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真実の愛? どうぞご自由に。その後は私の知るところではありません。  作者: 茉莉花


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プロローグ『真実の愛』

プロローグです。

すべてはここから始まります。

 ホワイトフィールド邸のとある一室、公爵夫人は夫を前にして開いた口が塞がらずにいた。


「今、なんとおっしゃいました?」

「もう一度言う、……私と離縁してくれ、スカーレット」


 ホワイトフィールド公爵夫人のスカーレットは、夫ウィリアムから告げられた言葉に驚きを通り越して呆れてしまった。


「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 ウィリアムは前のめりに座り直すと、目を輝かせた。


「好きな人ができたんだ。」

「好きな人?」

「彼女は純粋で頑張り屋で素晴らしい女性だ。健気に家族に尽くし、商いも営んでいる。一生懸命な姿が私には眩しくて輝いている。話をしていても苦じゃなくて、癒しや安らぎを感じる。私はこんな経験をしたことがない──これが真実の愛なんだろう」


 堂々と妻に好きな人はどれだけ素晴らしいか語る夫がどこにいるだろうか。いや、ここに存在する。


「私と話をすることは苦なのですか」

「あ、いや、そういうわけでは」


 ウィリアムは失言だったと慌てた。ここでスカーレットの機嫌を害すわけにはいかない。


「まあ、好きな人がいらっしゃるのは仕方のないことでしょう。好きになるという気持ちを止めることはできないでしょうから」

「そ、そうなんだ」


 ウィリアムはコクコクと頷いた。


「とはいえ妻に堂々と好きな人がいると告げるのもどうかと思いますが、そのことについては百歩譲ったとして、離縁とはどういうことでしょうか?」

「彼女の側にいたいんだ。妻にしたい」


 スカーレットはチラリと視線を上げる。


「愛人ではなく正妻にしたいと?」

「あ、愛人だと⁉ 君はなんてふざけたことを! カレンにそんな汚らわしいことなんてさせられない! だからこうして君に離縁を申し出ているのではないか!」


 公爵という立場上、いや貴族紳士の愛人の一人や二人くらい騒ぎ立てることなく見逃すのが夫人らの中でも通説であるが、それは貴族の結婚が恋愛によるものではないことが大きい。恋愛は外でしても仕方のないことだとされているからだ。ウィリアムの様子からも浮気などではなく本気なのだろう。


「貴方、貴族の結婚をなんだと思っているの?」

「彼女には誠実でありたい。だからこそ、君との関係を解消してから彼女との関係を進めたい。彼女は男爵令嬢だし、貴族だから問題ない。公爵夫人になるだけだ」


「……そう」


スカーレットの視線はさらに冷めたものへと変わった。


「私に対する誠実さは不要ということね。私の気持ちに対しての配慮が感じられません」


 スカーレットのことをこれっぽっちも考えていなかったのだろう。ウィリアムは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「それに、貴方と彼女の問題ではないでしょう。貴方と私の結婚は、ホワイトフィールドとランチェスターの問題です。貴方が決めることではありません」

「だが私が公爵だ!」

「ええ、存じております」


 スカーレットは一息つく。


「だからこそ、理解していないことが問題なのですよ」


 ここまで公爵家を支えてきたつもりだったが、自分の献身は何一つ伝わってないようだと、スカーレットは悟った。


「そうですか。わかりました。ところでこのことは先代にお伝えになっていますの?」

「いや、まだだが?君に許可を得ないことには離縁などできないだろう?君に話を通す方が先ではないか」


 どのような経緯で婚姻が結ばれたのか、忘れてしまったのだろうか? それとも理解をしていないだけなのだろうか。これ以上みじめな思いをするのはごめんだとスカーレットは立ち上がった。


「では、お別れの挨拶がてら私からお伝えします。婚姻が解消されるわけですから、それに対する持参金の返還並びに精算が発生することはご理解くださいませ」

「ん? あ、ああ。そうか。任せたよ。では早めに出て行ってくれ。彼女を早く迎え入れたいんだ」


 スカーレットは浮足立っているウィリアムを冷ややかに見つめた。



(これが終わりの始まりとも知らないなんて……)






「あの方は、本気で仰ってるのね……」


 頬杖をつきながらのスカーレットの呟きに、執事のフランクは苦笑いするしかなかった。


「奥様、荷物はこちらでよろしかったでしょうか?」


 スカーレット付きの侍女セシリーはせっせと準備を進めていた。


「セシリー、もう奥様ではないわ。名前で結構よ」


 スカーレットは片付いた私室を見回した。


「セシリー、貴重品はしっかり持ったわね?」

「はい」


 セシリーの手元の鞄を確認したスカーレットはフランクに向き合う。


「フランク、大変でしょうが、私は今から出ようと思うわ。セシリーは侯爵家から連れてきた侍女だからまた連れて帰るわね」


「はい。スカーレット様におかれましては、本当にお疲れ様でございました。大変お世話になりました」


フランクは深々と頭を下げる。


「ほかの者も連れていきたいけれどそうもいかないから、でも、もし困っているものがいたら一報頂戴。仕事を斡旋してあげることはできると思うの」

「何から何までご配慮いただきありがとうございます」

「先代には連絡してくれた?」

「はい。先ぶれをお出ししました。直接お寄りになるのですか?」

「ええ。私はランチェスターの本邸ではなく別邸に身を移そうと思っているの。そこへ向かうついでですから。忙しくなるだろうけど、よろしくねフランク」


 フランクは再度深くお辞儀した。


お読みいただきありがとうございます。

次回から本編が始まります。

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