂けても言わないだろう人物のところへ。
「あら、ユータ! ちっとも来てくれないじゃない、王都に滞在してるんでしょう?」
そっと門から顔を覗かせたら、ちょうど庭に出ていたミーナに見つかってしまった。
「う、うん! 依頼を受けたりしてたんだよ」
「お兄ちゃんがうわごとみたいにユータユータって呟いてたから、早く会った方がいいわよ! そのうち生霊になって枕元に立つかも」
「それはすっごく嫌だね?!」
普通に! ぜひ生身で来てほしい!!
「オレも会いたいんだけど、忙しいってことかな?」
「ユータが待ってるって言えば、忙しくないわよ」
どういうこと?! まあとりあえず館には帰って来るようだから、今夜にでも捕まえられれば解決だ。
「じゃあ、夕食を手伝うよ。ミックとお話したいから、遅くまで居座っていてもいい?」
「もちろん! 泊まっていけばいいわ!」
泊まる必要はないけど、と言いかけて口をつぐむ。必要も予定もないけれど、オレは学習している。お腹いっぱいの幸せタイム、夜中にゆったりお話ししていれば、果たしてどうなるのか。
これは、確率と可能性の話だ。
『違うでしょ』
『俺様、確定した話だと思うんだぜ!』
両ほっぺをつつくモモとチュー助に、むっと唇を尖らせる。
そんな風に言うから、実際その通りになっちゃうんだよ! オレは単に、二人が立てたフラグを回収しているだけってことだ。
「――それで、今日の夕食は何の予定? もうきっと作ってるよね」
気を取り直し、ミーナについて館を歩きながら尋ねた。
「ユータが一品追加してくれるなら、大歓迎だけど? むしろデザート担当はどう?」
期待に満ちた視線を受け、それなら、と頷いた。
「ちょっとコッテリ系のデザートでも、みんな若いから食べられるかな?」
「若いって……ユータの方が若くない?」
「そ、そうかもしれないけど! 相対的な話じゃなくって! 一般論!!」
慌てて取り繕って、脳内レシピを検索する。
「唐揚げを作ってるから、油がたくさんあるかなと思って。揚げ物系のデザートは重すぎる?」
「全然! 基本的にここは孤児中心の施設なんだから、食事は質素寄りよ、当然大歓迎よ!」
質素、なんて言ったら本物の質素が怒鳴り込んで来そう、とは思うけれど。でも、さすがに贅沢ではないよね。だったら、食後にドーナツの暴挙も、許されるだろうか。
作るならカンタンな方がいいだろう。でも、見栄えも多少は……なんて考えていたら、ミーナがもじもじしている。
「あの……それ、お店に出したりは……? もちろん、売り上げの何割かはユータへ渡すから!」
まだ食べてもいないのに、もうそんなことを言っているミーナにくすりと笑う。
「もちろん! そのために揚げる系にするんだから。どっちかというと、みんなが食べるのにいいかなと思ったんだけどね」
さすがに、唐揚げをしている油でデザートは嫌だろう。でも、油は古くなりやすいから、未使用でもお店に出せないものなんかが出てくるんじゃないかと思って。
だけど、そうか……お店で出せる、唐揚げ以外のレシピも渡した方がいいのかな。
「とは言え……唐揚げとセットだと、やっぱりポテトしか浮かばないんだけど?!」
「ポテトって、ロクサレンから伝わってる、あの薄いヤツ? あれも、油で作れるの?!」
キラっとミーナの目が光った。
あ、それもロクサレン発みたいになってる感じ……? 揚げるって工程がそもそも珍しいもんね。
「そう、お芋を揚げたやつ。ポテトチップスもそうだし、ポテトフライもあるよ。どっちもお酒とは合いそうだね」
「あれ、お芋だったの?! 信じられない!」
どうやら、オレの役目はポテト係とドーナツ係になりそうだ。終わったら、寝る前にお風呂に入った方がよさそう……油たっぷりでお顔がぺかぺかしてそうだ。
姿を見せた途端、歓声を上げた厨房の子どもたちにくすくす笑って、エプロンを取り出した。
よし、期待に応えられるよう頑張ろう。
……あと、差し入れ分も作った方がいいだろうし。
これは……結構な量が必要だ。むしろ、オレがみんなに手伝ってもらった方がいいかも。
レシピは、そのお礼ということで。
そう結論付けて、にっこり笑った。
「――美味しい?」
苦笑しながら、その幸せそうな顔を見上げた。
「美味い。最高だ」
「お兄ちゃん……ちょっと恥ずかしいんだけど……。あと私に代わって」
もうしっかり大人に見えるミックが、手づからお菓子を食べている様は、子どもたちの前でどうなのかと思ったのだけど……とりあえず本人は気にしていない。
「ミーナは自分で食べてるじゃない」
「ユータがあーんしてくれるって知ってたなら、私もそうしたわよ!」
むくれたミーナがかわいい。そんな大きくなっても、まだまだ甘えたいんだろうか。ミックは、オレのデザートを見つめるばかりで食べないから、半分無理やり食べさせているだけだ。
ちなみに、ミックが帰って来てから、オレを発見しての大騒動は割愛する。
つい先日も会ったよね?! 段々ミックがマリーさん化している気がしてならない。さすがにアレほどとは言わないけど。
「じゃあミーナもどうぞ!」
「うん! えへへ、嬉しいな」
彼女はほんのり照れ臭そうに、サクっと揚げクッキーを齧って、にこにこしている。
今日のデザートは、試作を兼ねて、ちび丸ドーナツ、揚げクッキー、ラスク風揚げパンを作ってみた。
お店に出すにしても、いきなり全部はできないからどれかを選んでね、と言ってあるのだけど……さっきから子どもたちの議論が紛糾している。平和的に解決することを祈るのみだ。
不服そうにミーナを見ていたミックが、ぐっとオレを覗き込む。
「ところで、ユータは私に話があったんだろう? 部屋へ行こうか」
「もういいの?」
「よくはないが、それよりも大事なことがある」
そ、そう。まあオレの収納にもデザートは入ってるから、お部屋でこっそり食べようか。
内密のお話だから、とミーナに耳打ちして、二人してミックの部屋へ引っ込んだ。
「ミックの部屋……スッキリ、してるね……」
人が住んでいる気配は、ベッドにしかない。むしろ、空き部屋にベッドがあるくらいの勢いだ。
「いや、その、ここへは寝に帰るだけだから……」
大汗をかいて誤魔化し、ミックが話を急かすので、オレもほんのり視線をうろつかせながら口を開いた。
「あの……先日のことで」
「ユータと会った時のことだな」
うん、そうなんだけど。オレと会ったよりも色々衝撃的なことはあった気がする。
「オレたちが邪魔しちゃったかと思って。レッサードラゴンを狩るための、大規模討伐だったんでしょう? だから、もし必要だったら……獲ったやつを渡そうと思って……」
断腸の思いで、そう告げる。
オレたちだって必要だけど……でも! さすがに横取りはいただけない。
キョトンとしたミックが、ははっと笑ってオレの頭を撫でた。
「いやいや、助かったよ。私たちは森の中中心に狩っていたからね。ちゃんと獲物としては確保しているよ。外の大型は、そもそも縄張りに入らなければ被害がないのだから、1、2頭間引けばいいかと思っていたくらいで」
やっぱり、それで合ってたのか。
シュランさんが言っていた内容と相違ないことに、ホッと安堵した。
一応、シュランさんに報告と相談したのだけど、腹を抱えて笑われた。そして、元々の依頼も放置されるだろう大型を狩ってほしいというものだったらしい。
騎士の大規模討伐に合わせて狩れば、万が一があっても騎士に助けてもらえる、という魂胆らしい。
だけど、その依頼達成にはお肉を差し出さなきゃいけなかったので、即座に断った。
「じゃあ、騎士様たちもお肉はいっぱい入手できたんだね?」
「ああ、レッサードラゴンは美味いからな。ユータの菓子や飯まで手に入って、ローレイ様は上機嫌だったぞ」
うん、安上がり。お貴族様の騎士隊長なのに、なぜ……。
じゃあ、この新たなる差し入れでとどめをさしておけば、間違いないはず。
「それなら、また挨拶に行っても大丈夫だよね! オレ、行ったら捕まっちゃうなんてことないよね!」
「もちろんだ。捕まりはするかもしれないが」
「えっ?! ローレイ様に?」
「私に」
がくり、と思わず力が抜けた。真剣な顔で言わないで?
ミックは、いつでもミックなので、まあいい。お城には、もっとオレが捕まりそうな人もいるし。
先にそちらへ持って行かなくては、また暴れられても困る。
すっかり安心したオレは、他愛ない話をしながら、くすっと笑ったのだった。
活動報告に、各代表キャラからのありがとうコメント書いてます!
ぜひご覧ください~!
更新日忘れるので、もう全部固定にしようかなと思ったり。
もふしら:月金
選書魔法:火土 ←間違って書いてました!木じゃなくて土!!
デジドラ:日
あたりで考えてます。






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/