途切れた帰路
『星渡』の航路士、浅海朔は、冷域九までの航路図から一本の線を消した。無人補給器が戻した情報では、中継標識の位置が古い図と合わない。船を出す前に確かめるべきだった。
「標識の故障ですか」
浦上船長が尋ねる。朔は画面の数字を示した。標識から受けた信号は正しい形式だが、測定した位置が不自然だった。発信装置だけが移動した可能性もある。
朔は監視員の秋元莉央へ問い合わせ、過去の記録を取り寄せた。標識は冷域九の採掘船によって一度移設されていた。変更通知が途中の中継港で止まっていたらしい。
「事故ではなかったんですね」
若い操縦士が安堵した。朔は首を横に振る。
「古い地図で出れば、事故になるところだった」
彼は新しい位置を航路へ反映し、帰投時の確認点も追加した。船長は作業を見届け、冷域九へ更新情報を送った。
現地からの返事は短かった。『受領。補給器待機』。朔はそれを保存した。
朔は遅れて届く船からの通信も照合した。航路を変えるなら、現場の操縦士にも理由を伝えなければならない。彼は地図の誤りを発見した時刻と、それを共有した時刻を別に記した。どちらも次の航海で役に立つ数字だった。
古い線を消したあと、朔は別の船へも更新を送った。ほかの航路士が同じ誤った図を使っているかもしれない。受領確認が返らない宛先は、そのまま未確認の一覧へ残した。地図を直すのは一人でも、更新を届けるには多くの手が必要だった。機関長から次の出航に向けた燃料計算が届くと、朔は少しだけ短くなった安全帯を見つめ、必要な量を改めて計算した。
誰も敵の姿を直接見ていないのに、地図の小さな誤差が人を遠ざける。赤い脈動だけが危険ではなかった。朔は線を引き直し、誤った線も参照用の欄へ残した。




