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真実の愛? どうぞご自由に。その後は私の知るところではありません。  作者: 茉莉花


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第5話『知らぬ間の略奪』

茶会編第二ラウンドです。

 別室へと移動したカレンは水の入ったコップを受け取るとまずは喉を潤した。



(どういうこと?)


──三週間前、それは自分が求婚された頃だ。



(そんなはず……。だってウィリアム様は……)


 脳内で状況や時系列を整理していく。



(じゃあ、出会った時から……)


(既婚者だったの⁉)


(嘘……、どうして……)



呼吸が浅くなる。



(どうしよう……)


(もしかして、私、──奪ったの?)



 思い返せば公爵邸の人たちに目を合わせてもらえなかった理由がよくわかる。公爵夫人は追い出され、男爵令嬢が婚約者としてやってきたのだ。



(あれは、──軽蔑?)



 相変わらず血の気を失っていた指先が震えだす。コップに残った水の水面が揺らめいた。



(知らなかったとはいえ……、謝らなきゃ!)


(で、でも、誰に?)




 その時、たまたま扉の前を通りかかった婦人が足を止めた。


「あら? あなた顔色が真っ青ですけど、大丈夫かしら?」


 婦人はためらいもなくカレンに声をかけた。部屋に控えていた侍女は一歩下がると、迷いなく婦人に低頭した。


「あ、あの、ちょっと気分が優れなくて……」

「それは大変ね」


 婦人はカレンの側に来ると、空いていたカレンの隣に座り顔を覗き込んだ。


「ちょっと。温かい飲み物を持ってきて頂戴」

「かしこまりました」


 血の気が引き冷えた体に気付いたのか、婦人は慣れた様子で侍女に指示を出していた。


 少しの間、静寂が流れた。




「あなた、噂のご令嬢でしょ?」


 突如切り出された言葉に、カレンはドキリとした。


「う、噂ですか?」


 今思えば、参加者は皆当然のように公爵家の出来事を知っていた。


「ええ。ホワイトフィールド公爵様の真実の愛」


 この婦人も知っているのか。カレンはこみ上げてくる涙をこらえ、思いの丈を打ち明けた。


「し、知らなかったんです。私。ウィリアム様がご結婚されていたなんて……」


「け、決して奪うつもりじゃなかったんです」


「お、奥様がいらっしゃったなんて……」


「わ、私、なんてお詫びしたらいいのか!」




「……」


婦人は口を挟むわけでもなく、静かにカレンの言葉を受け止める。それが今のカレンにはとてもありがたく、今抱えている全ての思いを溢れ出させた。


「ウィリアム様が公爵様だということも知らなくて……」


「婚約したときに知ったんです」


「だから、急にこんな社交にも参加することになって、できる限りのことはしたんです」


「でも、格の違いを実感することばかりで、私にはとても公爵夫人なんて務まらないって思ってしまって……」


 婦人は伏せていた視線を上げ、ちらりとカレンを見た。


「ああ、本当に、前公爵夫人になんてお詫びしたらいいのか……」


「申し訳なくて、申し訳なくて……」



「……」



「私が出会ってしまったせいで……」




 カレンが後悔を口にすると、少しの静寂が訪れた。


 その時間は、やけに長く感じた。




「……、本当にそう思っていらっしゃるの?」


「──え?」


 先ほどまで聞き役に徹していてくれた婦人の言葉に、カレンは一瞬言葉を失った。


「あなた、出会ってしまったせいと仰っているけど、選んだのは公爵様ではなくて?」


「……え?」


「あなたの魅力のせいだとおっしゃりたいの? 愛された自分が悪いの、と?」


「で、でも、ウィリアム様は私と一緒にいたいと、愛してると……」


 ふっと婦人は鼻で笑う。


「とんだ自惚れね……」


「で、ですが! 奥様と別れてから私との愛を選んでくださいました! 次期公爵夫人にと!」


 立ち上がり声を荒げたカレンを冷めた目で見上げた婦人は告げた。



「ああ、その公爵夫人ですけど」


 婦人はすっと目を細めた。そして口元がわずかに歪む。





「それ、私です」





「……え?」



「ですから、その、前ホワイトフィールド公爵夫人が私なのですが?」





 目の前にいる婦人、スカーレットの言葉に、カレンは頭が真っ白になった。


 前公爵夫人の存在を今しがた知ったカレンが、目の前にいる婦人の存在を知るはずもなく、夜会に出席していなかったがために初見となったスカーレットの身分すら知らずにいた。



「でも、まあ、彼の立場も知らずに愛したという貴女の愛は本物なのでしょうね」


 スカーレットの呟きが耳に入ったカレンは息を吹き返した。


「は、はい! だからこそ、ウィリアム様の横に立つのに相応しい公爵夫人になれるように努力します……!」


「その必要はございませんよ」


「……え?」




「あなたが務めることはございませんから」





 立ち尽くすカレンを残したまま、スカーレットは部屋を後にしようと扉まで歩みを進めると、様子を見に来たレッドグレイヴ公爵夫人に出くわした。


「あら、スカーレット様こちらにいらしたの? なかなかお見えにならないから」


「ええ、先にレッドグレイヴ公爵様にご挨拶をしておりましたの。今回たくさんの茶葉を購入いただきましたからそのお礼に」


「貴女の商会は目利きが良いから。今回も評判は上々ですわよ。皆さんも購入されると思いますわ。仕入れを増やしておくことをお勧めするわ」


「いつも夫人にはご協力賜りまして感謝申し上げますわ。私自身が主催ですと、まるで営業をかけているみたいになってしまいますから」


「良いのよ。私の評判も上がるのよ? 新しいものを流行させるのが上手ねって。お互い様なのよ」


「では、私も皆様の感想を伺いに参りますわ」


「ええ。そうしてらっしゃいな。皆さん首を長くしてお待ちよ」



 スカーレットを見送ったレッドグレイヴ公爵夫人は、室内のカレンに目を向けるとその様子を鼻で笑った。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


スカーレット登場回でした。

次回、あの方たちがお戻りになります。

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