少し昔ばなしをしようかな [少年、空に舞う]
やっほー。みんなー。
りせた。だよー。
元気してるー?
学生さんは勉強に、社会人さんはお仕事に、励んでいますかー?
筆者は……サクラチル——。
はらはらと、空に舞って——綺麗だなー……。
じゃあないんだよ。
何社落ちてんだ。なんこれ? って感じだわ。ふぁ〇く。
あー……。飛びたいわー。あいきゃんふらい。
こんなもんなんざ、競馬場に舞い散るハズレ馬券だわ。競馬場、行ったことないけどさ。
ギャンブル嫌いだしな。
……え?
起業もギャンブルみたいなもんだろって?
だからだよ。
これ以上、余計な失敗は増やしたくないのよ!
あーあ。
昔はよかったなぁー……。
って言えるようなこと、なかったわ。
失敗しかない人生だったわ。HAHAHA!
でもまぁ、こんな時ってさ。ちょっと昔を思い出したりするよねぇ。
それが、良い悪い関係なく、さ……。
——あれは、小学校に入学してすぐのことだった。
保育園の時に知り合った、近所に住むK (仮) には、お兄ちゃんが居た。4歳年上だった。
筆者は、保育園の時や、幼稚園の時にも、Kの家によく遊びに行っていたため、K兄とも遊んだりしていたのだ。だから、結構仲がよかった。
そうして、小学校に入学して。
登校班というものがあったので、K兄弟とは毎朝一緒に登校することとなったのだ。
「そういえばさー。下の名前、"りせた。"だっけ。じゃあ、"た。っくん"だなー」
ある朝、K兄がそんなことを言い出した。
名前のケツを取るとは。中々変わった感性をしておる。
だが、それは、爆発的に流行った。
当時知り合ったひとたちは全員、筆者をそう呼んだのだった。
同級生も、上級生も。男女問わず、そう呼んだ。
やがて。
た。っくん少年は、K兄の友達とも仲良くなった。
4歳年上の、上級生の、にいちゃんたちである。
「よー。た。っくん。一緒に帰ろうぜー」
「うん」
そんなふうに、誘ってもらうことが多かった。
そして、帰り道に遊びながら帰るのだ。
た。っくん少年は、世界が広がっていく感覚が、楽しかった。
「そういえばさー。た。っくん家って、ウチの近くだっけ?」
ある日誘ってくれた、K兄の友人Xとふたりで歩いていたら、そんなことを訊かれた。
「うん。たぶん、そー」
「おー。そっかー。じゃあさ、違う帰り道教えてやるよー」
「えー? ほんとー?! いくー」
た。っくん少年の通っていた学校は、通学路というものが決められていた。
だがら、いつも決まった道を通って登下校していたのだが……。
なんと、違う道があるのだという。
た。っくん、わくわくした。
もはや、鼻唄でも歌い出しそうな笑顔で、Xの後について歩いた。
いつもと違う、帰り道。
大きな、国道。知らない、お店。地下道、県道。
道端の草すら、新鮮だった。
ぶちっとちぎって、小さな手に持つ。
ぶんぶんと振り回して、るんるんと歩いた。
「家、あっちだろ? おれ、こっちだからー。またなー! あ、独りでこっちの帰り道、使うなよ?」
「うん! わかったー! じゃーねー」
県道を渡り、手を振る。もう、自宅の裏だ。
た。っくん、上機嫌で帰宅した。
それは、た。っくん少年が、独りで帰っている日のことだった。
「あー。きょうはつまんなー……あ!」
——ポンッ
脳に、電流が流れたようだ。あの日の光景が、浮かんできた。
少年は、呼び寄せられるように——
「ちがうみちいこーっと!」
冒険を、始めた。うきうきと、しながら。
冒険は、順調そのものだった。
なんせ、た。っくん少年は、幼稚園児の頃に翼を手に入れて、2キロ先の駅まで走破した少年なのだから。
だが。
その日、母親から粉になりそうな程叱られて以来、すっかりと時間のかかる冒険はしていなかったのだ。
そう。少年は、学習していたのだ。
『冒険に時間をかけては、怒られる』と。
だから、この、『帰り道を変えるだけ』という冒険は、うってつけだったのだ。
蛙がいた。干からびたミミズが落ちていた。野良猫。鯉。背の高い、草。
やっぱり、冒険は新鮮だった。
最後の、県道。
自宅の裏手の道。
細い脇道から、家を見る。
道路は、混んでいた。信号が変わったらしい。車は、止まっている。
少年は、道路の前で、止まった。
左右確認。
——プッ!
短く、大きなクラクション。
運転席を見れば、トラックのおっさんが、いけいけとハンドサインをしていた。
少年は、ぺこっとお辞儀をして、道路を横断し始めた。
トラックの前を通過した。その刹那——。
——グワッ……!
視界の端に、白い、大きな影。
——ドンッ!
ものすごい衝撃を——受けた、気がした。
だが、ふわりふわりとした、浮遊感。
ビル、車、道路。遠ざかる、我が家。
蒼い、空……。
少年は、空に……舞ったのだった。




