検査を終えた艇
霧生四の整備班で、葛城修は救援への参加を申し出た。自身の護衛艇は計器が不安定だったが、簡易測定器の取り付けが終わっている。整備員は出撃より先に試験運転を求めた。
修は文句を言わず、港内を低速で二周した。燃料計の揺れは小さくなったものの、加速時には再び数値が跳ねる。整備員は『帰還を保証できない』と報告書に記した。
「じゃあ、遠くへ出られないんですか」
修が聞くと、整備員は少し考えた。
「遠くへは出さない。港の外までなら案内できるかもしれません」
冷域九から戻る退避艇は、霧生四の入港路を知らない者が多い。近距離だけ先導する役目なら、小型艇にもできる。
修はその役を引き受け、緊急時には即座に引き返す条件へ署名した。任務が小さくなったことを悔やむ気持ちはあったが、無理をして救われる人が増えるわけではない。
任務を終えると修は整備甲板へ戻り、燃料計の異常が再発していないか確認した。無事に戻ったことも、次の検査を省く理由にはならない。
誘導灯には夜間用の予備電源があり、修は作動することを確かめた。遠方から来た艇の操縦士たちは、港の灯りの配置を知らない。修は通信の言葉を短くし、同じ指示を二度繰り返すのを避けた。間違いが起きた場合には、その場で修正できるだけの距離を保つ。最後尾の艇が岸へ近づいたとき、整備員たちは黙って通路を開けた。帰り着いた人にまず必要なのは歓迎ではなく、降りる場所だった。
夕刻、港の外で遠い灯が七つ見えた。修は手元の進路計を確かめ、一隻ずつ入港路へ導いた。先頭の艇からは、疲れきった操縦士の声が届いた。『灯りが見えます』。修は『こちらも見えている』と返した。




