1060 哀れなる生贄
『ゆーた! ごめんね、危ないと思ったから大急ぎでね――』
シロの声がする。ぺろり、と頬を舐めた感覚も。
でも、でもね、今はちょっとお話できそうになくてね?!
せめて完全に埋まってから話してくれる?!
『それはそれで、どうなのよ』
『ぎゃああーーー俺様地面の下は嫌ぁ!!』
『おやぶ、大丈夫よ。あうじとあえはがついてるからね』
「嘘だろ?! どーーすんだよこの後?!」
「シールド張ってるよね~?! 僕、埋まったら死んじゃうんだけど~!」
……土砂と一緒にもみくちゃになりながら、なんかみんな余裕だな。
『スオー、よく生き埋まるからと思う』
『経験豊富、だからな?』
好きで生き埋まってるわけじゃないんだけど!
そういえばつい先日も……なんて考えている間に、落下は止まった。
――ユータ、すごいの! お山がじょわわ~ってしぼんだの!
はしゃぐラピスの声が聞こえる。
そうだね、まさにそのお山の中にオレはいるんだけどね。
まるで栓を抜いたような山の崩壊は、あっと言う間にオレたちを暗闇に閉じ込めた。
ここまで崩れてしまえば、あのボスリザーヴェスも出て来られないのでは。
「なんか、まだ足元が頼りねえ気がする」
「ラキは? ちゃんといる?」
「いるよ~。タクトの右腕~」
良かった、みんな無事だね。ちなみにオレはタクトの左腕。
小さなライトを浮かべると、やれやれと腕が緩んだ。
思ったより広いシールド内を不思議に思ったところで、シロが鼻を鳴らしてすり寄って来た。
『ねえゆーた、大丈夫かな? あの人たち』
「大丈夫って、何……あれ?! 本当だ、どうして倒れてるの?」
折り重なるように倒れ伏した3人は、完全に意識がないよう。シロが慌ててないから、命に別状はないのだろうけど……。
そういえばさっき、シロが何か――。
『あのね、ぼく背中に乗せて走るのじゃ間に合わないと思って。それでね、そっとゆーたたちの方に弾き飛ばしたんだけど……』
そっか、把握した。フェンリルの高速体当たりをもろに食らっちゃったんだね。
一応、剣士さんを狙って弾いたらしいけれど。
「えっと……気を失ってはいるけど、さすがBランクだね。大丈夫だよ、ありがとう」
でも一応回復はしておこうかな。
「この状況だし~意識がない方がありがたいね~」
「けどさ、俺らもどうする? これ、砂だろ? フツーの山みたいに穴あけて脱出できなくねえ?」
多分、世間一般では普通の山も穴を開けて脱出はできないとは思う。
「うーん。サイクロンソージキーで砂を吸い取る……? でも山1つ分を吸い上げるのはさすがに無理があるかな。捨てる場所にも困るし」
「そういう問題なのか……?」
「土魔法で砂を除けられないの~?」
……ラキが遠い。四つ這いになってガサゴソしている所を見るに、絶対この機会に鉱石素材を探してるでしょう。
「できなくはないけど、除けても除けても上から崩れてくるよね。全体を一気に動かさないといけないかな……」
でも、あんまりゆっくり考えていたら冒険者さんたちが目を覚ますかもしれない。
――ラピス、全部吹っ飛ばしてあげるの! 簡単なの!
待ってラピス?! 簡単だけどね、オレたちも吹っ飛ばされるからね?!
――それは意外な盲点だったの。
よかった、気付いてくれて嬉しいよ。
胸をなでおろして、さらなるタイムリミットに焦りが浮かぶ。彼らが起きるより先に、ラピスの親切心が発動しそう。
仕方ない、力業でいこう。ラ・エンの加護をもつオレなら、問題なくできるだろう。
「じゃあ……ガッツリやるよ? 全体を動かすから、シロに乗っていて! タクト、あの人たちをお願い!」
「おう!」
「了解~」
ふう、と息を吐いて地面に手を着いた。
まずは、一帯にオレの魔力を馴染ませてしまう。その方が、自在に操作できるから。
慣れた土魔法といえど、中々の消費になるだろうな。でも、もう夕ごはんを食べて寝るだけだし……。
そんなことを考えてしまって、抜けていく魔力と共にお腹が鳴った。
ああ、たくさん魔力を使うとお腹はすくし眠くなるし、これが終わったらすぐにでも休みたい。
「いくよっ! せーーの!!」
ふんっ、と気合いを入れて砂をかき混ぜる。この……半端な水分量がネック!
いっそのこと、全部に均等に!
「なんか……あいつ、何やってんだ?」
「どうせまた、余計なことだよ~」
聞こえてるからね?! オレ、頑張ってるんだけど?!
「よいっしょおぉお!!」
ぶわり、髪が浮かぶほどの魔力を込めて。
気合一発、一気に砂の山を掻き分けていく。
何度かやったことがあるから。形だけなら簡単だ。
だって、オレはすぐに休みたい。
あの冒険者さんたちだって、休む場所がいるだろう。
全ての効率を、ここに――込める!!
『だから……そういうのを余計なことって言うのよ』
そんな、モモの諦観にも似た呟きが聞こえた気がした。
「……すげー。見事に余計な事だな」
「だよね~。想定の範囲内というか、範囲外が想定内っていうか~」
――ラピス、これ見たことあるの! もっとちっちゃいの見たの!
そう……だったね。
はしゃぐラピスを前に、オレは少しばかり反省していた。
そうだよね……欲求の赴くままに行動すると、人間ろくなことはない。
『スオー、大きなくくりで語るのはよくないと思う』
『人間に謝れ』
辛辣組に手酷く突っ込まれながら、誤魔化しの笑みを浮かべた。
「ちょ、ちょっと派手になったけど、ここならテントなしで眠れるでしょう?」
サンドアートよろしく、奥深い森の中に忽然と出現した魔王城。その一室で、オレたちは優雅に寛いでいた。だって……イメージしやすいんだもの! そして二回目ともなると、どうしたって1回目よりも出来を良くしたくなるものでしょう?!
もちろん、以前と違って布団類も完備している。ただ、お風呂はないけど。
「まあ……いいんじゃね? いつものことだし。けどこれ、砂だろ? 崩れねえの?」
「造形が色々気になるんだけど~!」
「オレの魔力を通わせて、結構ぎゅうっと押し固めてあるから。しばらくは大丈夫」
うずうずしているラキは、そっとしておこう。どうせ、出発したらただの砂に戻っていただくし。
そう、オレは証拠を残したりしない。今回は!
「とりあえず、オレ疲れたんだけど! 出来合いのものでいいよね?!」
「異議なし!」
「出来合いって、ユータが作ったやつでしょ~?」
そうだけど。どっちかと言うと作り置きかな。
適当に色んなものを取り出して山積みにしておけば、きっと腹を減らしたタクトに起こされることもない。
既にうつら……としかかるオレは、慌てて口の中のパンを飲み込んだ。
ちら、とキングサイズベッドに横たえた3人を見やる。
「身体は大丈夫なはずなんだけど……起きないね。お食事、どうしようか」
「そうだね~。多分、僕たちは早く寝た方がいいんじゃないかな~?」
「そっとしておいてやれよ……。飯は、近くに置いときゃいいって」
なんか二人とも冷たくない?
とは言え、異常があるわけでなし、もしかしてオレみたいに疲れて寝ているのかもしれない。
そっと3人のそばへ食事をお供えして、オレも早々にベッドへ潜り込むことにした。
『しっ! まだだ……まだ目ぇ開けるなよ? 諦めるな、きっとチャンスはある!』
『も、もし、意識があることがバレたら……どうなるの?!』
『分からない……あいつらの目的も、何も。魔族なのか? さすがに食われはしないよな?!』
階下でピピッと耳を動かしたシロは、大丈夫だよ、と寝転がった。
こっそり食べようとしなくても、ちゃんとごはんは用意してあるのに。
だけど、恥ずかしいのかもしれないし。
せっかく寝たふりをしてまで、ご飯を我慢しているのだ。3人だけでゆっくり食べるといいよ。
そうにっこりして、シロも大きなあくびをしたのだった。






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