1061 それでよし
ぱちっと開けた視界の中に、覚えのない高い天井……ああ。
大きなあくびを零しながら、既に姿のない二人を探して魔王城の中を歩いた。
どうせタクトは鍛錬かなと思っていたけれど、微かに聞こえた声。
「なあ……崩れねえ?」
「そのために、タクトを側に置いてるんだけど~?」
「いや俺が言ってんのはさ、お前の安全じゃなくてな?!」
「ユータは何とかなるでしょ~」
「ユータはな?!」
寝ていたらどうにもできないと思うよ?! 多分モモとシロ辺りがなんとかしてくれると信じているけれど。
顔を覗かせると、魔王城一階の壁を掘っているラキがいた。
見回してみれば、そこここに掘り返された跡がある。砂だからね……乾いて来たら結構掘りやすいかも。
「おはよう! 何してるの?」
「おう、もうすぐ昼だけどな!」
「おはよ~。それが、結構保水石が出て来てさ~! 建材に使えるような大きさじゃないから、価値としては低いだろうけども~」
ほら、とまさに掘り出されたものは、カロルス様の手の平くらいある灰青色の石。
ごく普通の石に見えるけど……? 受け取ったそれを、ラキがスコップでコツンと叩いた。
「わ、ホントだ!」
じわっとどこからともなく溢れて来た水が、ぽたりと石から滴った。
面白い……。カツンコツンと叩いていると、足元に水たまりができ始める。
「おいユータ、大丈夫なのか、アレ」
えっと顔を上げて視線の先を追うと、ちょうど壁に穴が空いたところだった。
「わ~結構大きい~。せっかくだから、ある程度集めたいよね~」
ふう、なんてキラキラした汗を拭う背後で、サラサラ壁が崩れていくのが見える。
「ちょっとラキ?!」
確かに砂山に戻すつもりではいたんだけどね?! それはオレたちが立ち去った後の話で!
「うわわわ?! 脱出! 脱出するよ?!」
「いいけど……あいつらは?」
まだ保水石を探しているラキを小脇に抱え、タクトが上を見上げた。
あいつら……? ああっ?!
「もしかしてまだ寝てるの?! 呑気だね?!」
『主に言われたくないんだぜ……』
『そりゃあねえ、死の淵から舞い戻ったかと思えば極限の緊張感だもの。まんじりともせずに夜が明けちゃったものねえ。そんな時に満腹になったら、コロッといっちゃうのも無理ないわ』
『みんな、明るくなってから急いでごはん食べてたよ! 暗かったから嫌だったのかな?』
起き抜けでたっぷり食べて、また寝ちゃったんだろうか。何にせよ、お腹いっぱい食べて眠れるならいいことだけれど。
「えっと、えっと、どうしようかな?! どうせなら起こさずにオレたちと顔を合わせないままの方が、色々誤魔化せていいかも!」
「砂の中に、証拠隠滅だね~?」
「あ、あいつら埋めんの……?!」
そんなわけないよね?! おずおず尋ねたタクトの耳と尻尾が垂れている。そこで意味深に笑うラキが怖い。
「とりあえず! モモお願い! オレはひとまずあの人たちのところだけ支えるから!」
『はいはい』
オレの方は床に手を着いて、ちょうどベッド下あたりを一気に盛り上げて支えた。
壁をサラサラ落ちていく砂が、ふいにごそりと大きく落ちて、二階部分が一部の支えを失った。
「うわっ……一気に来るな?!」
「ああ~また埋もれちゃう~」
残念そうなラキの声をバックに、ほとんど音もなくあちこちに穴が空き始めた城が崩壊していく。
健やかに眠っているだろう冒険者さんたちを起こさないよう、振動ひとつ伝わらないよう、オレは彼らの一室だけを柱に乗っけて静かに支え続けた。
*****
「――はっ?!」
気配に飛び起きた瞬間、身構えて睨みつける。
大方死体だとでも思ったんだろう、私が飛び起きたことに驚き、魔物は素早く森の中へ逃げ帰って行った。
息を吐いてしばし、周囲を見回して絶句。
「まぶし……何ぃ?」
「んーまだ腹いっぱい――え?!」
目をしょぼつかせながら起き上がった二人が、目を瞬かせて固まっている。
「なあ……私らって一体何してた?」
剣を収め、神妙な顔で二人と視線を合わせる。幻覚、の類だろうか……?
「夢? どこから? リザーヴェスの巣に突入したよな?! 倒したよな?!」
「えっと、その後何もかもが崩れ始めて……突然ガンッて意識が途切れたのよ」
頷き合う3人は、記憶に相違ないことに安堵した。そして。
「あの、さ。あたしの記憶……その後わけわかんない状況になっちゃって」
「奇遇だな、私もだ」
「ちょっと待って?! 本当にわけわかんないんだけど?! みるみるお城が出来上がる中で目が覚めて……すごいご馳走が並んでいて」
3人が頭を抱えた。合ってる。全員の記憶が一致している。
「小さいシルエットだった……声も、幼かったと思うんだが」
「あたしだって必死で目ぇ瞑ってたもん! わかんないけど……小さい魔族なのかなって」
「で、でもさ……結局これ、どういうことなの? やっぱり夢だった?」
沈黙が落ちる。
剣士は、砂山の上で、薄気味わるそうにサラサラ零れ落ちる砂を手の平に遊ばせた。
「多分……ボス戦までの記憶は本物で。その後崩壊に伴って記憶が混乱したのかもしれない」
「混乱しすぎじゃね?! あ! もしかして拾った回復薬のせいか?」
ハッと顔を見合わせた3人が、ようやく納得できそうな理由を見つけて力を抜いた。
「成分が変化して、幻覚作用が出た……なんてところか」
薄々、気付いていたけれど。でも、誰もそのことには触れない。
ただ、無意識にいまだ満たされている腹をさすった。
「依頼は、失敗かな。こんなに崩れちゃったら、珠餌もめちゃくちゃよね」
溜め息を吐いて、それでもちっとも惜しくはない。なんせ、命は拾った。
「そういや、アレは……? アレも幻覚の一種だったか?」
「アレ? あ……そうか!」
何か言いたげに、珠餌のすぐそばに現れた光。確かに、その中に見た人影。
「小さかった、よね。もしかして……魔族じゃなくて」
こくり、と喉が鳴った。
「まさか、私らを助けるために? ここは危険だと言っていたのか……」
無意識に握ったのは、揃いのお守り。
「助けてくれた……のか? あたしら、もう子どもじゃないのにさ」
「ううん。そうじゃないよ、きっと」
魔法使いが目尻を拭って、空を見上げた。
「私たちじゃなくって、あの子たちのために」
「そうか、そうだな……。馬鹿だった。私らがいなくなったらどうなるか。もっと考えるべきだった」
「一発当てて、楽させてやりたかったんだけどなぁ」
3人は、それきり黙って、お守りを握りしめた。
*****
……ど、どうしよう。
なんか、すごくいい感じにまとめられちゃっている。
しかも、それ、天使教のお守りでしょ?! そうかあ……王都の冒険者だもんね。お守り的には風か天使が二大勢力になっているもの。二分の一で天使信者を引いてしまった。
崩落に巻き込まれた末の混乱だったのかな、なんて。そう思ってもらえると思ったのに。
『さすがに無理があるのよ』
『でも現実も結構無理があるんだぜ』
思惑とは違う方向へ行ってしまって焦ったけれど、もうこうなれば仕方ない。全ては天使様のせい、それでいいか!
あとは、みんなが無事に帰り着くまで見守るだけ。
それで、孤児院の子たちも大喜びするだろう。孤児院出のBランク、それだけで彼女らには価値があるのだから。
やがて立ち上がった彼女らが、砂まみれになった身体を払った。
「さて……身ひとつしかないが、幸い十分すぎるほど健康だ。なんとかなる、だろう」
「今なら、走って帰れそうな気がしちゃう」
「イケるだろ! もう帰るだけ――うん?」
え、まだ何か?! と慌てて木陰から顔を覗かせると、斥候の人が首を傾げて砂山の一角を見ている。
「……なんで」
うわごとのようにそう呟いて、ふらふらそこへ駆け寄って膝をつく。訝しげにした二人も、そこへ歩み寄った。
オレも首を傾げてまじまじ観察して――あやうく声を上げるところだった。
「これ、まさか?!」
「ああ、ああ! 天使様、ありがとうございます……!!」
泣き崩れた魔法使いさんの声が、静かな周囲に小さく広がっていく。
「あーあ、しょうがねえな」
「そう言えば、あったね~」
2人がオレの後ろで苦笑した。
「わ、忘れてた……!! 珠餌……!」
がっくり肩を落として、せっかく崩落から守ったのに放置していた珠餌を思う。
ま、まあいいか。オレたちの分は確保したし。それに、間違いなくあれは、彼女らが見つけたものになったもの。
「それこそ、天使様のお導き、なのかもね」
そういうことにしておこう! オレはそう笑って伸びをしたのだった。
お待たせしました!
とりあえず確定申告と第一第二の締め切りやら何やらを片付けたので、なるべくペース戻していきます!!
もふしら更新滞っている時は、『選書魔法』と『デジドラ』も結構読み応えある文字量になってきましたので、そちらも読んでいただけると嬉しいです~!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/