↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りせた。小噺 ~温度差で風邪ひくエッセイ集~  作者: りせた。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/143

魔都『TOKYO魔血打死』



 少し、昔ばなしをしよう。


 あれは、筆者が営業の仕事を始めて、すぐの頃だった。

 上司の出張に同行し、実地で学ぶ……ということで、関東方面に二泊三日、出張となった。


 メンバーは、三人。次長、課長、そして筆者である。

 場所は、千葉方面と、東京町田。

 

 筆者は、入社してすぐ、東京での展示会に三泊四日で参加したが。普段の出張業務は、これが初めてだった。


 社用車で、何時間も掛けて走った。

『運転は、新人の仕事だ』と言われ、まだ長距離運転には慣れていなかったが……何も言わずに、呑んだ。


 運転の交代は、当然ない。

 昼食をゆっくり摂るような時間も、なかった。


 次長と課長は、次々に鳴る電話を、対応したりしなかったり。自語りを始めたり、説教を始めたり。寝たり起きたりしていた。

 

 そんな車中で、夜は三人でちゃんと食べに行く……ということになった。


 その日は、翌日に町田で仕事ということで、町田のホテルに宿泊することになっていた。

 夕刻、千葉での仕事を終え、Googleマップを開いた。ホテル名を入力する。筆者はもう既に、夕飯など、どうでもよかった。そんなことより、早く部屋で独り休みたい気分だった。……が。そういうわけにもいかないのだった。


 夜。

 ようやく、町田に到着した。疲労困憊ではあったが、そうも言えない。叱責される未来しか見えないからだ。

 笑顔を貼り付けながら、社用車を駐車場に止めて、繁華街へと繰り出した。


「何食う?」


 課長が慣れた様子で足早に進んでいく。


「んー。どこがやってるかなー」


 次長が、課長の隣まで進みながら、街並みを見渡していた。

 広くもないが、狭くもない、色とりどりの灯りが闇に浮かぶ、雑多な通りだった。平日の夜——21時も回る頃だというのに、人通りは多い。

 ——都会だなぁ。

 そう、思った。


「りせた。君はどう? なんか食いたいもんある?」


 ふと、課長が振り返った。


「いやー。初めての街なんで、何があるんだか分かんないっすねー」


 ……部屋で独りカップラーメン啜る感じで、十分。もう、お腹いっぱいだ。


「おー。そういえば初めての出張だったなー。どうだった?」


 どう、と言われても。

 まだ、運転が大変だったってぐらいしか分らんのだが。今日は商談っていうよりは、フォロー訪問って感じだったしな……。そもそも、アンタら二人、言うことかなり食い違ってるしな……。どっちが正解なのか、全然わからんぞ……?

 ——などとは、言えるわけもなく。


「いやぁ、大変っすね。お二人とも、しっかりやられていて、すごいっす。担当顧客からも、電話すごいあるし。ちゃんとそんなふうになれるかなぁ……って感じですかね」


 なるべく、無難な回答に徹した。


「そっかそっか。まぁ、じゃあ店入ったらもうちょっと色々教えてやるよ。で、どこ行きたい?」


 だから、この街は初めてなんだっての。と、思った時。名案が閃いた。


「じゃあ、一周くるっと回ってみて、よさそうなところ入りましょ?」


「まぁ、そうするか。そんなに広くないし」


 名案……でもなんでもなかった。だが、ただの時間稼ぎでしかないその意見で、何とか二人は納得したような素振りを見せた。

 と、思ったのも束の間。次長は、腹が減ったのか、疲れているのか。不機嫌そうな、硬い顔をしていた。


 しかし。

(はぁ……。めんどくさー……)

 という言葉と溜息は、心の中に封じ込めるのみである。再び歩き出した二人の後を、素直な振りをしながら、ついて行くしかないのだ。


 そんな会話をしてから、少し進んだところだった。


 ——バァン!


「待てやコラァ!!」


「すんません! すんません!」


 引き戸が勢いよく開けられたらしい音のあとに、間髪入れず怒号と悲鳴が聴こえた。通りの中ほどだろうか。進む方向からだった。


 ——ダダダダッ!


 足音が、多かった。


「ボケがコラ! 誰に口利いとんじゃ!」


 ——ドガッ!


 見れば、居酒屋の店員らしき人物が、六人ほどのチンピラに囲まれて、蹴り倒されたところだった。ズザザッと擦り傷でも出来そうな音をさせて、地面を少し滑って、建物の壁に……ドンッと、ぶつかり、止まった。


 ——パカァン! パカァン!


「オラァ! ボケコラァ!」


「かっ……勘弁してください……!」


 叫び散らかしているチンピラは、どこから出したのか、角材で店員の顔面を野球のボールのごとくノックしだした。


 だが、その横を、誰も気にも留めないようにして歩き過ぎていく。

 カメラを構える者もいない。通報する素振りをする者もいない。

 ただ、歩いていく。談笑などをしながら。


 店員の顔は、みるみる膨れ上がっていた。……じゃがいもにケチャップだ。

 飛び散った朱が、パタタッと地面を濡らしていく。


 次長も課長も、そちらを見もしていなかった。繁華街の奥へと、どんどんと進んでいってしまう。

 筆者も、視線を戻すと、その後をついて歩いた。


 悲鳴と怒号が、遠ざかる。


 ……なるほど。

 これが、東京の日常の光景か。助け合いのない、弱肉強食の世界……。中々に過酷そうだ。まさに、魔都だな。狂気の街だ。


 そう、思った。



「店、この辺までだぞ?」


 繁華街の、端まで来たところで、課長の足が止まった。


「あ、そうなんすね。じゃあ戻りますか?」


「何でもいいから、早く決めてくれ」


 次長が、目付き鋭くボソリと呟いた。

 いや、新人の意見で店決めるって、中々のハードルだぞ。

 どうせ気に入らんかったら文句言うクセに……。


「じゃ、戻りながら決めるかー」


 課長は、あまり気にしていないようだった。踵を返し、先導していく。

 次長は、大きな溜息を吐いた。

 いや、溜息吐きたいのは、こちらですがねぇ……。

 何でもいいってんなら、サッと決めてくれたらよかったろうに。


 しばらく進むと。

 雑踏の中に、何かが聴こえた。


 ——パカァン! パカァン! バキッ! ……カンカランッ……。


 そして、見えた。

 角材が、折れて乾いた音を立てながら、転がっていった。


「ボケがコラァ!」


「……ううっ……すんま……せん……」



 ……………………。


 まだ、やってた……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。