議場の静けさ
共同防衛評議会で、冷域九への二便目を支援する案が議題となった。書記官の榊原千景は、発言者の名前を記録し続けていた。救援の必要性を疑う者はいない。しかし護衛戦力を出せば、ほかの航路が手薄になる。
「現地に残る人数は確定していますか」
議員が尋ねた。千景が示せたのは、最後の通信時点の数字だけだった。新たな事故が起きたかどうかは分からない。
別の議員は、真珠艦隊の再出現を待つべきだと言った。議場がざわめく。議長はすぐ結論を出さず、根拠を問うた。
「出現の条件を示す資料はありますか」
答えはなかった。千景はその沈黙も議事録へ残した。
結局、評議会は人類側で用意できる無人補給と監視の支援を決めた。護衛艦の派遣については、修理の進捗を見て再審議することになった。
採決が終わっても、議場には勝利の空気などない。ひとつの採掘拠点へ物資を届けるだけでも、何隻もの船と港の協力が必要だった。
議場の外には、救難信号の更新を待つ職員が並んでいた。千景は採決結果を口頭でも伝え、これから送る物資の内訳を確かめてもらった。
出席できなかった辺境の代表へ、決議と反対意見の双方を送る手配もした。
真珠艦隊を待つという提案の議員は、採決後に千景へ文書の訂正を申し出た。自分は救援を拒んだのではなく、人命を守る方法を探したかったと言う。千景はその意図を確認し、発言の原文は残すと伝えた。議事録は誰かを悪者にするためのものではない。後日、なぜその判断が行われたかを確かめるための記録だった。議員は少し黙り、訂正しないことに同意した。
千景は決議文を冷域九へ送るよう手配した。反応があるかは分からない。それでも決まったことは、まだ待っている人へ伝える必要があった。




