壊れた秒針
冷域九の保守員、柴野誠は、地下避難室の時計が遅れていることに気づいた。壁にかけた古い時計と生命維持装置の制御時刻が、少しずつ離れている。
「どちらが正しいんですか」
子どもが聞いた。柴野は端末を開き、霧生四からの最後の通信時刻を確かめた。時差と遅延を含めて補正すると、壁の時計のほうがずれていた。
避難室では、次便の到着予定を時間で伝えている。時計が違えば、待つ人々は余計に不安になる。柴野は時刻の基準を一つに統一し、故障した時計を外した。
少女が少し寂しそうにした。古い時計は採掘場ができた頃からあり、出発する家族がその前で写真を撮ったものだという。
「捨てないよ」
柴野は時計の裏に点検札をつけ、荷物棚へ置いた。
外からは、無人補給器が中継点へ近づいているという知らせが来た。発信時刻は補正した時計で読めるようになった。何時間後に物資が届くかは依然として不明だが、みんなが同じ数字を見られる。
子どもたちは直った時計ではなく、同じ時刻を指す灯をしばらく見ていた。
壁の時計を持って行くとき、子どもたちは針を外してほしいと頼んだ。柴野は危ないからと断り、代わりに時計を透明な箱へ入れた。避難するとき一緒に持ち出せるようにするためだ。子どもは箱を運ぶ係になり、真面目な顔で置き場所を探した。わずかな荷物にも運ぶ順番をつけなければならない。柴野は軽い箱を最後の便に回し、人が乗るスペースを優先した。
柴野は次の当直へ引き継ぎ、空気の残量を確認した。時間を直しても空気は増えない。それでも焦る理由を一つ減らせたことに意味があった。




