ひとつ減った名前
共同防衛評議会の法務官、尾関貴和は、冷域九の退避者名簿を照合していた。第一便に乗った人の欄から、一人の名前が消えていた。受入れ記録の入力時に、似た名前の二人を一つにまとめてしまったという。
「見つかったんですか」
申請に来た男性が聞いた。消えた名前は彼の妹だった。
貴和は決して『見つかった』とは言わなかった。船に乗った記録はある。霧生四へ降りた記録は別の名義になっている。本人を確認する必要があった。
保安主任の久住律へ照会すると、該当する女性が医療区画で治療を受けている可能性が出てきた。だが病室の記録には姓しかなく、本人の意識もまだ戻っていなかった。
貴和は男性へ現状を説明し、直接面会する手続きを整えた。
「間違いだったら、どうしましょう」
男性が問う。
「間違いなら、次に探す場所を調べます」
二人は通信越しに病院の返事を待った。しばらくして、女性が目を覚ましたという知らせが来た。名前と家族の呼び方が一致する。貴和はやっと『ご本人です』と伝えた。
兄は妹が別の名義で登録された事情を聞いたが、誰も責めなかった。
医療区画からは、女性が意識を取り戻したあと、故郷の住所を何度も言っていたと報告があった。貴和は兄へそれを伝えた。故郷へ戻れる道があるかは分からない。兄は『今は会いたい』とだけ答えた。貴和は面会用の通信時間を確保するよう病院へ頼んだ。事務室の端末から家族が顔を見合わせたとき、彼はそっと席を外した。自分がそこにいる必要はなかった。
書類上の一人が戻っただけではない。どこかの家族の夜が少し変わった。貴和は重複した記録をそのまま訂正履歴へ残した。




