思い出した愛
少し昔を思い出した。
それは、こうして文章を書くようになる、遥か以前のこと。
筆者は、おそらく嫌な奴だった。
正確には、自分ではそれが当然だと思う言動をとっていたが。何故か他者からそう言われることが時折あったのだ。
「嫌な奴だな」と。
「捻くれてる」と。
だから、おそらくそうだったのだ……と、思われる。
自分にそんなつもりは、さらさらなかったのだが……。
むしろ、とても真っ直ぐで、素直な若者だったと思う。
そう。自分に。
——そんな頃の、とある日に。知り合いの女性と、『愛』について語っていた。
愛とは何か……と。
そんなもの、所詮は概念だ。ひとそれぞれに解釈は違おう。理解も違おう。
だが、概ね『素晴らしいもの』『尊いもの』などという感覚で語られることが多いかと思う。
その女性も、例に漏れず。愛は素晴らしいものだ……と語っていたのだ。
「愛が欲しいなぁ……」
そして、その女性は、しみじみといった様子で、呟くようにそう漏らした。
「愛って、なんだと思う?」
筆者は、問うた。どういうつもりで発した言葉か、知るために。
「え? 好きよりも強い気持ちじゃない? LikeとLoveの違いみたいなさー」
くるりと視線を向けてきた女性は、少し小首を傾げていた。
「ふーん……。そっか。で、欲しいって、どういうこと?」
「愛されたい〜ってヤツだよ。人肌恋しい季節……的なさぁ〜」
「ほーん……。まだそんな寒くないけど?」
季節は、そろそろ秋に入るか……というところ。まだまだ残暑が続く頃だった。
「もー! 寂しいってことやんかー! なんでわからんのー」
「そっかー。なるほど……。愛ねぇ……。そんなにいいモンなんや?」
「そりゃそうでしょ〜」
何言ってんだコイツ……とでも言いたげに、女性は唇を少し尖らせて、横目にジトッと睨んできた。
だから筆者は、その成功を祈念して。
「ふーん。じゃあ、愛人になれるといいねぇ」
と、言って応援してやったのだ。
「はぁ? 嫌だわそんなん! 何言っとんの!」
「なんでよ? 愛が欲しいんやろ?」
「それを言うなら恋人でしょー?!」
「いや、自分で言っとったやん。愛の方が好きより上なんやろ? そんで、愛が欲しいんやろ? 恋人なら恋やんけ。愛が欲しいんなら愛人やろ」
「……いや、え?! そ、そんなわけないやん」
「読んで字の如くならさ、そうやん? 頑張れ、愛人」
筆者は、ニヤリと微笑んだ。
女性は、嫌よ恋……池の鯉のように、口をパクパクしていた。
餌は、あげなかった。




