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真実の愛? どうぞご自由に。その後は私の知るところではありません。  作者: 茉莉花


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第1話『運命の出会い』

よくある恋が始まります。

「はあっ……、はあ……!」


 荒い呼吸を整えながら、一人の令嬢が薄暗い路地に身を潜めた。


 このところ街では窃盗が相次いでいるとは聞いていたが、その現場を目撃してしまい、犯人に追われていた。


 コツコツと足音が聞こえる。令嬢は呼吸を押し殺す。


(どうしよう……)


 彼女の名はカレン・マリオット、男爵令嬢だ。とはいえ護衛の一人も連れるような身分ではない。得意の刺繍で細々と町の一角に刺繍小物を扱う雑貨屋を営みながら、裕福とは言えない質素な暮らしを送っており、貴族の端くれといったところだ。

 ぎゅっと握りしめた紙袋には購入したばかりの刺繍糸が入っていた。

 

「あっちにいったぞー! 急げ!」


警ら隊が駆けつける声が聞こえた。


(今だわ!)


 カレンは助けを求めるために外へと飛び出した。

 しかし、タイミングが悪かった。物陰には犯人がいて、鉢合わせてしまった。


「ここに逃げてやがったのか。その口、塞いでやる──」


「‼」


 もうだめかと目を伏せたが、カレンには何も起こらない。


(……え?)


「っぐ!」

 漏れ聞こえた声に恐る恐る目を開けると、自分を庇うように立つ警ら隊の制服を着た青年の背中があった。その青年の腕にはナイフが突き刺さっている。それでも青年は一歩も引かずカレンの前に立ち続けていた。


「女性に手をあげるとは感心しないな」


 青年がすっと視線を逸らすと叫んだ。


「確保だー!」


 次の瞬間、他の警ら隊も駆けつけすぐに犯人は抑えられた。他の場所に散らばった犯人の一味も確保され、騒動は落ち着いた。


「だ、大丈夫ですか?」


 カレンは負傷した青年に声をかける。


「ああ。君こそ、怪我は?」


 顔を上げた青年と目が合う。


(……綺麗……)


その瞳は綺麗なブルーで、一瞬にして吸い込まれた。

「は、はい! 私は大丈夫です。でも、あなたのその腕……」


「仕事だからね。気にすることはない」


青年は負傷した腕をかばいながら立ち上がり、なんでもなかったかのように肩をすくめた。




 警ら隊は引き上げていった。カレンをかばってくれた青年、ウィルはこの警ら隊を率いている隊長だという。家まで送るという申し出を断り切れず、道中は横に並んで歩いた。彼の声は穏やかで優しかった。送ってくれたお礼にと傷の手当てを申し出ると、彼は一瞬驚いたのち「助かるよ」と優しく微笑んだ。その甘い見目にカレンはときめいた。これが──始まりだった。


 後日改めてお礼をしたいと約束を取り付けると、それをきっかけにウィルは何度も顔を見せるようになった。


「今日はどんな刺繍をしているんだい?」


 他愛もない話をし、カレンの淹れたお茶を飲んでいく。


 いつしかそれが楽しみになっていき、会える日を待ちわびるようになっていった。

 彼は時々、花や菓子を持ってきた。それだけではなく珍しい生地や糸を差し出してくれることもあった。


(どうして……、こんな貴重なものを?)


 警ら隊に所属するとはいえ彼は全てに洗練されていた。話し方も、立ち振る舞いもまるで高位貴族のようだとも思った。


「君に似合うと思ったんだ」


 そう笑顔で渡されてしまうと、これまで浮かんでいた疑問も飛んでいき、この幸せな時間に浸るようになっていった。


(まるでお姫様みたい……)


 そんな思いが浮かんだかと思えば振り払った。

 でも勘違いなんかではないかもと否定できない自分もいる。


 気が付けば、ウィルを想わない日はなくなった。


 カレンは想いが少しでも届けばと、刺繍したハンカチをプレゼントした。自分ができることはそれくらいだった。




 出会って半年ほど経ったある日のこと。


「どうしたの⁉ こんな高価なもの貰えないわ⁉」


 息を呑んだカレンの前には明らかに場違いなほどの宝石があった。


ウィルは一歩踏み出すと突然カレンの前で跪いた。


「私と結婚してくれないか? カレン」


「──え?」


「君といる時間は癒されるとともに、穏やかで温かい気持ちになれるんだ。そんな毎日をずっと君の側で送りたいと思った」


「で、でも……」


 カレンは躊躇した。


 嬉しいはずなのに、胸の中にはずっと引っかかっていることがある。


(この人は対等にある立場の人なの?)


カレンは宝石とウィルを見比べる。


「私は君が好きだ。君が良い。だめだろうか?」

 迷いなく告げられる。

「……私で、よろしいのですか?」

「当たり前じゃないか」


 ウィルは堂々と自身に満ちた笑みを浮かべている。


「カレン、私の告白、受けてくれるね?」


 自分も彼の側にいたい。


「はい!」


 溢れる思いはもう止められなかった。カレンは覚悟を決めた。


「私も貴方が好きです!」


 カレンは一歩踏み出した。




 後日、マリオット邸に一台の馬車が止まった。

 それは、この屋敷には不釣り合いなほど豪華な馬車だった。金の装飾が施された車体に、頑丈で大きな車輪、家門の紋章もきらびやかだった。心なしか御者の服装すら華やかだ。


(……え?)


「ウィル?」


 カレンは目を見開いた。

 中から降りてきたのは、上質な衣装を着こなしたウィルだった。

 いつもの穏やかさはなく、背筋も伸びて引き締まった顔つきをしており、従者からは旦那様と呼ばれていた。

 カレンの胸はざわついた。


 応接室に案内すると、落ち着いた所作で席に着く。いつも談笑していた時とは変わって、近づきにくい雰囲気の漂うウィルがそこにいた。


「婚約期間中も我が屋敷で過ごしてもらいたいと考えている」


 淡々と話す様子に、空気が張り詰めていく。


「今日、このままお連れしても構わないか?」


 書類に目を通し終え署名をしようとしているマリオット男爵の手元は震えていた。


「ほ、本当にうちの娘でよろしいのでしょうか?」


 慎重に言葉を選んでいる父の様子から緊張感が伝わった。

 そして、ごくりと唾を飲み込むと続けた。


「ホワイトフィールド公爵様……」


「……え?」


 父の口から告げられた家名にカレンは驚愕した。

 理解がなかなか追いつかない。


「こ、公爵様……⁉」


やっと絞り出した声は震えていた。

 

「ああ、改めて名乗ろう」


 ウィルは服を軽くつまみ整えると告げた。



「私はホワイトフィールド公爵家当主、ウィリアム・ホワイトフィールドだ」



 その瞬間、カレンの中の違和感がすべてつながった。

 カレンは言葉を発することもなく、彼を見つめることしかできなかった。


 こうして、カレンはウィルと名乗っていた青年、ウィリアム・ホワイトフィールド公爵の婚約者となった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


運命が動き出しました。


続きが気になった方はぜひブックマークをお願いします。

次回、公爵家での生活。どうなることでしょう。

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