空白の帰投線
冷域九の指揮官、津久井怜は、第一便の到着通知を受け取った。七隻はすべて霧生四へ着いた。しかし航路の途中には赤い反応が増え、帰りの安全が分からない。
「今すぐ呼び戻さなければ、残る人は」
副官が言いかける。津久井は遮らなかった。彼も同じことを考えている。けれど危険な宙域へ帰還を命じれば、七隻を丸ごと失うかもしれない。
霧生四から提案が届いた。中間地点に無人補給器を配置し、退避艇が燃料を節約できる航路を探るという。ただし無人機の到達を確かめる時間が必要だ。
津久井は地下避難室へ行き、待つ人々に説明した。出航の見込みはある。今すぐではない。理由を隠さず話した。
「私たち、ここで死ぬんですか」
年配の女性が尋ねた。
「そう決まったわけではありません」
津久井は答えた。希望を約束する言葉ではない。それでも確定していない未来を、先に閉じてしまうわけにはいかなかった。
副官は避難者の名簿を端末だけでなく紙にも写していた。津久井はその紙を受け取り、次の当直に渡す箱へしまった。
副官は冷域九に残る人数と、地下区画の空気量を一覧にして渡した。津久井はそこへ『想定外の故障』という欄を加えた。計画が正確でも、設備が壊れる日を指定することはできない。彼は予備電池の使用順序を決め、情報が途絶えた場合の連絡手段を確かめた。自分の名が最終便の名簿にないことを、誰かに英雄的な決断だと言われたいわけではなかった。
外では観測窓に赤い光が映ったという。津久井は警備員に方角と時刻を記録させ、住民のいる区画の扉を点検した。向こう側のことは見えなくても、内側でできる備えは残っていた。




